著者
伊藤 萌林 佐鹿 万里子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.103-108, 2023 (Released:2023-02-09)
参考文献数
26

北海道大学札幌キャンパス内に設置した自動撮影カメラによって,オニグルミJuglans mandshuricaの種子を地面に貯食し,それを積雪下から回収するエゾリスSciurus vulgaris orientisの行動を記録した.エゾリスは2021年12月16日に非積雪状態で貯食したオニグルミの種子を,23日後の2022年1月8日に21 cmの積雪下から回収した.本観察事例ではエゾリスは嗅覚や視覚記憶を使っておらず,エゾリスが貯食物の探索に空間的記憶を重視していることが示唆された.また,貯食行動から回収行動までの23日間にわたって,貯食場所を再確認することがなかったにも関わらず,迷うことなく貯食場所に到達したことは,エゾリスが精度の高い記憶能力を持つことを示唆する.
著者
阿部 豪 三好 英勝 佐鹿 万里子 中井 真理子 島田 健一郎 上田 一徳 富樫 崇 池田 透 立澤 史郎 室山 泰之
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.257-263, 2011 (Released:2012-01-21)
参考文献数
15

エッグトラップはアライグマ捕獲に有効な罠だが,保定・回収の際に作業従事者が攻撃を受ける,アライグマにストレスがかかるなどの問題点も指摘されている.そこで本研究では,エッグトラップで捕獲されたアライグマが自発的に回収箱に潜り込むように,内部を暗くした専用の誘導型回収箱を設計し,捕獲個体を円滑にかつ安全に回収する方法を開発した.本研究では,市販の容器に黒の塗料を塗布したタイプAと,北海道で最も普及率の高い箱罠に黒の覆いをかけて内部を暗くしたタイプBの2種類の回収箱を製作し,エッグトラップで捕獲されたアライグマ60頭(オス24頭,妊娠メス8頭,非妊娠メス28頭)の回収を試みた.試験では,タイプAで8頭,タイプBで52頭の回収を行ったが,捕獲個体が極端に興奮するなどの理由により回収に時間がかかった3例をのぞき,すべて60秒以内に回収することができた.60秒以内に回収できた57個体の平均回収時間(±SD)は,14.5(±11.1)秒で,回収箱のタイプや保定状況,性別による回収時間に差は見られず,この方法が多様な対象や捕獲状況に適用可能であることが示唆された.回収箱の大きさや材質などによって回収時間に差が見られなかったことから,誘導型回収箱に必要な要件は,アライグマが身を隠すのに十分な広さと暗い空間である可能性が示唆された.また,既存の箱罠に覆いをかけただけの簡易な回収箱でも十分機能することが明らかとなり,回収した個体の処分について,通常の箱罠捕獲と同様の対応が可能なことが示された.
著者
佐鹿 万里子 森田 達志 的場 洋平 岡本 実 谷山 弘行 猪熊 壽 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 = Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.125-128, 2009-10

An immature male raccoon (Procyon loter) with severe mange was captured at Kita-Hiroshima City, Hokkaido, Japan, on February 2005. The severe alopecia and crusting lesion were found on dorsal side of the raccoon, and mites obtained from the lesion were identified as Sarcoptes scabiei by both morphological and molecular biological methods (2nd internal transcribed spacer: ITS-2). The present case is the first record of mange caused by S. scabiei from free ranging raccoons in Japan. 2005年2月,北海道北広島市にて腰部から尾部にかけ著しい脱毛と痂皮を形成したアライグマProcyon lotor雄幼獣一個体が捕獲され,当該病変部から多数の小型ダニ類が検出された。形態および 2nd internal transcribed spacer (ITS-2)の塩基配列から,これらのダニ類はSarcoptes scabieiと同定された。本症例は日本産アライグマのS. scabieiによる疥癬の初報告となった。
著者
阿部 豪 青柳 正英 的場 洋平 佐鹿 万里子 車田 利夫 高野 恭子 池田 透 立澤 史郎
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.169-175, 2006-12-30
被引用文献数
1

箱ワナによる外来アライグマ捕獲における諸問題である 1)他動物の錯誤捕獲,2)小動物による餌の持ち逃げや誤作動,3)トラップシャイ個体の存在,4)捕獲個体によるワナの破壊と逃亡,5)ワナの購入・運搬・管理に係るコスト高などの改善を図るため,アライグマ捕獲用に開発されたエッグトラップ7個を用いて試用捕獲(200 trap nights)を行った.その結果,野生個体としては高齢のアライグマ2頭(5歳オス,6歳メス)をいずれも無傷で捕獲した.捕獲期間中に錯誤捕獲は1例もなく,また誤作動は本体内部が破損した1例だけだった.さらに,鉄杭にワナを吊るす設置法では,他動物による餌の持ち逃げも確認されなかった.今回の結果から,エッグトラップは一般的な箱ワナに比べて小型軽量,安価で,メンテナンスも容易であるため,箱ワナに代わるか,もしくは箱ワナとの併用によって,より捕獲効率を高めうる捕獲用具になる可能性が示唆された.
著者
阿部 豪 青柳 正英 的場 洋平 佐鹿 万里子 車田 利夫 高野 恭子 池田 透 立澤 史郎
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.169-175, 2006 (Released:2007-02-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2

箱ワナによる外来アライグマ捕獲における諸問題である 1)他動物の錯誤捕獲,2)小動物による餌の持ち逃げや誤作動,3)トラップシャイ個体の存在,4)捕獲個体によるワナの破壊と逃亡,5)ワナの購入・運搬・管理に係るコスト高などの改善を図るため,アライグマ捕獲用に開発されたエッグトラップ7個を用いて試用捕獲(200 trap nights)を行った.その結果,野生個体としては高齢のアライグマ2頭(5歳オス,6歳メス)をいずれも無傷で捕獲した.捕獲期間中に錯誤捕獲は1例もなく,また誤作動は本体内部が破損した1例だけだった.さらに,鉄杭にワナを吊るす設置法では,他動物による餌の持ち逃げも確認されなかった.今回の結果から,エッグトラップは一般的な箱ワナに比べて小型軽量,安価で,メンテナンスも容易であるため,箱ワナに代わるか,もしくは箱ワナとの併用によって,より捕獲効率を高めうる捕獲用具になる可能性が示唆された.
著者
佐鹿 万里子 森田 達志 的場 洋平 岡本 実 谷山 弘行 猪熊 壽 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.125-128, 2009 (Released:2018-05-04)
参考文献数
16

2005年2月,北海道北広島市にて腰部から尾部にかけ著しい脱毛と痂皮を形成したアライグマProcyon lotor雄幼獣一個体が捕獲され,当該病変部から多数の小型ダニ類が検出された。形態および2nd internal transcribed spacer(ITS-2)の塩基配列から,これらのダニ類はSarcoptes scabieiと同定された。本症例は日本産アライグマのS.scabieiによる疥癬の初報告となった。
著者
佐鹿 万里子 阿部 豪 郡山 尚紀 前田 健 坪田 敏男
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.256, 2013 (Released:2014-02-14)

【背景】近年,エゾタヌキ Nyctereutes procyonoides albusの地域個体数減少が報告されており,この原因として疥癬やジステンパーなどの感染症や外来種アライグマの影響が考えられているが,その原因は明らかとなっていない.そこで本研究では,エゾタヌキ(以下,タヌキとする)を対象に,ホンドタヌキで集団感染死が報告されているイヌジステンパーウイルス(Canine distemper virus:以下,CDVとする)について疫学調査を行った.【材料と方法】調査地域は,2002~ 2004年に重度疥癬タヌキが捕獲され,さらにタヌキ個体数減少も確認されている北海道立野幌森林公園を選定した.2004~ 2012年に同公園内で捕獲されたタヌキ 111頭において麻酔処置下で採血を行うと同時に,マイクロチップの挿入と身体検査を行った.血液から血漿を分離し,CDVに対する中和抗体試験を行った.【結果】CDVに対する抗体保有率は 2004年:44.4%,2005年:8.3%,2006年:14.3%,2007年:11.1%,2008年:7.7%,2009年:54.5%,2010年:8.3%,2011年:0%,2012年: 0%であった.また,同公園内では 2003年に 26頭のタヌキが確認されたが,2004年には 9頭にまで激減し,その後,2010年までは 10頭前後で推移していた.しかし,2011年は 18頭,2012年には 16頭のタヌキが確認され,タヌキ個体数が回復傾向を示した.【考察】抗体保有率は 2004年および 2009年に顕著に高い値を示したことから,同公園内では 2004年と 2009年に CDVの流行が起きた可能性が示唆された.また,2002~ 2004年には,同公園内で疥癬が流行していたことが確認されているため,同公園内では CDVと疥癬が同時期に流行したことによってタヌキ個体数が減少したと考えられた.
著者
平川 浩文 木下 豪太 坂田 大輔 村上 隆広 車田 利夫 浦口 宏二 阿部 豪 佐鹿 万里子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.155-166, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

北海道における在来種クロテンMartes zibellinaと外来種ニホンテンM. melampusの分布の現状を明らかにするために,2000年から2015年にかけて生息記録を収集した.その結果,ニホンテンは北海道の南西部,クロテンはそれ以外の地域に広く分布していることが明らかとなった.二つの分布地域の間には石狩低地帯(石狩湾から太平洋にかけて帯状に延びる平野部)があり,クロテンの記録は石狩低地帯内の3地域でも得られた.ただし,この3地域とも石狩低地帯中心部を流れる河川を基準としてすべて低地帯の西側に位置した.今回の結果に数例の古い生息記録を合わせて,次のことが推察された.1)ニホンテンはクロテンを駆逐しながら分布を拡大したこと,2)石狩低地帯の分水嶺より南側では,低地帯の西縁部にニホンテンがまだ到達していない可能性があるが,そうであったとしても到達は間近であること,3)今後,石狩低地帯の分水嶺より南側ではニホンテンが低地帯を超えて,さらに分布拡大が進む可能性があること.