著者
山中 久明 中筋 房夫 桐谷 圭治
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.205-214, 1972-12-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
25
被引用文献数
18 18

ハスモンヨトウ野外個体群の密度の変動に果たす天敵の役割を評価するために,すべての天敵の働きを除去する区,地上移動性天敵の働きを除去する区,天敵を自由に働かせる区の3つの実験区を用いて生命表の作成を試みた。その結果,ハスモンヨトウの1令幼虫期から成虫の羽化までに99.8~100%の高い死亡率がみられ,その内68~89%が,天敵による死亡と評価された。天敵として,6種の寄生性天敵と13種の捕食性天敵が確認された。なかでも,ふ化幼虫集団を分散させて間接的に死亡に導くコサラグモと中・老令幼虫を捕食するアシナガバチがハスモンヨトウ幼虫の個体数変動に重要な役割を果していることが明らかになった。ハスモンヨトウの生存曲線はコサラグモの密度の高い梅雨期にはDEEVEY (1947)のタイプIIIになるが,コサラグモの密度の低い夏期にはタイプIIに移行し,天敵が働かなければタイプIになり,天敵の働き方によって生存曲線のタイプが必ずしも一定でないことが解った。
著者
梶村 達人 前岡 庸介 I Nyoman WIDIARTA 須藤 猛 日鷹 一雅 中筋 房夫 永井 一哉
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.137-144, 1993-08-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
11
被引用文献数
15 19

イネの有機栽培がウンカ・ヨコバイ類の個体群密度に与える影響を明らかにするために,岡山県立農業試験場の化学肥料区,有機肥料区,無肥料区および岡山市の有機栽培田で発生密度の調査を行った。1) 有機栽培田ではツマグロヨコバイの密度が各世代とも極めて低かった。このことは,有機栽培田が乾田直播地帯にあり,冬期の耕起のためツマグロヨコバイの侵入世代密度が地域的に低かったことによると考えられた。2) 有機栽培田におけるセジロウンカの侵入世代密度は他の区と同程度であったが,その後の増殖率は著しく低く,第1世代幼虫期以降の密度は他の区に比べ著しく低くなった。3) トビイロウンカ第3世代幼虫の密度は有機栽培田で最も低かった。このことは侵入世代成虫の密度が有機栽培田で低かったことに起因すると推測された。4) 天敵類の密度は有機栽培田で特に高い傾向は認められなかったことから,ウンカ類の密度が有機栽培田で最も低くなった原因は天敵以外の要因によると示唆された。
著者
日浦 勇 中筋 房夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.185-189, 1982-03-25

イチモンジセセリParnara guttataは,初秋に多数の成虫が一定方向に移動することで良く知られている.これまでに多数のナチュラリストによる移動の記録があり,これらは山下(1955),日浦(1973,1980)によってまとめられている.それによると,移動現象は北は福島から西は山口までの間にのみ観察され,この種が普遍的に分布する四国では唯1例の報告しかなく,九州と琉球列島にいたっては観察例は皆無である.本種の移動をめぐって,最近,個体群生態学や生理学の立場から新しく研究が行われているが(ISHII and HIDAKA,1979; ONO and NAKASUJI,1980;NAKASUJI et al.,1981),しかし,未だ多くの問題を残している.四国・九州・琉球地方では本当に移動をしていないのか,それとも移動はしているが何らかの理由で観察され難いだけなのか,を明らかにすることは,本種の移動の意味を考える上で非常に重要な問題である.そこで筆者等は1979年,西南日本各地の日本鱗翅学会会員221名と,大学農学部や農事試験場の害虫研究者29名の方々に,アンケートによる調査をお願いした.回答依頼内容は,(1)移動のみられた日付と場所,(2)天気,(3)時刻,(4)風向,(5)移動方向,(6)移動の規模で,7月25日に発送した.不幸にも1979年は,全国的にイチモンジセセリの移動は軽微にしか起らなかった年のようであり,回答も少なかったが,なお貴重な情報を含んでいるので報告しておきたい.はじめに,筆者等の要望を容れられ,わざわざ回答下さった次の23名の方々に厚くお礼申上げる.安部琢哉・福田正・行徳直巳・平尾重太郎・久川健・市川俊英・河合まり・小林義徳・栗林慧・宮原和夫・宮武頼夫・永井彪・仲盛広明・中村慎悟・岡部正明・住田紘・田中洋・竹東正・山野忠清・山下善平・矢田脩・淀江賢一郎・吉岡幸治郎の諸氏(ABC順).