著者
服部 明徳 大内 綾子 渋谷 清子 佐藤 和子 細谷 潤子 中原 賢一 西永 正典 亀田 典佳 土持 英嗣 松下 哲 折茂 肇
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.360-365, 2001-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
7
被引用文献数
3 4

介護負担度に影響する因子を明らかにする目的で, 老年者の問題行動の有無や介護者自身の要因と介護負担度との関連をバーンアウト・スケールを用いて検討した. 対象は当院総合内科に入院した65歳以上の患者のうち, 家族が何らかの介護をしていた73例 (男性31例女性42例, 平均年齢82.7±6.9歳) で, 主たる介護者へのアンケートにより, 患者・介護者の属性や一日の介護時間, 徘徊などの問題行動の有無などを調査した. また, アンケートには Pines のバーンアウト質問項目が含まれ, 計算式からバーンアウト・スコアを算出した. 介護者の属性では, 約3割が配偶者であり, 介護者が高齢であるとバーンアウト・スコアは有意に高値となった (p<0.01). これに加えて介護者自身の健康状態に基づき介護負担を重く感じるほどバーンアウト・スコアは高値となった (p<0.001). 老年者の問題行動のうち, 夜間の介護が必要 (p<0.05), 監視が必要 (p<0.01), そして介護拒否 (p<0.01) があるとバーンアウト・スコアは有意に高値となった. バーンアウト・スコアを説明変数とする重回帰分析では, 老年者の Basic ADL・問題行動・介護者自身の要因のうち介護者自身の健康状態による介護負担, 夜間の介護そして排泄の介助が独立した因子でバーンアウト・スコアの約4割を説明し得た (R2=040: p<0.0001). 介護保険サービスの導入によって, 上記の家族の介護負担を重くしている要因が改善され, バーンアウト・スコアを低下させるか検討することが今後必要である.
著者
中原 賢一 松下 哲 山之内 博 大川 真一郎 江崎 行芳 小澤 利男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.285-291, 1997-04-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
7
被引用文献数
2

剖検例において, 生前には狭心症状を認めなかったにも関わらず, 著しい冠動脈硬化所見を認めることがある. この無症候性の原因として, 高齢者では心病変のみならず, 脳血管障害をはじめ多くの因子の関与が推測される. 本研究では剖検例を用いて高齢者の無症候性に関わる因子, 予後, 診断について検討した.770例の高齢者連続剖検例を母集団とし, 冠狭窄指数 (冠狭窄度は100%もしくは95%を5, 90%を4.5, 75%を4, 50%を3, 25%を2, 狭窄のない石灰化を1, 正常を0. 冠狭窄指数=3枝の合計) を用い, 次の検討を行った. まず心筋虚血をおこすに充分な冠動脈狭窄の条件を決定する目的で, 冠狭窄指数が10以上かつ狭心症のある症例を分析した. 次に心筋虚血をおこすに充分な条件を満たした症例を狭心症の有無で2群に分け, 1) 予後, 2) 心筋病変の差, 3) 脳血管障害の影響, 4) ADL (Activity of daily living) の差, 5) コミュニケーション障害の有無, 6) 糖尿病の有無, 7) 安静時心電図診断を分析した. またコントロール群として冠狭窄指数10未満の例86例を用いた.狭心症を有した31例を検討し, 最大狭窄度は5かつ冠狭窄指数13以上を心筋虚血を起こすに充分な条件と考え, 770例中二つの条件を満たす症例を選出した. その結果狭心症群24例, 無症候群92例が該当し,この2群を比較した. 1) 心筋梗塞が直接死因となったのは狭心症群67%, 無症候群27%で共に死因中最も多かったが, 頻度には差が見られた (p<0.01). 2) 心筋梗塞の発症率および心内膜下梗塞は狭心症群に多く, 下壁梗塞および小梗塞 (2cm未満) は無症候群に多かった. 3) 無症候群には脳血管障害の合併率が高く, 大きさでは中型病変が多かった。4) 無症候群には, ADLの低い症例, コミュニケーション障害例が多かった. 5) 糖尿病の合併率は狭心症群に高かった. 6) 安静時心電図の比較では, 陳旧性心筋梗塞の所見は, 狭心症群に最も多く, 次いで無症候群で, 共にコントロール群に比し多かった. 虚血性ST低下は3群間に差は認められなかった. むしろ無症候群および狭心症群を含めた重症冠動脈疾患群に左室肥大の診断が有意に多かった. 心房細動が無症候群に多い傾向にあった.高齢者においては心病変と共に, 脳血管障害, ADL, コミュニケーション障害が心筋虚血の無症候性に重要な意味を持つことが明らかになった. 高齢者では冠動脈病変はむしろ存在することが普通であり, 特に脳血管障害のある症例では狭心症状の有無に関わらず, 心筋虚血を探知する努力が必要である.