著者
阿部 豪 三好 英勝 佐鹿 万里子 中井 真理子 島田 健一郎 上田 一徳 富樫 崇 池田 透 立澤 史郎 室山 泰之
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.257-263, 2011 (Released:2012-01-21)
参考文献数
15

エッグトラップはアライグマ捕獲に有効な罠だが,保定・回収の際に作業従事者が攻撃を受ける,アライグマにストレスがかかるなどの問題点も指摘されている.そこで本研究では,エッグトラップで捕獲されたアライグマが自発的に回収箱に潜り込むように,内部を暗くした専用の誘導型回収箱を設計し,捕獲個体を円滑にかつ安全に回収する方法を開発した.本研究では,市販の容器に黒の塗料を塗布したタイプAと,北海道で最も普及率の高い箱罠に黒の覆いをかけて内部を暗くしたタイプBの2種類の回収箱を製作し,エッグトラップで捕獲されたアライグマ60頭(オス24頭,妊娠メス8頭,非妊娠メス28頭)の回収を試みた.試験では,タイプAで8頭,タイプBで52頭の回収を行ったが,捕獲個体が極端に興奮するなどの理由により回収に時間がかかった3例をのぞき,すべて60秒以内に回収することができた.60秒以内に回収できた57個体の平均回収時間(±SD)は,14.5(±11.1)秒で,回収箱のタイプや保定状況,性別による回収時間に差は見られず,この方法が多様な対象や捕獲状況に適用可能であることが示唆された.回収箱の大きさや材質などによって回収時間に差が見られなかったことから,誘導型回収箱に必要な要件は,アライグマが身を隠すのに十分な広さと暗い空間である可能性が示唆された.また,既存の箱罠に覆いをかけただけの簡易な回収箱でも十分機能することが明らかとなり,回収した個体の処分について,通常の箱罠捕獲と同様の対応が可能なことが示された.
著者
中井 真理子 山下 國廣 福江 佑子 池田 透
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.128, 2013 (Released:2014-02-14)

特定外来生物アライグマの防除では,根絶に向けた低密度状況下における捕獲が課題となっている.本研究では,アライグマの痕跡の確認手段として,アライグマ探索犬の育成を試みた(2009年開始).動物の探索に特化する狩猟犬種群から甲斐犬を選び,行動学と学習理論に基づいたモチベーショントレーニングを採用した.今回の試験は,探索犬とハンドラー(犬の反応を読み取り指示を出す者)の能力確認を目的とした.捕獲したアライグマに VHF発信器を装着し,ラジオテレメトリー法により日中の位置を記録した.探索中の記録はボイスレコーダーと動画撮影で行い,インストラクター(訓練の指導者)とハンドラーの発言の違いを比較した. 夏季の探索試験は,2012年 7月の連続する二日間(アライグマの位置は同じ)に実施.現場は農地に隣接する針広混交林の林縁部で,林床は 100cm前後の草本類が密生する場所.一日目は一部でアライグマ臭気特有の行動が見られたが,ハンドラーの判断ミスで体力を消耗させたため,終了した.二日目は前日に反応を示した谷から絞り込み,朽木根元の樹洞に吠えて告知した.冬季の探索試験は,2012年 12月一日間に実施.現場は積雪約 40cmの平坦な農地で,民家が点在する場所.倉庫群周辺で動きが速くなり,発信音を確認した倉庫の風下で吠えて告知した. 探索犬は,野生アライグマの臭気を敏感に感知できた.ハンドラーは探索犬の反応を観察していたが,時々刻々と変化する風向きや地形などから臭気の流れを推測し的確に探索範囲を選ぶ判断力と経験に不足する部分があった.現場での活動には探索犬とハンドラーのペアが経験を積むことが重要である.また,気温が高いと体力消耗が早い点や探索の障害物となる植物の茂りの点などを考慮して探索計画を立てることで,より効率よく探索できると予想される. なお,本研究の一部は平成 23~ 25年度環境省環境研究総合推進費により実施された.