著者
竹之内 耕 茨木 洋介 小河原 孝彦 宮島 宏 松原 誠 西澤 あずさ 青井 真 平松 良浩 中川 和之
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

1. はじめに 新潟県糸魚川ジオパークには,1990年に公開されたフォッサマグナパークと呼ばれる糸魚川-静岡構造線(以下,糸静線)断層露頭の見学公園がある.国道148号脇の駐車場から遊歩道をへて断層露頭まで徒歩約10分の行程である.2018年8月の改修にあたっては,断層露頭の拡張のほか,断層のはぎ取り展示の設置や野外解説板の新設や改修が行われた.断層露頭近くの野外解説板には,防災科学技術研究所が開設した「地震だねっと!」(地震活動や歴史地震を閲覧できるホームページ)に接続できるQRコードを表示して,断層と地震を関連付けて学習できるようにした.ここでは,高校生を対象にした,「地震だねっと!」を活用した地震と断層の学習例を紹介する.2. 地震と断層の学習例(神奈川県の私立高校)(1) 断層に至る遊歩道での学習 二つの河川の川原の岩石の色が違うことに気づき,糸静線を境に地質が異なることを説明する.古生代の岩石を観察し,年代が古いほど多くの地殻変動を受けて硬いがボロボロの性質になっていることを理解する.近づくと見えてくる断層露頭では, 西側の古生代の岩石(暗緑色~白色)と東側の新生代の岩石の色調が,縦方向の不連続線を境に明瞭に異なり,それが糸静線であることが容易に理解される.(2) フォッサマグナと地震についての解説(野外解説板による) 糸静線はフォッサマグナの西端断層であり,日本列島形成と密接な関係があること,また,断層が動く時に地震が起き,中でも大きな断層運動が起こると断層が地表まで達して活断層と呼ばれること,また,動くたびに生じた変位が積み重なって,山地などの地形が形成されていくことを説明する.(3) 「地震だねっと!」からの情報生徒が携帯するスマートフォンで「地震だねっと!」に接続し,過去10年間の糸魚川周辺で起きた地震を表示する.画像から生徒が気づく点は以下のとおりである.・感じない地震を含めると,多数の地震が起きている.・地震が起きている場所と起きていない場所がある.・線状,楕円状に集中して起こる地震がある.・内陸の地震は,深さ10kmよりも浅いところで起きている.・活断層に沿って起きている地震とそうでない地震がある.・同じ活断層帯でも,地震が起きている場所と起きていない場所がある.・糸魚川は地震が空白で,活断層がない.・歴史地震が起こった場所に地震が集中しているようにみえる. その後,5年間,1年間,30日間,一週間,24時間と震源分布図を表示させていくと,表示される地震数は減少していく.24時間の画像でも,最新の地震が表示され,人が気づかない地震が今も起こっていることに驚く生徒も多い.(4) 断層露頭 露頭全体がボロボロになっていて,岩石が壊されていることに気づく.断層角礫との隙間には,さらに破砕された細粒物質(断層ガウジ)が充填されており,指で断層ガウジを押すと凹んで固結していないことがわかる.断層ガウジには,断層の運動方向を示す条線が認められるので,断層ガウジは岩石が粉砕されてできたことが理解される.マグニチュード7前後の地震を伴う断層運動では変位量が1.5~2mとされているので,糸静線に沿う落差(東落ち6000m以上)を考えると,過去3000~4000回の断層運動が起こって,フォッサマグナが落ち込んでいったことが想像できる.また,フォッサマグナの落差が進展する過程で,断層の幅が成長していったことが理解される.3. まとめ 「地震だねっと!」で示される震源分布図は,日本列島が地震の多い場所だと視覚的に理解でき,地震と断層を結び付けて考えるための良いツールである.断層露頭観察では,地質現象の結果の観察で終わってしまう傾向にある.しかし,「地震だねっと!」の利用によって地震と断層が関連付けられることで,生徒たちが地下の断層運動をイメージすることができるようになると期待される.今後,高校生を対象に「地震だねっと!」を利用した野外観察授業の経験を増やし,地震防災学習を含めた豊富な学習例をつくっていきたい.
著者
松原 誠 西澤 あずさ 青井 真 竹之内 耕 平松 良浩 中川 和之
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

(1) はじめに 公益社団法人日本地震学会(地震学会)では「行動計画2012」における「地震学の現状を一般市民の目線に立って社会に伝えていくとともに、地域防災への貢献及び社会からの要請を受け止める場となることを目指す」という考えに基づき、その具体化と手段の多様化を実現するために2017年4月にジオパーク支援委員会を設立した。ジオパークでは、火山や地質・歴史地震・津波痕跡に関するジオサイト・ガイド・案内板は数多く存在するが、自分たちの足元で起きている地震活動を認識してもらう案内方法が欠けている面があった。 防災科学技術研究所(防災科研)では、ジオサイトで足元の地球の活動を可視化するという観点から、「防災科研 地震だねっと!」というホームページ(http://www.geopark.bosai.go.jp/、以下、当サイト)を構築し、防災科研陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS)で捉えた現在の地震活動や歴史地震を簡単に見られるホームページを2018年7月に開設した。これは、糸魚川世界ユネスコジオパークのフォッサマグナパークのリニューアルオープンを機に、案内板のQRコードから当サイトに接続することにより、現在の糸魚川周辺の地震活動を閲覧できるホームページである。(2)ホームページの概要 当サイトに接続すると、過去1年間の震源分布図が表示される。色で震源の深さを、丸の大きさでマグニチュードを表している。震源分布は1時間毎に更新され、最新の地震は星印で表示されている。地図には、現在地に加え、火山・活断層・河川・県境なども表示され、周辺を含めた位置を捉えやすくなっている。震源分布図の期間は過去24時間~10年間が選択可能である。記憶に残っている過去の地震もプロットされると同時に、無感の微小地震の分布も表示されるので、足元の地球内部でどのような活動が起こっているかを診ることができる。震源分布図の下には、被害地震も列挙されているので、地元での有史以来の地震活動を把握することが可能である。(3)閲覧実績 当サイト開設後、毎日20-30の所外からのアクセスが確認されている。また、フォッサマグナパークにおいて団体の見学があり、糸魚川ジオパークで当サイトについて紹介した際には、50~60のアクセスがあった。(4)ジオパークとの連携 防災科研は日本ジオパークネットワーク(JGN)と包括的連携協定を2018年10月13日に締結した。また、糸魚川ユネスコ世界ジオパークとは、当サイトの活用に関する覚書を締結した。今後、JGNを通じて、要望のあるジオパークに向けて当サイトを構築していく予定である。(5)利活用に関するアンケート結果と今後の展開 地震学会ジオパーク支援委員会では、JpGUの際にジオパーク向けに地震に関する勉強会を開催している。2018年度には、歴史地震の利活用について説明したこともあり、JGNを通じて、全国のジオパーク協議会やジオパーク推進協議会に対して歴史地震や最近の震源分布図、地震波形の展示の希望に関するアンケートを実施した。26のジオパークと7つのジオパーク構想から回答があった。以下の結果では、ジオパーク構想についてもジオパークに含める。 歴史地震に関するジオサイトは、46%の構想中を含めたジオパークに存在した。また、地元の地震活動には、91%のジオパークから関心があるという回答を得た。しかし、現在の地震活動に関する展示が存在するのは27%であった。博物館などの展示施設や屋外のジオサイトの案内板等で地震活動の展示希望については、条件によるも含めて、82%のジオパークで関心があった。条件としての多くは費用に関するものであった。当サイトのホームページの作成・運用費用は防災科研で負担しているので、ジオパーク側ではQRコードを掲載するジオサイトでの案内板の更新や、展示施設内でホームページを閲覧できるような仕組み(例えばパソコン等)を準備していただくことになる。防災科研では、ジオパークにおいて地震活動を実感する一助となるべく、それぞれの要望に沿った領域の地震活動の図を作成・提供していきたいと考えている。
著者
平松 良浩 松原 誠 中川 和之
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

はじめに 日本各地のジオパーク活動の支援ならびに地震学の知識の普及、学術研究の促進を目的として発足した日本地震学会ジオパーク支援委員会では、ジオパーク専門員に対する勉強会として、地震学習会「ジオパーク活動で使える地震学1」を昨年度に実施した。さらに参加者に対してアンケートを実施し、地震学習会に対する評価や今後のテーマについて調査を行なった。本講演ではそれらについて紹介する。 地震学習会「ジオパーク活動で使える地震学1」 日本地球惑星科学連合2017年大会期間中の5月22日に地震学習会を実施した。 (1) 「ジオパーク活動で使える地震学 −地震観測データの活用方法−」(防災科研:松原 誠)および (2) 「日本周辺の沈み込み帯における海底地形」(海上保安庁:西澤あずさ)と題した講演が行われ、地震観測網、地震データや震源分布図に関する解説、地震データの展示例、各ジオパーク内の地震観測点の分布や、日本周辺の3D海底地形図に見られる海底地形と地震の関係や海上保安庁の各管区の海の相談室の利用やwebで公開されている海洋台帳に関して解説された。地震学習会には、事前申込のあった10ジオパークの他に、飛び込みで8ジオパークおよびJGN事務局から計32名の参加者があり、紹介されたデータの具体的な利用法など活発な質問がなされた。 参加者アンケートによる地震学習会の評価と要望 講演内容の理解度や今回紹介されたデータの活用事例の有無、開催時期や時間の長さ、今後のテーマへの要望に関して、参加者に対してアンケート調査を実施した。講演内容及び各ジオパークにおける地震観測点や海上保安庁が所有するデータの利用方法については、概ね理解でき、今回紹介されたデータについても活用したいという意見が多かった。開催時期については、日本地球惑星科学連合大会開催期間中を望む声が多かった。時間の長さについては、ちょうど良いとの意見と短いとの意見に分かれ、参加者の予備知識が反映された結果と推測される。今後のテーマについては、地震防災、地震教育、地震活動や日本列島の地震学的構造など多様な意見があり、地震学習会を継続的に実施する必要性があると考えられる。 謝辞:地震学習会の実施にあたり、日本ジオパークネットワーク事務局に多大なるご協力をいただきました。記して感謝します。
著者
中川 和之
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2015年8月15日、桜島南岳直下に約200万立方メートルのマグマが貫入し、気象庁が噴火警戒レベルを4に上げた。当時は、現象面としては、なにも起きていなかったが、鹿児島市長は、レベル4の段階で一部の地域に避難勧告を出すとともに、一大イベントだった花火大会の中止を決めた。その判断根拠となったのは、気象庁が資料提供した傾斜計のグラフだった。日頃、専門家からマグマの移動を示す傾斜計の変化について説明を受けていた市長が、そのデータの変化の様子から、「最悪、集団移転も考える事態まで想像」し、決断をした。結果的に噴火せず、観光関係者からは非難された。噴火に至る以前の危機的な状況を、関係者がどのように判断して対応をしたのか、当日の朝から、市長や鹿児島市の防災担当者、研究者、気象庁関係者らのヒヤリングを元に、報告する。