著者
中山 北斗 山口 貴大 塚谷 裕一
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.89-94, 2013 (Released:2014-09-26)
参考文献数
30

Asparagus(アスパラガス)属植物は,鱗片葉となった葉の代わりに,本来は側枝が発生する葉腋の位置より,仮葉枝と呼ばれる葉状器官が発生する.またこの器官は,属内で形態が多様化していることが知られている.しかしながら,その発生位置と葉状の形態のために,これまで仮葉枝の起源は不明であった.そこで私たちは,このアスパラガス属における新奇葉状器官の獲得とその形態の多様化の過程を明らかにすることを目的として研究を行なってきた.属内の系統関係において,最基部に位置する種であるA. asparagoides(クサナギカズラ)を用いて解析を行なった結果,仮葉枝は,側枝に葉の発生に関わる遺伝子群が転用されることで,葉状の形態となった器官であると考えられた.加えて,形態の多様化の過程を明らかにするために,クサナギカズラよりも派生的な種で,棒状の形態の仮葉枝を有するA. officinalisにおいても解析を行なった.その結果,棒状の形態の仮葉枝は,形態学的および遺伝子発現レベルにおいて,背軸側化していることを明らかにした.そのため,属内の種分化の過程で,転用された遺伝子群のうち,向背軸極性の確立に関わる遺伝子群の発現パターンが変化することにより,形態が棒状に変化したと考えられた.本項では,このアスパラガス属の仮葉枝の進化を例に,植物の新奇器官の獲得とその形態の多様化の過程について述べたい.
著者
中山 北斗 山口 貴大 塚谷 裕一
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第51回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0381, 2010 (Released:2010-11-22)

アスパラガス属(Asparagus)は葉が鱗片状に退化し、本来は側枝が発生する葉腋の位置に、擬葉と呼ばれる葉状器官を形成する。擬葉は主たる光合成器官としての役割も担っており、形態学的および生理学的に葉との類似点を有する。擬葉は古くから形態学者の興味の対象であったが、分子遺伝学的背景はおろか、その詳細な発生過程も未だ明らかとなっていない。属内においてその形態は多様化しており、アスパラガス属の擬葉は、植物におけるシュート構造の多様化の過程を、発生学的および進化学的観点から明らかにすることが可能な、独自性の高いモデルである。そこで本研究では、特異なシュート構造である擬葉の発生、およびその多様化機構の理解を目的として研究を行った。これまでに私たちは、属内の系統関係において基部に位置し、擬葉の形態が広卵形のA. asparagoides を用いて、擬葉は葉とも茎とも異なる独自の内部構造を有すること、擬葉では葉の発生に関わる遺伝子群のオーソログが発現することを明らかにしてきた。また、擬葉の形態が棒状のA. officinalisではこれらの発現パターンが変化していることを明らかにし、現在その原因についても解析を進めている。加えて、これらの遺伝子の擬葉における機能を解析するために形質転換系の構築を行っており、本発表ではそれらを含めた現時点でのデータに基づき、擬葉の進化発生機構について考察する。