著者
永谷 元基 中井 英人 井上 雅之 荒本 久美子 林 満彦 佐藤 幸治 杉浦 一俊 清島 大資 鈴木 重行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0767, 2004 (Released:2004-04-23)

【目的】我々は第28回日本理学療法学術大会において、しゃがみ動作の可能・不可能の違いについて3次元動作解析装置を使用し、可能群は足関節背屈可動域が大きいため、重心の前方移動が容易となりしゃがみ動作が可能になることを考察した.しかしながら、可能群においても少数ではあるが、重心が後方にあるにもかかわらずしゃがみ動作が可能となった者もいた.そこで今回しゃがみ込み動作時における重心移動の違いが下肢関節角度、下肢関節モーメントにどのように影響するかについて、3次元動作解析装置を用い比較検討したので報告する.【方法】対象は、今回の実験に同意の得られた下肢に既往がないしゃがみ込み可能な健常青年30名(男性16名、女性14名)とした.被験者は左右独立式床反力計(アニマ社製MG1120)の上にそれぞれ裸足で乗り、足底全接地にて両側足底内側縁が触れる状態で、平行に立ち、肩関節90°屈曲、内旋位、肘関節伸展位にて前方を注視した.検者の合図により約3秒間でしゃがみ込み動作を行わせた.三次元動作解析装置(アニマ社製Locus MA6250)を用い、肩峰、大転子、肩峰と大転子を結ぶ線と第6肋骨、第12肋骨、腸骨稜の水平面との交点、外側上顆、外果、第5中足骨頭の計8カ所に赤外線反射マーカーを付け、しゃがみ込み動作をサンプリング周波数60Hzにて計測した.しゃがみ動作終了を床反力垂直成分(Fz)とスティックピクチャーより求め、これらより足圧中心(COP)がしゃがみ込み終了後に足関節軸より前方にある者(前方群)と常に後方にある者(後方群)との2群に分け、動作中の各関節角度変化、股、膝、足関節モーメントについて2群間で比較検討した. 統計にはMann-WhitneyのU検定を行い、 危険率5%未満を有意な差とした。【結果】2群の内訳は前方群16名、後方群14名であった.関節角度において上部体幹伸展角度では前方群に比べ後方群で有意に小さかった.骨盤後傾角度は前方群に比べ後方群で有意に大きかった.足関節背屈角度は後方群で小さく、股関節屈曲角度は後方群で大きくなる傾向が見られた.下肢各関節モーメントでは足関節背屈モーメントは前方群に比べ後方群で有意に大きく、足関節底屈モーメントは前方群に比べ後方群で有意に小さかった.【考察】後方群は重心が下降する間に、下肢各関節で重心を前方移動出来ないため骨盤の後傾により体幹の前屈を容易にすることで重心の前方移動を助長し、更に重心が後方にあるため膝伸展モーメントが必要になると考えた.しかし今回の結果では、膝関節伸展モーメントに有意差は認められず、足関節背屈モーメントにおいて後方群で有意に大きい値を得た.これらのことより、後方群のしゃがみ込み動作において大腿四頭筋筋力は影響せず、前脛骨筋筋力と骨盤の後傾による体幹の前屈によって重心の前方移動を助長することで可能になると考えられた.
著者
井上 雅之 中井 英人 永谷 元基 清島 大資 佐藤 幸治 林 満彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.632, 2003 (Released:2004-03-19)

【はじめに】下肢骨折や骨関節疾患などの術後患者に対する理学療法において,段階的な歩行獲得を図るために部分荷重訓練が必要であり,多くの施設で施行されている.しかし訓練後の不適切な荷重は,治癒過程の阻害や再骨折などを引き起こす恐れがあり,治療スケジュールの遅延につながる為,効果的な荷重コントロールが行われなければならない.そこで今回,下肢部分荷重訓練装置を使用して動力学的な部分荷重訓練を実施した後,床反力計を用いて時間の経過に伴う荷重量の変化を測定し,短時間における学習効果や訓練の有効性について検討したので報告する.【対象】下肢に障害の既往のない健常成人20名(男性12名,女性8名),平均年齢25.6±4.1歳,平均身長169.8±9.0cm,平均体重65.5±17.1kgであった.【方法】歩行形態は片松葉杖,2/3部分荷重による2動作歩行とし,測定前に部分荷重訓練装置(アニマ社製MP-100)を用い,20分の部分荷重訓練を実施した.装置の目標値を体重の2/3に設定し,目標値を超えた場合には警告音で知らせ,聴覚からのフィードバックを与えた.また、全ての被験者が時間内に2/3部分荷重を獲得したことを確認後,測定を開始した.被験者は左右独立式床反力計(アニマ社製MG-1120)上を初回,15分後,30分後,45分後,60分後の計5回歩行し,各測定間の休憩は15分間の椅子坐位とした.各回の踵接地期(以下HC),立脚中期(以下MSt),つま先離地期(以下TO),各回における最大の荷重量(以下最大値)の4項目の荷重量を測定し,目標値に対する荷重量の割合の平均値を算出した.なお,統計学的処理は反復測定分散分析を行った後,FisherのPLSDを用い,有意水準は5%未満とした.【結果】初回と60分後の比較では,HC,MSt,TO,最大値のいずれも荷重量が減少していたが,HC,最大値においては有意差はみられなかった(p>0.05).また初回のHC,最大値を除く全ての回において,荷重量は目標値を下回っていた.HC,MSt,TOの荷重量は,初回から60分後までのいずれにおいてもHCが最も大きく,次いでTO,MStの順であった。【考察】今回の測定結果から,訓練後1時間以内では荷重量は目標値を大きくは超えないことが明らかとなり,部分荷重訓練の短時間における学習効果が認められたが,これには部分荷重訓練装置の聴覚へのフィードバック効果の影響があったのではないかと考えられる.また,清島らによると,理学療法士の最も多くが部分荷重の許容できる誤差範囲を±10%以内と考えている,と報告しており,今回の結果は1時間以内における荷重量と目標値との誤差が,実際にこの範囲内であることも示した.しかしHC,最大値では一度荷重量が減少し,60分後に再び増加する傾向がみられたことから,数時間後あるいは数日後といった長時間における学習効果についての検討の必要性が示唆された.
著者
中井 英人 荒本 久美子 澄川 智子 長谷川 美欧 鳥山 喜之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O1025, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】当院では腰椎変性疾患に対し大きく分けて固定術と、固定を行わない除圧術を合わせて年間300件程実施している.固定術術後にはモールドジャケット型TLSOの硬性コルセットを、また除圧術にはダーメンコルセットを装着し離床となる.我々は術後体幹装具装着により、術創部の安定化と保護作用があるものの、周囲筋力低下と運動制限に影響を及ぼすと報告した.また臨床において術後数日しても歩行、動作時ふらつく例があり、その要因として様々あるものの、このふらつきは体幹装具によるバランスへの一要因があると考えたが、体幹装具装着とバランスとの関係を示した文献は散見しない.そこで今回健常成人を被験者とし、体幹装具装着によるバランスの影響を調査し若干の知見を得たので報告する.【方法】対象は腰下肢痛がなく、腰椎、下肢および耳鼻科的に既往のない健常成人24人(男性9人、女性15人、平均年齢25.0±3.6歳、平均身長163.6±8.2cm、平均体重57.5±11.4kg、平均BMI21.4±2.8)であった.全被験者に硬性コルセットとしてモールドジャケット型TLSO装着(以下条件H)、軟性コルセットとしてダーメンコルセット装着(以下条件S)、コルセット非装着(以下条件N)の3条件をランダムに行い、動的バランスと静的バランスの2種類のバランス検査を行った.各条件にて5分経過後動的バランス、静的バランスの順で検査を実施し、前条件の影響をなくすため10分間休息をいれて次の条件へと移った.動的バランスにはFunctional Reach Test(以下FRT)を用い、Duncanらの方法に基づいて、前方および側方最大移動距離を測定した.測定は裸足閉足にて行い、開始肢位は前方では上肢は床と水平になるように肩関節屈曲、肘関節伸展、前腕回内、手指中間位とし、側方では肩関節外転、肘関節伸展、前腕回内、手指中間位とした.移動時の上肢高は任意とし、踵離地しないように最大移動距離到達後、開始位置まで戻るよう説明した.測定は前方、側方とも左右両上肢に実施した.静的バランスには重心動揺計グラビコーダー G-620(ANIMA社製)を用い重心動揺測定を実施した.測定方法は、裸足閉足立位、上肢は体側に自然下垂させ2m前方の指標を注視し開眼、閉眼それぞれ60秒間計測とした.検討項目はFRTにおける前方、側方左右移動距離の平均値を求め、さらに身長、年齢等の個人的影響を避けるため、各条件データを条件Nデータで正規化した値および重心動揺における開眼、閉眼の外周面積、単位軌跡長、単位面積軌跡長、各中心変位、ロンベルグ率、各軌跡長、各位置ベクトル、各速度ベクトルとし、3条件で比較検討した.統計学的処理には分散分析を行った後にFisherのPLSDを行い、有意水準を5%とした.【説明と同意】全対象者には研究の趣旨を十分に説明し、参加に同意を得られた者に実施した.【結果】FRTにおける前方平均移動距離は条件Hでは33.4cm、条件Sでは35.2cm、条件Nでは36.6cmで、条件Nは条件Hより有意に大きく、側方平均移動距離は条件Hでは14.0cm、条件Sでは14.8cm、条件Nでは16.8cmで、条件Nは他の2条件より有意に大きかった.重心動揺における開眼前方平均速度ベクトルにおいて条件Sは他の2条件より有意に大きく、開眼後方平均速度ベクトルにおいて条件Sは条件Nより有意に大きかった.また前後変位、位置ベクトルにおいて条件Sは条件Nより小さい傾向にあった.【考察】本来体幹装具は姿勢矯正、体幹支持、動作制限、外部からの保護、体幹筋の補助作用、体幹安静等の役割があり、またその役割が悪影響を与えることもある.モールドジャケットは体幹屈伸、側屈、回旋を強く制限し、姿勢矯正と体幹支持の役割をしている.ダーメンコルセットは屈伸、側屈、回旋を制限し、腹圧を高くし、弱い体幹支持の役割をしている.FRTの結果より条件Nに比較して条件Hは前方、側方への移動距離がより少ないことは動的バランスが劣っているというより、モールドジャッケットの特性による体幹屈曲、側屈制限が大きな要因と考えた.同様に条件Sの側方移動距離が少ないこともダーメンコルセットによる体幹側屈制限が関与していると考えた.重心動揺計では速度ベクトルが大きいほど速く揺れることを示し、重心動揺の結果より条件Nに比較して条件Sは前方、後方へより速く揺れることから、測定時間を長くすると前後軌跡長等に影響を与える可能性があると考えた.またこの要因はダーメンコルセットによる腹圧上昇が重心を上方へ移動させ不安定となり、さらに腹筋背筋筋力の調整に影響を及ぼしたのではないかと考えた.【理学療法学研究としての意義】体幹装具装着下において体幹の動きが制限されていることが確認でき、術後動作制限のために体幹装具を装着して運動療法を行うことは有用であると再認識できた.またダーメンコルセット装着下では重心動揺に影響を与える可能性がある.