著者
原 明史 宮澤 祥一 鈴木 剛 相田 久美 江崎 行芳
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.1651-1655, 2012 (Released:2012-07-03)
参考文献数
15

症例は85歳,女性.ランソプラゾール内服中に水様性下痢が出現した.大腸内視鏡検査で下行結腸,S状結腸から直腸に縦走傾向を呈する線状の引っかき傷様の所見が存在し,いわゆるcat scratch colonの内視鏡所見を呈していた.生検で粘膜上皮直下にcollagen bandを認め,collagenous colitisと診断.ランソプラゾール中止により臨床症状は速やかに改善した.Cat scratch colonを呈した示唆に富むcollagenous colitisの1例と考えられた.
著者
江崎 行芳 沢辺 元司 新井 冨生 松下 哲 田久保 海誉
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.116-121, 1999-02-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
17
被引用文献数
8 10

「老衰死」の有無を考察するため, 老年者の最高グループである百歳老人 (百寿者) 42剖検症例の死因を検討した. 対象は, 最近までのおよそ20年間に東京都老人医療センターで剖検された男性9例, 女性33例で, この性別比は全国百寿者のもの (1対4) にほぼ一致する.臨床経過や諸検査値を充分に考慮して剖検結果を検討すると, これら42症例の全てに妥当な死因があった. 死因となったのは, 敗血症16例, 肺炎14例, 窒息4例, 心不全4例などである. 敗血症の半数近くは腎盂腎炎を原因としており, 肺炎の多くが誤嚥に起因していた. 悪性腫瘍は16例に認められたが, その全てに前記死因のいずれかがあり, 悪性腫瘍自体が主要死因となったものは1例も存在しなかった.超高齢者では, (1) 免疫機能の低下, (2) 嚥下・喀出機能の低下, が致死的な病態と結びつきやすい. しかし, このことと「老齢であるが故の自然死」とは関わりがない.「老衰死」なる言葉に科学的根拠があると考え難い.
著者
中原 賢一 松下 哲 山之内 博 大川 真一郎 江崎 行芳 小澤 利男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.285-291, 1997-04-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
7
被引用文献数
2

剖検例において, 生前には狭心症状を認めなかったにも関わらず, 著しい冠動脈硬化所見を認めることがある. この無症候性の原因として, 高齢者では心病変のみならず, 脳血管障害をはじめ多くの因子の関与が推測される. 本研究では剖検例を用いて高齢者の無症候性に関わる因子, 予後, 診断について検討した.770例の高齢者連続剖検例を母集団とし, 冠狭窄指数 (冠狭窄度は100%もしくは95%を5, 90%を4.5, 75%を4, 50%を3, 25%を2, 狭窄のない石灰化を1, 正常を0. 冠狭窄指数=3枝の合計) を用い, 次の検討を行った. まず心筋虚血をおこすに充分な冠動脈狭窄の条件を決定する目的で, 冠狭窄指数が10以上かつ狭心症のある症例を分析した. 次に心筋虚血をおこすに充分な条件を満たした症例を狭心症の有無で2群に分け, 1) 予後, 2) 心筋病変の差, 3) 脳血管障害の影響, 4) ADL (Activity of daily living) の差, 5) コミュニケーション障害の有無, 6) 糖尿病の有無, 7) 安静時心電図診断を分析した. またコントロール群として冠狭窄指数10未満の例86例を用いた.狭心症を有した31例を検討し, 最大狭窄度は5かつ冠狭窄指数13以上を心筋虚血を起こすに充分な条件と考え, 770例中二つの条件を満たす症例を選出した. その結果狭心症群24例, 無症候群92例が該当し,この2群を比較した. 1) 心筋梗塞が直接死因となったのは狭心症群67%, 無症候群27%で共に死因中最も多かったが, 頻度には差が見られた (p<0.01). 2) 心筋梗塞の発症率および心内膜下梗塞は狭心症群に多く, 下壁梗塞および小梗塞 (2cm未満) は無症候群に多かった. 3) 無症候群には脳血管障害の合併率が高く, 大きさでは中型病変が多かった。4) 無症候群には, ADLの低い症例, コミュニケーション障害例が多かった. 5) 糖尿病の合併率は狭心症群に高かった. 6) 安静時心電図の比較では, 陳旧性心筋梗塞の所見は, 狭心症群に最も多く, 次いで無症候群で, 共にコントロール群に比し多かった. 虚血性ST低下は3群間に差は認められなかった. むしろ無症候群および狭心症群を含めた重症冠動脈疾患群に左室肥大の診断が有意に多かった. 心房細動が無症候群に多い傾向にあった.高齢者においては心病変と共に, 脳血管障害, ADL, コミュニケーション障害が心筋虚血の無症候性に重要な意味を持つことが明らかになった. 高齢者では冠動脈病変はむしろ存在することが普通であり, 特に脳血管障害のある症例では狭心症状の有無に関わらず, 心筋虚血を探知する努力が必要である.