著者
川瀬 茂実 橋本 義文 中垣 雅雄
出版者
日本蠶絲學會
雑誌
日本蚕糸学雑誌 (ISSN:00372455)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.477-484, 1980

軟化病ウイルス (坂城株) を精製純化し, その核酸, たんぱく質の諸性状を調査した結果, 以下の点が明らかとなった。<br>1) 本ウイルスの核酸は単鎖RNAで, ウイルスRNAのS値は33S, 分子量は2.4×10<sup>6</sup>ダルトン, ウイルスのRNA含有率は28.5%であった。<br>2) 本ウイルスの構成たんぱく質は4種類確認され, それらの分子量はそれぞれ約31,000~32,000 (VP1), 41,000~42,000 (VP2), 49,000 (VP3), および68,000~69,000 (VP4) で, VP1が全たんぱく質の約70%を占める主要たんぱく質であった。<br>3) 以上の結果より, 軟化病ウイルス (坂城株) はピコルナウイルスに属するウイルスで, そのクリプトグラムは〔R/1:2.4/29:S/S:I/O〕と決定した。
著者
小島 友宏 塩見 邦博 石田 裕幸 梶浦 善太 中垣 雅雄
出版者
社団法人 日本蚕糸学会
雑誌
日本蚕糸学会 学術講演会 講演要旨集 日本蚕糸学会第72回学術講演会
巻号頁・発行日
pp.137, 2002 (Released:2004-02-03)

カイコの休眠ホルモン(DH)遺伝子の食道下神経節(SG)における発現はわずか14個の神経分泌細胞に限定される。このようなDH遺伝子の細胞特異的発現調節機構は先に形質転換キイロショウジョウバエで解析され、FXPRLアミドペプチド産生細胞において特異的な発現に関わるシスエレメントが同定された。さらに我々は組み換えAcNPV(rAcNPV)ベクターを用いた迅速かつ簡便なレポーター遺伝子発現解析システムを開発し、カイコ個体でのDH遺伝子の発現解析を進めた(日本蚕糸学会中部支部第57回·東海支部第53回研究発表会にて発表)。こうした解析系を用い今回はシスエレメントの同定を試みた。カイコはN4系統の5齢幼虫、および蛹を用いた。BAC-TO-BACバキュロウイルス発現システム(インビトロジェン)により12種類以上のDH遺伝子上流域を削除したコンストラクトを持つrAcNPVを作製した。rAcNPVをカイコに注射後、SGにおけるEGFPおよびDsRedの蛍光を観察した。その結果、形質転換キイロショウジョウバエで明らかにされたシスエレメントとは異なる領域もDH遺伝子の発現に関わっていることが分かった。
著者
張 袁松 清水 一彦 塩見 邦博 梶浦 善太 中垣 雅雄
出版者
社団法人 日本蚕糸学会
雑誌
蚕糸・昆虫バイオテック (ISSN:18810551)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.1_39-1_46, 2008 (Released:2008-10-06)
参考文献数
18

日本産ジョロウグモ(Nephila clavata)の牽引糸遺伝子のcDNAをクローニングし,その塩基配列を初めて報告した。塩基配列から推定される日本産ジョロウグモ牽引糸タンパク質のアミノ酸配列をカイコのフィブロインH鎖や他のクモ牽引糸のものと比較した。牽引糸の繰り返し配列においてAn,(GA)nやGGX配列など共通の特徴を確認できた。クモ牽引糸タンパク質の繰り返し配列のコドン使用頻度をカイコのH鎖フィブロインと比較すると,同様の傾向があった。しかしながら,親水性と疎水性の分布は両者で大きな違いが見られた。引張り強度試験では,日本産ジョロウグモ牽引糸がカイコ繭糸よりも明らかに強いことが分かった。これらのことから,クモ糸を吐くカイコを作出してカイコH鎖フィブロインをクモ牽引糸タンパク質と置き換えること,あるいは両者の混合糸を作らせることにより,糸の強さや性状の異なる新しいシルクの創出が期待される。