- 著者
-
中村 一恵
田中 裕
- 出版者
- 公益財団法人 山階鳥類研究所
- 雑誌
- 山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, no.1, pp.108-112, 1976
1975年8月16日,北韓36度42分,東経142度14分の本州中部沖,約150kmの東方海上で,1羽の大型シロハラミズナギドリ一種が観察撮影された。筆者らは,これをKermadec Petrel <i>Pterodroma neglecta</i>の淡色型であろうと判定し,F.C.Kinsky氏に写真2枚を添えて報告し意見を求めたところ,氏から本種の淡色型に近い中間型の1羽に誤りない旨の返答を得た。<br>本種には,暗色型,淡色型,中間型の3型があり,海上では他の大型のシロハラミズナギドリ属数種と混同されるおそれが十分にある。とくに北太平洋北西部では,この海域に渡来する大型のハジロミズナギドリ<i>P.solandri</i>が<i>P.neglecta</i>暗色型に酷似するので,これら2種の野外識別が問題となる。<i>P.neglecta</i>の特徴は,どの体色型にも初列風切羽の白い内羽弁により形成される顕著な白または灰自色の三角班が翼下面先端にでることである。しかしこれは<i>P.solandri</i>の特徴でもあるので,<i>P.neglecta</i>暗色型と<i>P.solandri</i>の2種を野外で識別することは近距離以外ほとんど不可能になる。<br>基亜種はケルマデックとロードハウ諸島に繁殖する。本種の非繁殖期の渡りについてはほとんど知られていないが,1967年1月19日,ケルマデック諸島のNorth Meyer島でバンデングされた1羽が,1974年10月7日にフイリッピンのSan Marianoで回収されている。この1例と今回の観察記録は,本種に北太平洋北西部海域に達する長距離の渡りがあることを暗示するものであろう。<br>本種の和名は黒田長久氏(1973)<sup>***</sup>によりカワリシロハラミズナギドリと命名されている。<br>終りに,写真検討の労をとられ種の同定にご協力いただき,あわせて有益な情報をよせられたニュージーランド国立博物館のF.C.Kinsky氏,並びに調査にご協力いただいた東京大学海洋研究所白鳳丸乗組員各位に深く感謝の意を表する。