著者
野村 裕也 植村 周平 間瀬 圭介 中平 洋一 吉岡 博文 椎名 隆
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第51回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0964, 2010 (Released:2010-11-22)

葉緑体は、光合成の他に、ホルモン合成や活性酸素種生成といった生体防御反応においても重要な器官であると考えられている。我々は、葉緑体が細胞内Ca2+シグナルを介して感染シグナルを素早く認識していることを見いだした。しかし、免疫応答における葉緑体の役割はほとんどわかっていない。これまでの研究から、葉緑体チラコイド膜に局在するCa2+結合タンパク質CASが、細胞外Ca2+による細胞質Ca2+シグナルの制御と気孔閉鎖に関与することを明らかにした。今回、免疫応答におけるCASの役割を調べるために、CASノックアウト変異体(cas-1)にPseudomonas syringae pv. tomato DC3000(Pst DC3000)を接種し、菌数増殖を測定した。その結果、cas-1ではPst DC3000に対して抵抗性が低下することがわかった。また、過敏感細胞死への影響を調べるためにPst DC3000(avrRpt2)を接種したところ、WTよりも細胞死が遅延することがわかった。さらに、Nicotiana benthamianaにおける CASサイレンシング植物体において、INF1、Cf-9/Avr9により誘導される過敏感細胞死が顕著に遅延することが明らかとなった。これらの結果から、CASは植物の生体防御反応において重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
著者
兵頭 洋美 佐藤 忍 岩井 宏暁
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第51回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0802, 2010 (Released:2010-11-22)

トマト果実の成熟過程に伴う果皮の軟化はペクチン等の分解に起因することが報告されている。しかし、果実内部では種子形成が同時に進行していることからも細胞壁の分解のみでなく、合成も必要であると考えられる。本研究では、果実成熟過程におけるペクチンの合成・分解に関与する遺伝子の発現および酵素活性を組織別に比較することで、果実全体のペクチンの総合的な変化を考察した。ペクチン分解酵素であるポリガラクツロナーゼ(PG)、ペクチンメチルエステラーゼ(PE)に関しては、果皮・隔壁においてBreaker以降で強い発現・活性がみられた。またPEは果実内部の組織で発現・活性がみられず、PG阻害タンパク質であるPGIPは、外果皮・隔壁で恒常的な発現がみられた。一方、シロイヌナズナでペクチン合成に関わるガラクツロン酸転移酵素(GAUT1)と高い相同性を示すトマトの遺伝子(LeGAUTL)は、果実成熟過程に伴う発現の増加がみられた。以上からトマトの成熟過程において、ペクチンの分解とともに合成や分解抑制も同時に行われている可能性が示唆された。またペクチン性多糖は、同じ成熟過程にある果実においても、その分解により果皮の軟化に関与するとともに、外果皮や隔壁では合成により果実の形状維持に関わること、果実内部の組織では分解抑制により種子形成の保護に関わることが考えられ、組織の性質や機能に影響を与えていると思われる。
著者
中山 北斗 山口 貴大 塚谷 裕一
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第51回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0381, 2010 (Released:2010-11-22)

アスパラガス属(Asparagus)は葉が鱗片状に退化し、本来は側枝が発生する葉腋の位置に、擬葉と呼ばれる葉状器官を形成する。擬葉は主たる光合成器官としての役割も担っており、形態学的および生理学的に葉との類似点を有する。擬葉は古くから形態学者の興味の対象であったが、分子遺伝学的背景はおろか、その詳細な発生過程も未だ明らかとなっていない。属内においてその形態は多様化しており、アスパラガス属の擬葉は、植物におけるシュート構造の多様化の過程を、発生学的および進化学的観点から明らかにすることが可能な、独自性の高いモデルである。そこで本研究では、特異なシュート構造である擬葉の発生、およびその多様化機構の理解を目的として研究を行った。これまでに私たちは、属内の系統関係において基部に位置し、擬葉の形態が広卵形のA. asparagoides を用いて、擬葉は葉とも茎とも異なる独自の内部構造を有すること、擬葉では葉の発生に関わる遺伝子群のオーソログが発現することを明らかにしてきた。また、擬葉の形態が棒状のA. officinalisではこれらの発現パターンが変化していることを明らかにし、現在その原因についても解析を進めている。加えて、これらの遺伝子の擬葉における機能を解析するために形質転換系の構築を行っており、本発表ではそれらを含めた現時点でのデータに基づき、擬葉の進化発生機構について考察する。
著者
小川 岳人
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第51回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0345, 2010 (Released:2010-11-22)

シロイヌナズナの外部形態は生育環境に応じて適切に変化する。なかでも光条件と生育温度は、胚軸伸長ならびに葉柄伸長に大きく影響する環境要素である。近年、細胞伸長の正の制御因子である Phytochrome Interacting Factor4 (PIF4)が光シグナル伝達経路と温度シグナル伝達経路の共通因子として機能することが明らかとなった。我々は、光と温度による PIF4の機能制御機構を解明することを目的として研究を行っている。PIF4タンパク質がPhytocrome依存的に赤色光照射によって分解されることはよく知られた現象であるが、本発表では、青色光条件下および低温(16℃)条件下においてもPIF4タンパク質が不安定化することを報告する。恒常的に PIF4を発現させたシロイヌナズナを用いた実験から、これらの不安定化は 26Sプロテアソームを介した分解によるものであることが分かった。また、青色光による分解は光量依存的であり、赤色光による分解と同様に PIF4の Active Phytocrome Binding (APB)ドメインを必要とした。一方、低温による分解には APBドメインを必要としなかったことから、光による分解と低温による分解は異なるメカニズムによって引き起こされると示唆された。
著者
三谷 奈見季 山地 直樹 馬 建鋒
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 第51回日本植物生理学会年会要旨集
巻号頁・発行日
pp.0886, 2010 (Released:2010-11-22)

これまでに我々は典型的なケイ酸集積植物であるイネから内向きケイ酸輸送体Lsi1と外向きケイ酸輸送体Lsi2を同定し、これらの輸送体が根からのケイ酸の積極的吸収に重要であることを明らかにしてきた。またオオムギやトウモロコシからもそれらの相同遺伝子を単離し、イネのケイ酸輸送体と同じケイ酸輸送機能を有することがわかった。しかしその一方でオオムギやトウモロコシはイネに比べてケイ酸の吸収量が低く、植物の種類によってケイ酸吸収能力が異なる機構についてはまだ明らかにされていない。そこで本研究ではオオムギおよびイネ由来のケイ酸輸送体の発現量や局在性などを検討した。根での発現量をReal time PCR絶対定量法で比較した結果、Lsi1、Lsi2ともにオオムギよりイネで数倍高く発現していることが明らかになった。次に組織局在性の影響を検討するため、HvLsi1 promoter制御下でOsLsi1 およびHvLsi1をイネのlsi1変異体に導入した形質転換体を作成した。その結果OsLsi1、HvLsi1共に内皮細胞と外皮細胞に極性をもって局在し、イネ本来の輸送体と同じ局在性を示した。これらの形質転換体を用いてケイ酸吸収量を比較した結果、ケイ酸吸収量はOsLsi1を導入した株がHvLsi1を導入した株に比べ高い傾向が見られた。これらの結果はイネ由来の輸送体は強い輸送活性を有していることを示唆している。