著者
宮田 信彦 小串 直也 中岡 伶弥 中川 佳久 羽崎 完
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-53_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】頸長筋(以下:LC)は頸椎椎体の前・側面を走行する頸部屈曲筋として知られ,頸椎の過度な前弯を防ぐ働きがあるとされている。Jullらが頭頸部屈曲テスト(以下:CCFT)を報告して以来,CCFTはLCの評価,治療として広く用いられている。CCFTは従来,背臥位にて行われる方法であるが,日常生活において,ヒトは重力に抗して頭頸部を正中位に保持し,立位もしくは座位をとることが多い。そこで我々は座位にてCCFTを行わせ,LC筋厚が安静時よりも有意に増大することを報告した。しかし,背臥位と座位のCCFTを直接比較はしていない。そこで本研究は,CCFTを背臥位・座位の2条件で実施し,姿勢の違いが LC筋厚に及ぼす影響を確認することを目的とした。【方法】対象は頸部に既往のない健常男子大学生とし,背臥位群9名,座位群16名とした。測定肢位はそれぞれ,膝を屈曲した背臥位,壁面に肩甲骨,仙骨後面が接した椅座位とした。頭部位置は背臥位で床と平行,座位で壁面と平行とした。後頭隆起下の頸部背側にスタビライザー(chattanooga 社製)を置いた。強度はスタビライザーの圧センサーの目盛りが指し示す22~28mmHgの範囲を2mmHgずつ,それぞれ10秒間保持させた。その間のLC,頸椎椎体前面,総頸動脈,胸鎖乳突筋を超音波画像診断装置(日立メディコ社製)にて描出した。プローブ(10MHz,リニア型)は甲状軟骨より 2cm 右・外・下方かつ水平面上で内側に20°傾けた位置とし,頸部長軸と平行にあてた。測定によって得られた画像から画像解析ソフト Image J を用い,LC筋厚を測定した。その後,安静時のLC筋厚を基準としたCCFT時のLC筋厚の増減を安静時比として表した。統計学的手法は,姿勢と強度の2要因における対応のない二元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定にて,背臥位と座位のLC筋厚の安静時比を比較した。【結果】LC筋厚の平均値は安静時(背臥位1.14±0.11cm,座位0.82±0.16cm)となった。安静時比はそれぞれ22mmHg時(背臥位112.8±9.6%,座位113.4±10.8%),24mmHg時(背臥位111.3±9.5%,座位115.7±13.2%),26mmHg時(背臥位117.2±12.0%,座位115.2±13.1%),28mmHg時(背臥位120.8±13.2%,座位113.4±11.9%)となった。二元配置分散分析の結果,姿勢,強度を要因としたLC筋厚の安静時比に有意な主効果および交互作用は認めなかった。【結論(考察も含む)】我々は先行研究においてLC筋厚が座位でのCCFTによって安静時よりも有意に増大したことを報告している。また,一瀬らはLC筋厚が背臥位でのCCFTによって安静時よりも有意に増大したことを報告している。今回の結果で背臥位,座位といった姿勢の違いがLC筋厚の安静時比に有意な影響を与えなかったことから,座位のCCFTにおいても背臥位と同様の効果が期待できると考える。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は大阪電気通信大学における生体を対象とする研究および教育に関する倫理委員会の承認を受けた研究の一部であり,被験者の同意のもと実施した(承認番号:生倫認14-007号)。また被験者には研究中であっても不利益を受けることなく,同意を撤回することができることを説明した。情報の安全管理は個人情報や測定データは匿名化し,被験者の同意なく第三者提供しないよう研究従事者すべてに周知徹底した。
著者
中岡 伶弥 櫃ノ上 綾香 羽崎 完
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1071, 2011

【目的】<BR> 筋連結とは,筋と筋のつながりのことを指し,隣接する筋の間は筋膜,筋間中隔などの結合組織や互いの筋線維が交差している。筋が連結している部位では,片方の筋が活動したとき,その筋に連なるもう一方の筋にまで活動は伝達するとされている。このことは,PNFやボイタなどの治療法にも応用されている。しかし,筋が連結しているかどうかについては,解剖学的な考察や経験に基づいており,筋の機能的な連結については明らかではない。そこで本研究では,前鋸筋と外腹斜筋に着眼し,この2筋間に機能的な筋連結が存在するのかを明確にすることを目的とした。<BR>【方法】<BR> 対象は健常成人男子大学生14名 (平均年齢21.1±0.7歳,身長172.4±5.6cm,体重62.4±8.4kg)とした。測定方法は,ベンチプレス台の上で背臥位になり,肩関節90°屈曲位で肩甲帯を最大前方突出させた。その肢位で,自重(負荷なし),体重の30%負荷・60%負荷をベンチプレスで荷重し,5秒間保持させた。施行順はランダムとした。測定は第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,外腹斜筋の3箇所とし,前鋸筋は肋骨上で皮膚表面から視察・触察できる位置に,また,外腹斜筋は腸骨稜と最下位肋骨を結ぶ中点から内側方2cmの位置に筋線維の走行に沿って電極を貼った。筋活動の導出には表面筋電計(キッセイコムテック社製 Vital Recorder2)を用い,電極(S&ME社製)は,電極間距離1.2cmで双極導出した。サンプリング周波数1kHzとした。基準値を設定するために,徒手抵抗による最大等尺性収縮(Maximum Voluntary Contraction,以下MVC)時の表面筋電図を記録した。各筋のMVCの数値を100%とし,各負荷における数値を除した%MVCを算出した。解析方法は,第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,外腹斜筋それぞれにおいて,自重,30%負荷,60%負荷の3群をFriedman検定を用いて比較し,多重比較検定としてScheffeの対比較検定を用いた。また,有意水準を5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> すべての被験者に対し,本研究の趣旨を口頭および文書にて説明し,署名にて研究協力の同意を得た。<BR>【結果】<BR> 第6肋骨前鋸筋の筋活動量の50パーセンタイル値は,自重で30.8%MVC,30%負荷で40.0%MVC,60%負荷で52.9%MVCであり,Friedman検定の結果,自重より60%負荷が有意に高値を示した(P<0.05)。第8肋骨前鋸筋の筋活動量においても50パーセンタイル値は,自重で22.5%MVC,30%負荷で22.9%MVC,60%負荷で24.7%MVCであり,自重より60%負荷が有意に高値を示した(P<0.05)。外腹斜筋の筋活動量の50パーセンタイル値は,自重で12.6%MVC,30%負荷で17.1%MVC,60%負荷で26.3%MVCであり,自重より30%負荷・60%負荷の2群で有意に高値を示した(P<0.05)。いずれの筋においても30%負荷,60%負荷の間には有意な差は認められなかった。<BR>【考察】<BR> 前鋸筋と外腹斜筋の関係については,これまでに荒山らによって検討されている。彼らは,体幹筋強化トレーニングとして用いられるTrunk Curlを使用して,前鋸筋と外腹斜筋の筋連結を検討することを目的にしていた。それは,1)肘伸展0°,肩90°屈曲位で,最大努力で肩甲帯前方突出を行いながら,上体を起こす。 2)肘伸展0°,肩90°屈曲位で肩甲帯前方突出をせずに,上体を起こす。3) 胸部前面で,腕を組み上体を起こす。という3種類の上体起こしにより関係を示している。その結果として,前鋸筋の活動は外腹斜筋の活動を高めることが示唆され,付着部を共有し,筋線維走行の方向が一致する筋の相互作用を期待したエクササイズの有効性が示唆されたとしている。しかし,この方法では,上体を起こすことによって直接的に外腹斜筋を働かせているため,機能的な筋連結を明確にするという点では不十分である。そのため,本研究では外腹斜筋の作用である体幹の反対側への回旋や同側への側屈,前屈が起こらないように,被験者には背臥位でベンチプレスを荷重させた。直接的に外腹斜筋を活動させる条件下でないにも関わらず,前鋸筋の筋活動量が増すにつれ,外腹斜筋の筋活動量も増加した。肩甲帯の前方突出により前鋸筋が収縮すると,肩甲骨は外転し,胸郭は上方に引き上げられる。しかし,前鋸筋が最大筋力を発揮するためには,胸郭の固定が必要である。そのため,胸郭を下方に引き下げる外腹斜筋が固定筋として作用したため,外腹斜筋の活動がみられたと考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究で得られた結果は,治療にも役立てられるのではないかと考える。例えば,翼状肩甲の治療には前鋸筋のトレーニングが必要だといわれている。しかし,翼状肩甲の治療において筋連結を考慮すると,前鋸筋へのアプローチだけでなく,それに併せて外腹斜筋へのアプローチも行うことで,より肩甲骨の安定性は増すのではないかと思われる。
著者
中岡 伶弥 櫃ノ上 綾香 羽崎 完
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI1071, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 筋連結とは,筋と筋のつながりのことを指し,隣接する筋の間は筋膜,筋間中隔などの結合組織や互いの筋線維が交差している。筋が連結している部位では,片方の筋が活動したとき,その筋に連なるもう一方の筋にまで活動は伝達するとされている。このことは,PNFやボイタなどの治療法にも応用されている。しかし,筋が連結しているかどうかについては,解剖学的な考察や経験に基づいており,筋の機能的な連結については明らかではない。そこで本研究では,前鋸筋と外腹斜筋に着眼し,この2筋間に機能的な筋連結が存在するのかを明確にすることを目的とした。【方法】 対象は健常成人男子大学生14名 (平均年齢21.1±0.7歳,身長172.4±5.6cm,体重62.4±8.4kg)とした。測定方法は,ベンチプレス台の上で背臥位になり,肩関節90°屈曲位で肩甲帯を最大前方突出させた。その肢位で,自重(負荷なし),体重の30%負荷・60%負荷をベンチプレスで荷重し,5秒間保持させた。施行順はランダムとした。測定は第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,外腹斜筋の3箇所とし,前鋸筋は肋骨上で皮膚表面から視察・触察できる位置に,また,外腹斜筋は腸骨稜と最下位肋骨を結ぶ中点から内側方2cmの位置に筋線維の走行に沿って電極を貼った。筋活動の導出には表面筋電計(キッセイコムテック社製 Vital Recorder2)を用い,電極(S&ME社製)は,電極間距離1.2cmで双極導出した。サンプリング周波数1kHzとした。基準値を設定するために,徒手抵抗による最大等尺性収縮(Maximum Voluntary Contraction,以下MVC)時の表面筋電図を記録した。各筋のMVCの数値を100%とし,各負荷における数値を除した%MVCを算出した。解析方法は,第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,外腹斜筋それぞれにおいて,自重,30%負荷,60%負荷の3群をFriedman検定を用いて比較し,多重比較検定としてScheffeの対比較検定を用いた。また,有意水準を5%未満とした。【説明と同意】 すべての被験者に対し,本研究の趣旨を口頭および文書にて説明し,署名にて研究協力の同意を得た。【結果】 第6肋骨前鋸筋の筋活動量の50パーセンタイル値は,自重で30.8%MVC,30%負荷で40.0%MVC,60%負荷で52.9%MVCであり,Friedman検定の結果,自重より60%負荷が有意に高値を示した(P<0.05)。第8肋骨前鋸筋の筋活動量においても50パーセンタイル値は,自重で22.5%MVC,30%負荷で22.9%MVC,60%負荷で24.7%MVCであり,自重より60%負荷が有意に高値を示した(P<0.05)。外腹斜筋の筋活動量の50パーセンタイル値は,自重で12.6%MVC,30%負荷で17.1%MVC,60%負荷で26.3%MVCであり,自重より30%負荷・60%負荷の2群で有意に高値を示した(P<0.05)。いずれの筋においても30%負荷,60%負荷の間には有意な差は認められなかった。【考察】 前鋸筋と外腹斜筋の関係については,これまでに荒山らによって検討されている。彼らは,体幹筋強化トレーニングとして用いられるTrunk Curlを使用して,前鋸筋と外腹斜筋の筋連結を検討することを目的にしていた。それは,1)肘伸展0°,肩90°屈曲位で,最大努力で肩甲帯前方突出を行いながら,上体を起こす。 2)肘伸展0°,肩90°屈曲位で肩甲帯前方突出をせずに,上体を起こす。3) 胸部前面で,腕を組み上体を起こす。という3種類の上体起こしにより関係を示している。その結果として,前鋸筋の活動は外腹斜筋の活動を高めることが示唆され,付着部を共有し,筋線維走行の方向が一致する筋の相互作用を期待したエクササイズの有効性が示唆されたとしている。しかし,この方法では,上体を起こすことによって直接的に外腹斜筋を働かせているため,機能的な筋連結を明確にするという点では不十分である。そのため,本研究では外腹斜筋の作用である体幹の反対側への回旋や同側への側屈,前屈が起こらないように,被験者には背臥位でベンチプレスを荷重させた。直接的に外腹斜筋を活動させる条件下でないにも関わらず,前鋸筋の筋活動量が増すにつれ,外腹斜筋の筋活動量も増加した。肩甲帯の前方突出により前鋸筋が収縮すると,肩甲骨は外転し,胸郭は上方に引き上げられる。しかし,前鋸筋が最大筋力を発揮するためには,胸郭の固定が必要である。そのため,胸郭を下方に引き下げる外腹斜筋が固定筋として作用したため,外腹斜筋の活動がみられたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究で得られた結果は,治療にも役立てられるのではないかと考える。例えば,翼状肩甲の治療には前鋸筋のトレーニングが必要だといわれている。しかし,翼状肩甲の治療において筋連結を考慮すると,前鋸筋へのアプローチだけでなく,それに併せて外腹斜筋へのアプローチも行うことで,より肩甲骨の安定性は増すのではないかと思われる。