著者
中生 勝美
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第52回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.97, 2018 (Released:2018-05-22)

新しい人類学史の構築を目指して、研究組織を立ち上げて共同研究を始めている。今回は、その紹介とともに、人類学の実践を歴史的観点から批判的に検討することで、現在的な問題を考えるヒントになることを提示したい。その実例として、アメリカミシガン大学の日本研究が、戦時中に対日本戦略として始まり、戦後は人類学という方法論を用いながら、大きな枠組みで戦後の国際環境と関連して進展したことを報告する。
著者
中生 勝美
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、GHQの下部組織であるcivil Information and Education section (CIE)に所属していた人類学者の分析から、戦後のアメリカの極東政策と人類学の利用について、公文書と聞き取りから研究を進めた。当時GHQが収集した資料はアメリカの公文書館に所蔵されている。特に、1990年代に日本への戦時賠償請求が時効にかからないという法令が採択された影響で、2000年以降、新たな資料が公開されている。本研究では、CIEの資料を中心に調査をしたが、かつてCIEに勤務していた日系人研究者へのインタビューより、アメリカの人類学が日系人強制キャンプでの調査から始まり、戦時情報局、CIAの前身のOSSと関係を持ち、それがGHQの調査に継承されていくプロセスを明らかにできた。CIEの調査部長であったH. Passinは、1946年8月に目本民族学協会主催の講演会で「現代アメリカ人類学の諸傾向」を講演しており、その後、当該学会はCIEからの依頼で『日本社会民俗辞典』の編纂に着手して、GHQの人類学を利用して日本社会の深い理解を目指したことが判明した。さらに、CIEは、農地改革などの改革政策について、日本各地に調査拠点を選定し、その調査に日本人の人類学者、民俗学者、社会学者を嘱託で採用して実態調査をさせている。この調査方法が起点となって、アメリカにおける日本研究の基礎となり、また日本におけるアメリカの方法論に基づく調査研究が発展している。しかし、アメリカの学界では、GHQ時代の日本研究について、全く知られていない。本研究は、GHQの人類学者たちの活動を、オラル・ヒストリーと公文書により、戦前から戦後にかけてのアメリカの人類学者の活動を明らかにし、戦後の日本の人類学・民族学・民俗学との関係を解き明かすことに一定の成果を挙げた。