著者
中尾 篤人
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-7, 2021-03-20 (Released:2021-03-20)
参考文献数
20

著者らは,生命活動の約24時間周期性(概日性)のリズムを司る概日時計(時計遺伝子)が,マスト細胞の高親和性IgE受容体(FcεRI)の発現を時間依存的に制御し,アレルゲンによるマスト細胞活性化反応(I型アレルギー)に昼夜の日内変動を生みだしていることを明らかにした.I型アレルギーは花粉症や喘息などのアレルギー疾患の主たる病態であり,この制御機構によってアレルギー疾患の症状は1日のある特定の時間帯(主に休息期)に起こりやすくなると考えられる.実際,ストレスや不規則な食事摂取のタイミングといった概日時計を乱す生活習慣は,I型アレルギー反応の時間依存性を消失させる.またアレルギー疾患の主な治療薬(副腎皮質ホルモン,β2アゴニスト,テオフィリン等)の標的は概日時計に制御されるリズム性発現を示す遺伝子である.これらの知見は,アレルギー反応と概日時計は極めて密接な関係にあることを示している.よってこの関係を考慮することは,より良いアレルギー診療を実現するために不可欠である.
著者
中尾 篤人
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.555-559, 2013-05-30 (Released:2017-02-10)
参考文献数
15
著者
中尾 篤人
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

花粉症や喘息などのアレルギー性疾患を根本的に予防する方法は未だ得られていない。欧米における疫学的な研究から、母乳中に含有するサイトカインの1つであるTGF-βがアトピー性皮膚炎や喘息などの乳幼児のアレルギー性疾患の発症を抑制する可能性が指摘されてきた。しかしながら、経口的に摂取されたタンパク質の多くは、胃酸や消化酵素などによる分解を受けることが知られており、実際に、母乳中あるいは経口的に摂取されたTGF-βが腸管内でその活性を保ちうるのか否か、また活性を保てたとしても本当に免疫系に影響を及ぼすことができるか否か、については、ほとんど明らかになっておらず、それら疫学研究の真偽については不明な点が多かった。我々はこの問題に着目し、経口的に投与したTGF-βが全身免疫系に及ぼす作用について食物アレルギーの動物モデルを使い検討した。その結果、TGF-βの経口投与によって経口アレルゲンに対するIgE抗体産生やアナフィラキシー反応などの食物アレルギー反応がアレルゲン特異的に抑制されることを見出した(Int Immunol 2005、特許申請中、平成17年度本研究成果)。さらに、我々は、野生型マウスやTGF-βシグナルに反応するレポーター遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを使って、経口的に摂取されたTGF-βは腸管内においてその活性を保っており、かつ経口免疫寛容の成立を増強させることを証明した(J Allergy Clin Immunol submitted、平成18年度本研究成果)。これらの知見は、乳幼児や成人の摂る飲食物にTGF-βを含有させるというような簡便な方法によってアレルギー性疾患を効率的かつ根本的に予防し、わが国の保健医療に貢献できる可能性を強く示唆する。
著者
中尾 篤人
出版者
山梨大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

正常時でも血漿中のヒスタミンの濃度は昼夜において変動し、とりわけ夜間に高くアレルギー症状に相関することが示唆されている。しかしその血漿ヒスタミン濃度を調節するしくみはよくわかっていなかった。本研究では、マスト細胞が定常状態において時計遺伝子依存的に自発的かつ概日性にヒスタミン放出を起こし血漿ヒスタミン濃度の日内変動を調節していることを明らかにした。本成果は血漿ヒスタミン濃度を標的としたアレルギー疾患の新しい予防や治療に役立つ。