著者
黒坂 文武 西尾 久英
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.777-786, 2014-12-20 (Released:2015-03-17)
参考文献数
20

学校給食に用いられているうまみ成分であるCandida utilis(CU)を含む給食を喫食し呼吸困難を呈し,血中CU IgE抗体を証明した2症例を経験したので報告する.症例1は7歳,男.小学校入学までは3回の喘息発作があったのみであったが,小学校に入学してから頻繁に喘息発作を繰り返しているために当院に受診した.母親から学校給食のスープのある日の内12回中11回発作が起こっているとの報告があり,スープそのものでprick to prick test(PPT)を施行したところ陽性.症例2は9歳,男.2歳より喘鳴出現するも6-7歳頃には改善していたが,8歳になって学校給食後喉が痒くなり咳き込んで息苦しくなる発作を繰り返すようになり,本人がスープが怪しいと証言したので,PPTを行い陽性であった.2名ともCUに対する特異的IgEを検出し,抑制試験で98.8%以上抑制された.学校給食によると思われるアレルギーの抗原検索には給食そのものによるPPTが有用と思われた.
著者
堀向 健太
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.87-92, 2023-03-20 (Released:2023-03-20)
参考文献数
35

日本において1~6歳に即時型症状で発症することが多い魚卵アレルギーは,重要なアレルゲンである.イクラアレルギーが全体の約95%を占め,タラコアレルギー,シシャモの魚卵アレルギーの報告が少数あるにとどまる.魚卵は卵黄タンパクの前駆体であるビテロジェニンを構成するβ'-コンポーネントが主要アレルゲンと考えられている.イクラアレルギーは特異的IgE抗体価により食物経口負荷試験の陽性を予測可能と報告されている.一方で,タラコアレルギーの陽性予測には,イクラ特異的IgE抗体価とタラコ特異的IgE抗体価の比率が有用であるという報告がある.イクラ・タラコ以外の魚卵アレルギー以外の魚卵アレルギーに対する研究は極めて限られており,学校給食でしばしば提供されるシシャモの卵に関する検討も少ない.海外からは,最近,キャビアアレルギーの報告が散見されており,摂取状況による地域差があると考えられる.概して魚卵アレルギーの検討は不十分であり,今後さらなる研究の進展が期待される.
著者
伊藤 浩明 森下 雅史 山田 緑 大島 美穂子 坂本 龍雄 田中 昭
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.65-68, 2005-03-01 (Released:2010-08-05)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

ヤマイモは, 仮性アレルゲンを含む食品として知られているが, 一般臨床でIgE抗体測定ができなかったために, ヤマイモアレルギーに関する報告は少ない. 本稿では, ヤマイモ摂取により即時型アレルギー反応を認め, ユニキャップによりIgE抗体が陽性であった乳幼児7例を報告した. ヤマイモアレルギーの症例は, 顔全体から全身に及ぶ紅斑・蕁麻疹又は浮腫を認め, 2例で呼吸器症状 (咳嗽・喘鳴), 1例で消化器症状 (嘔吐・下痢) を認めた. 患児は, ヤマイモを含むかりんとうや焼いたヤマイモなど, 加熱された加工品にも反応した. 一方, IgE抗体陰性者7例で認められた誘発症状は口周囲の紅斑に限定されており, 仮性アレルゲンによるものと思われた. 以上より, ヤマイモ特異IgE抗体測定は, 真のアレルギーと仮性アレルゲンによる反応との鑑別に有用であると考えられた.
著者
平口 雪子 高 祥恵 海老島 優子 大和 謙二 末廣 豊
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.732-739, 2012 (Released:2013-02-22)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

目的:インフルエンザワクチンは微量の鶏卵蛋白を含有し,鶏卵アレルギーがあると接種要注意者とされる.明確な接種可否の判断基準がないため,施設間や接種医により判断にばらつきがあり患者にも混乱を与えている.そこで鶏卵アレルギーのある児へのインフルエンザワクチン接種の現状を知るためにアンケート調査を行った. 方法:鶏卵アレルギーが現在あるまたは過去にあった児の保護者に対しアンケート調査を行い112名から回答を得た. 結果:鶏卵アレルギーを理由にインフルエンザワクチンの接種を受けられなかったことがある児が52.7%いた.1歳未満の群では保護者の判断で接種を見合わせたケースが多くある一方,1歳以上の群では除去の程度や誘発症状の程度に関わらず接種医から「アレルギーが専門ではない」などの理由で接種を断られたという回答が最も多かった. 結論:鶏卵アレルギーのある児が積極的に接種を受けられるためには,日本においてもエビデンスとなる安全性の検討と学会などからの接種判断基準の明示が必要であると考えられる.
著者
小林 貴江 田上 和憲 中田 如音
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.133-140, 2022-06-20 (Released:2022-06-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

【背景】食物アレルギー(food allergy:FA)ガイドラインの整備が進み,さらにアレルゲン早期摂取の取り組みによりFA児の環境は変化しており,保育園では安全かつ正確なFA対応が必要である.保育園でのFA対応は多岐にわたり,地域の専門医がFA対応の実態を把握し,現場と共に改善できる点を探ることが重要である.【目的】FA児の在園状況,誤食事故の発生状況等に関し実態調査を行う.【方法】春日井市内の全保育園の代表者に対し,2017年度から3年間FA研修会を行うにあたり,開催1か月前にアンケートを配布・回収した.集計した結果は研修会内で報告した.【結果】全保育園から回答を得られ,3年間でFA児は,低年齢で減少していた.誤食事故件数は研修会開始前2013~2017年の平均20.6件/年から,開始後の2018年は7件/年,2019年は8件/年に減少し,誤食事故はおやつの時間に多かった.【結語】春日井市全保育園に対し,FA研修会を取り入れることにより,誤食事故を減らすことが可能であった.
著者
古林 万木夫 田辺 創一 谷内 昇一郎
出版者
日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.96-101, 2007
被引用文献数
1

醤油は日本を代表する発酵調味料の一つであるが,これまで醤油中の小麦アレルゲンの残存性について全く研究が行われていなかった.そこで我々は,醤油醸造工程中の小麦アレルゲンの分解機構を調べるために,小麦アレルギー患者の血清を用いた3種類の免疫学的検査手法により醸造中の小麦アレルゲンを測定した.その結果,製麹中に麹(こうじ)菌が生産する酵素により小麦アレルゲンは分解を受け,さらに諸味(もろみ)中でも経時的に分解されて,生揚(きあげ)や火入れ醤油では小麦アレルゲンは完全に消失していることが明らかとなった.また,10種類の市販醤油(淡口,濃口,再仕込み,白)から小麦アレルゲンは検出されなかった.
著者
髙木 俊敬 前田 麻由 山下 恒聖 國上 千紘 岡田 祐樹 中村 俊紀 神谷 太郎 今井 孝成 水野 克己
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.228-232, 2021-08-20 (Released:2021-08-20)
参考文献数
16

症例は5か月の男児.ゴマ摂取歴はなく両親にゴマを積極的に摂取する嗜好はない.生後1か月から脂漏性湿疹を顔面に認め,生後4か月には全身に皮疹が拡大した.保護者にステロイド忌避があり自己判断で市販のゴマ油含有外用薬を日常的に広範囲に塗布していた.生後5か月に湿疹増悪と活気低下,体重減少を認め当院に入院した.入院時血液検査で,血清総IgE値,ゴマ特異的IgE抗体価の高値を認めた.ゴマ油含有外用薬を中止,適切な治療にて皮疹は軽快した.乳児期はゴマを完全除去し,1歳3か月時にゴマ0.3gの食物経口負荷試験を実施した.結果,全身に膨疹と掻痒を速やかに認め,ゴマアレルギーと診断確定した.乳児早期からゴマ油含有外用薬を湿疹部に塗布したことにより経皮感作が誘導され即時型アレルギーを発症した可能性がある.皮膚のバリア機能が障害されている患者において食物成分を含む外用を行う際には食品成分に対して経皮感作が起こりうる可能性を考慮し,医薬品をはじめ一般用医薬品や医薬部外品に含まれる食品成分に注意する必要がある.

8 0 0 0 雑草花粉

著者
堀向 健太
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.749-757, 2019 (Released:2019-12-31)
参考文献数
36

アレルゲンとしての花粉を飛散させる植物は木本類, 草本類に大別され, 草本類としてイネ科のオオアワガエリやカモガヤ, キク科のブタクサ・ヨモギなどが知られている. アトピー性皮膚炎や食物アレルギーのある児は草本類花粉に対する感作率が高く, スギやヒノキ花粉に比較し飛散距離は短い草本類花粉に対する感作は, 周囲の植生の影響を強く受けることがわかっている. イネ科植物は共通抗原性が強く, 主要アレルゲンはPhl p 1やPhl p 5と考えられている. 一方, キク科花粉は属により抗原性は大きく異なり, それぞれを区別して考える必要性がある. そしてブタクサ花粉はAmb a 1とAmb a 11, ヨモギ花粉はArt v 1が主要なアレルゲンである. これらの花粉は花粉−食物アレルギー症候群 (PFAS) の原因となり, イネ科花粉は, Phl p 12, ブタクサではAmb a 8, ヨモギではArt v 3やArt v 4が交差抗原となると考えられている.
著者
川野 豊 西田 俊彦 山岸 里律子 野間 剛
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.478-482, 2000-12-01 (Released:2010-08-05)
参考文献数
6

症例は1歳1ヶ月の牛乳アレルギーの男児. 喘息性気管支炎とアトピー性皮膚炎増悪により入院中にアトピー性皮膚炎胸部病変部において牛乳と接触し, 約5分後より局所に数箇所の紅斑 (直径1~1.5cm) を認めた. それに引き続き頚部・頭部の紅斑及び喘鳴・呼吸困難を示し, 牛乳の経皮的侵入によるアナフィラキシーと診断された. 7ヶ月後, 牛乳を誤飲し, 直後に顔色不良・全身紅潮を呈し, 牛乳の経口摂取によるアナフィラキシーを示した. アトピー性皮膚炎を伴う重症の食物アレルギー児の管理にあたっては, 経皮的抗原暴露による重篤なアレルギー反応の誘発も考慮すべきであると考えられた.
著者
金城 優美 崎原 徹裕 川満 豊 国島 知子
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.351-358, 2020-08-05 (Released:2020-08-20)
参考文献数
20

【背景】卵白感作陽性の乳児に対する鶏卵の早期導入法は定まっていない.導入前のスクリーニング経口負荷試験(OFC)や導入後の自宅摂取の安全性について前方視的に検討した.【方法】生後6か月で卵白感作陽性の鶏卵未摂取例に対し加熱全卵0.2g OFC(1st OFC)を行った.1st OFC陰性例に対し加熱全卵0.2gの摂取を開始,生後9~11か月に卵白1/4個OFC(2nd OFC)を行った.各OFC結果と自宅摂取の安全性を評価した.【結果】1st OFC陽性は15/63例(23.8%)で,陰性48例中42例が自宅摂取を開始し1例が中途脱落した.8/41例(19.5%)に自宅摂取で軽微な皮膚症状を認めた.2nd OFC陽性は4/41例(9.8%)であった.各OFC陽性例は陰性例と比較しオボムコイドsIgE値が高かった.【結論】卵白感作陽性の乳児への加熱全卵0.2g OFCは陽性割合が高く,陰性例でも一部に自宅摂取中に軽微な症状を認めた.感作陽性児ではより安全な導入法の検討が必要である.
著者
山崎 晃嗣 竹村 豊 有馬 智之 益海 大樹 長井 恵 井上 徳浩 杉本 圭相
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.359-365, 2020-08-05 (Released:2020-08-20)
参考文献数
10
被引用文献数
1

【背景】食物経口負荷試験(OFC)の方法は各施設で総負荷量や摂取回数,摂取間隔を設定しており,この違いが結果に影響を与えることが考えられる.【対象・方法】卵白特異的IgE抗体価がクラス3,4の児に対し,20分加熱ゆで卵白8gを総負荷量として実施したOFCを対象とし,60分間隔2回漸増法と30分間隔3回漸増法を比較してOFCの陽性率,誘発症状時の陽性閾値量,誘発症状時の重症度等を検討した.【結果】2回法,3回法でOFCの陽性率はそれぞれ21例(30.4%),24例(38.6%)(P=0.72),誘発症状時の陽性閾値量は,8g,3gと統計学的有意差はなく(P=0.76),両法間とも認められた症状は全てmodified Sampson分類のGradeIII以下であった.統計学的な有意差は無かったが,2回法でのみ神経症状と循環器症状が出現した.【結論】卵白IgEクラス3,4の児に対する20分加熱卵白8gのOFCにおいて,2回法と3回法は安全性と有効性に有意差は認められない.
著者
村上 至孝 楠目 和代 小泉 宗光
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.525-529, 2020-12-20 (Released:2020-12-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

入浴は食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)の発症に関与する要因の1つとされている.今回,モモを摂取後に入浴して発症したFDEIAの1例を経験したので報告する.症例は8歳の女児.生のモモを摂取して10分後に入浴し,30分後からアナフィラキシーが出現した.モモのprick-to-prick testは陽性,モモ特異的IgEは5.35UA/mLであった.モモによるアナフィラキシーを疑い,生のモモの食物経口負荷試験を実施したが陰性であった.アスピリンを内服後に生のモモを摂取し運動負荷を行ったところアナフィラキシーが誘発された.アレルゲンコンポーネント特異的IgEはPru p 3は陰性,Pru p 7は陽性であった.食後の入浴により発症したFDEIAの報告は少なく,入浴でアナフィラキシーが誘発されるメカニズムは十分に解明されていないが,入浴は本症の発症に関与する要因の一つとして認識しておく必要がある.
著者
吉田 幸一
出版者
日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.308-315, 2019

<p> 保湿剤や食物の早期摂取によるアレルギー疾患の発症予防に関する研究結果が報告され, 医療機関での診療だけでなく, 離乳食の開始など一般的な生活にも大きな影響を与え始めている. </p><p> 高緯度地域にアレルギー疾患をもつ患者が多いという横断的疫学調査の結果から, ビタミンDはアレルギー疾患の発症に関連がある因子の1つとして以前から考えられていた. その後, ビタミンDが免疫や肺の発育にも影響を及ぼすことやビタミンD欠乏症がアレルギー疾患発症のリスクになることが報告され, 最近では, 妊娠中のビタミンDサプリメントによる乳幼児の喘鳴抑制効果を示したランダム化比較試験の研究結果が報告されている. しかし, 食物アレルギーやアトピー性皮膚炎など他のアレルギー疾患に対する抑制効果を示す研究は少なく, 現段階ではアレルギー疾患の発症予防のためにビタミンDサプリメントを使用するエビデンスは十分ではなく, 推奨されない. 臨床応用までにはさらなる研究が必要である. </p>
著者
正田 哲雄 畠山 淳司 磯崎 淳 小川 倫史 野間 剛 中村 陽一 川野 豊
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.357-362, 2008-08-01 (Released:2008-11-05)
参考文献数
30

症例は7歳,男児.平成19年6月,マムシに右第3指を咬まれ受傷した.腫脹・疼痛があり近医にて外科処置を受け,受傷約10時間後に当院を紹介受診した.マムシ咬傷の重症度分類はGrade III であった.まむしウマ抗毒素に対する皮内試験は陰性であり,メチルプレドニゾロンを予防投与した後に静脈内投与した.投与直後から,全身に蕁麻疹が出現し,同時に喘鳴・呼吸困難のアナフィラキシー反応を生じた.0.1%アドレナリンを筋肉内投与,ヒドロコルチゾンを静脈内投与し症状は改善した.まむしウマ抗毒素はウマ血清であり,アナフィラキシーを高率に合併するが,小児の使用に関して検討されていない.本邦における小児マムシ咬傷報告例のうち抗毒素血清投与を行った12症例を検討したところ,アナフィラキシーを呈したのは本症例のみであった.海外ではアドレナリン予防投与も行われており,その適用基準の検討を含め,小児例の蓄積が必要である.
著者
堀向 健太
出版者
日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.316-325, 2019

<p> アトピー性皮膚炎 (AD) が他のアレルギー疾患の発症リスクを上げることが明らかになってきたため, その発症予防と増悪予防が注目されている. そして皮膚バリア保護により経皮感作を防ぐという観点から, 新生児期からの保湿剤定期塗布によりAD発症リスクを低下させるという報告が増えてきている. しかし, 保湿剤の定期塗布のみでAD以外のアレルギー疾患も防ぐことができるかに関しては, 大規模介入試験の結果を待つ必要がある. 一方, 経皮感作は 「経湿疹感作」 ともとらえることができ, 皮膚の炎症病変に対する早期介入試験が感作を予防するかを検討するために現在進行中である. さらに積極的に経口免疫寛容を誘導する目的で, 離乳食早期導入による食物アレルギー発症予防の検討が報告されるようになった. しかしそこでも, 皮膚の治療を並行して行う必要性があることが判明してきている. 最近, アレルギー疾患発症予防に対し衛生仮説やビタミンD仮説に関しても知見が増えてきており, 多面的に考えていく必要性が出てきている. </p>
著者
佐藤 大記 二瓶 真人 堀野 智史 三浦 克志
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.573-578, 2020-12-20 (Released:2020-12-20)
参考文献数
11

【目的】食物アレルギー診療ガイドライン2016では,食物経口負荷試験(OFC)で重症度分類グレード1(軽症)の症状が見られた際には自宅での反復摂取を勧めている.本研究ではOFCで軽症症状を来した症例における自宅反復摂取の安全性を評価する.【方法】2013年1月から2018年4月に宮城県立こども病院で鶏卵,牛乳,小麦,ピーナッツOFCを受け,グレード1に相当する症状が見られた症例を対象に,自宅反復摂取時の誘発症状や転帰を後方視的に検討した.【結果】161例が解析対象となった.検査時年齢中央値3.9歳,総IgE値418 IU/mL,合併疾患はアトピー性皮膚炎または湿疹159例,気管支喘息69例であった.自宅でOFCと同量の負荷食品を反復摂取し症状なし144例(89.4%),症状あり17例(10.6%)であった.症状の重症度はグレード1が16例,グレード2が1例であった.【結論】OFCでの症状が軽症であった場合,自宅反復摂取は比較的安全であるが,症状誘発時の対応の指導が必要である.
著者
伊藤 浩明
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.9-16, 2010 (Released:2010-07-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1

食物アレルゲン特異的IgE抗体検査は,患者血清中の特異的IgE抗体を高感度に検出して,食物アレルギーの診断に対する感度は比較的良好である.一方,抗体陽性であっても誘発症状を認めない偽陽性がしばしば存在し,臨床現場ではある抗体価以上であれば食物アレルギーと診断できる確率(陽性的中率)を参考にすることが限界である.しかし,食物間の交差抗原性を考慮して複数の食品の抗体価を比較することにより,経口負荷試験に頼らなくても診断精度を向上させる工夫ができる.さらに,アレルゲン成分別に抗体価を測定して,感度・特異性に優れた検査を開発する研究が進められている.
著者
井上 寿茂 土居 悟 高松 勇 村山 史秀 亀田 誠 岡田 正幸 林田 道昭 豊島 協一郎
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF PEDIATRIC ALLERGY AND CLINICAL IMMUNOLOGY
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.82-86, 1992-09-25 (Released:2010-04-30)
参考文献数
14

小児気管支喘息の重症化, 難治化要因のひとつとして家庭背景の問題が挙げられる. 小・中学生の外来初診喘息児379例, 並びに施設入院療法を行った喘息児103例を対象とした単親家庭の頻度は外来児で10.0% (重症児では25.7%), 入院児で18.4%であった. また入院児では両親の離婚や別居, 家族の精神神経疾患など家庭に問題を持つ喘息児の頻度は39.8%に及んだ. 不登校や怠薬, 喘息以外の心身症の合併など心理的問題を有する率は家庭に問題をもつ喘息児で53.6%で, 家庭に問題のなかった喘息児での24.2%に比べ有意に高率であった. このような心理的問題を有する児では入院期間が長期化し, 積極的に個別的心理治療が試みられていたにもかかわらず再入院の頻度が高く, 医療機関のみでの対応には限界があり, 社会的視野に立った対応策の開発の必要性を痛感した.
著者
神奈川 芳行 海老澤 元宏 今村 知明
出版者
日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.78-86, 2005-03-01 (Released:2010-08-05)
参考文献数
7
被引用文献数
4 4

目的; 食物アレルギーの実態調査は, 医療機関に来院した患者の原因物質等に関する調査は行われているが, 患者側の行動に着目した原因食品の販売形態や発症場所, 発症時の対処方法に関する調査研究はないので実態調査を行った.方法; 全国的な食物アレルギーの患者会の協力を得て, 会員家族1,510家族に対して, 郵送による「食物アレルギー発症回避のためのアンケート調査」を実施し, 878家族, 計1,383名 (内アナフィラキシー経験者402名) の回答を得た.結果; アナフィラキシーの原因食品の販売形態は,「容器包装加工食品」,「店頭販売品」「レストラン (食堂) での食事」の順となっていた. 発症場所と販売形態の関係では,「自宅」で「容器包装加工食品」や「店頭販売品」による発生が最も多く, ほぼ毎日摂食している「学校給食」よりも「レストラン」での食事,「ファーストフード」での「店頭販売品」による発生が多い結果となった. アナフィラキシー発症時の軽快までの時間では, そば, 落花生が乳, 卵, 小麦よりも長く発症件数の多さの順とは異なっていた.