著者
中嶋 省志 SADR Alireza 田上 順次
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.111-120, 2014 (Released:2014-05-07)
参考文献数
24

過去, エナメル質の溶解現象を説明するうえで臨界pHという考え方が強調され, そのためpHにのみに多くの関心が払われてきた. しかし, この溶解現象がpHにだけ依存するものではないことは, 以前から知られている. 本稿ではまず臨界pHについて, 過去の文献を引用してその歴史を簡単に振り返る. そのなかで, 臨界pHはエナメル質に固有の特性ではなく, 酸性液に含まれるCa2+とリン酸イオンの濃度に依存して決定され, 「一定の値をとらないこと」を述べる. この考え方は, すでに1950年代にみられる. この臨界pHが今日話題となっている酸蝕とも関連することから, そのことについても言及する. 一方, 臨界pHを決定する要因には, 前述のCa2+とリン酸イオンの濃度以外にも, エナメル質の熱力学的溶解度 (酸溶解性の指標) がある. この指標の程度はエナメル質によってかなり異なり, この違いが臨界pHに大きな影響を与えることを解説する. 具体的には, 飽和度という概念を基に臨界pHに及ぼすCa2+とリン酸イオンの濃度の影響を計算し, 臨界pHの値を推定した. すなわち, プラーク液にて検出される平均的なCa2+とリン酸イオン濃度を用い, そこで酸が産生されpHが低下したとして, 臨界pHを計算した. その結果, この場合の臨界pHは5.15であった. 同様にエナメル質の酸溶解性の違いから, 最も溶けにくいエナメル質の場合の臨界pHは5.02, 最も溶けやすい場合は5.81となり, 大きな違いが認められた.
著者
中嶋 省志
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.202-203, 2017

<p>歯磨剤は,様々な成分(研磨剤,湿潤剤,発泡剤,粘結剤,抗菌剤など)を配合して,使いやすく,安全でかつ長期間安定な物理的・化学的特性が発揮できるようにつくられている。一方,フッ化物や殺菌剤などの薬用成分を配合して,虫歯や歯周病の予防・改善あるいはステインや口臭の防止にも有用なものである<sup>1)</sup>。日常,何気なく使っている歯磨剤の中身とフッ化物による虫歯予防のメカニズムを化学の目で見てみる。</p>
著者
中嶋 省志
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

商品名サホライドには優れた根面う蝕予防効果が認められている。しかし根面や歯肉が黒くなるという審美的問題があり。本研究では黒くならない根面う蝕の予防剤(象牙質ミネラルの脱灰抑制とコラーゲン分解の抑制)の開発に繋がる探索研究を行った。その結果、フッ化亜鉛に最少量の塩酸を加えた溶液に、サホライドの濃度の約1/5という低濃度フッ素にもかかわらず、これと同等レベルの脱灰抑制効果を認めた。また処置面で着色は認められなかった。一方、コラーゲンの分解抑制効果に関しては、サホライドに匹敵するような十分な効果は得られなかったが、今後、より高い濃度での評価や塗布方法を改良することでこの目標を達成したい。