著者
伊藤 和行 中田 良一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

近代西欧科学の発展過程においてモデルとなった古典力学は,17世紀後半にニュートンによってその基礎を築かれたとみなされているが,『プリンキピア』における議論はまったく幾何学的なものであって,現代の我々が馴染んでいるような解析的な科学として成立したのは,18世紀中頃から後半のことである.本研究では,この古典力学の解析化・体系化の過程を,その過程において中心的な役割を果たしたレオンハルト・オイラーの力学理論を中心に検討した.彼以前にも,18世紀前半には,ヨハン・ベルヌーイ,ジャン・ダランベール,ダニエル・ベルヌーイらによって力学の解析化の試みがなされていたが,本研究で検討したように,彼らは,幾何学的に微分小量間の関係式を導くことによって物体の軌道を求めていた.それに対して,オイラーは,空間に固定された座標軸を設定し,各座標に対して二階の微分方程式の形式の運動方程式を立てて問題を解くという方法を体系的に用い,運動エネルギーや角運動量の保存則を導出している.さらに彼は,その方法を質点から剛体へと拡張し,剛体の運動方程式を導出した.このオイラーにおける新しい代数的解析学に基づく力学への転換は,本研究で明らかにしたように,1740年代後半に,惑星運動の考察,そして剛体運動の研究と結びついて起こった.また,彼の運動方程式自体も,それ以前と以後とでは数学的表現が大きく変わっていることも明らかになった.すなわち,初期には,運動方程式の導出はガリレオの落下法則と結びついており,距離の一階微分方程式という特異な形態を取っていたのである.後期には座標の二階微分方程式の形態を取るようになり,落下法則の影響も薄れていくが,単位系としてその影響は残っている.本研究の成果として,オイラーの力学に関する重要な論文を翻訳し,『オイラー力学論文集』として刊行する準備を進めている.