著者
松野 竜工 橘木 康文 足立 貴志 中西 和毅 木山 良二 榊間 春利 井尻 幸成
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.102, 2019

<p>【目的】一般に成長期野球選手の投球障害はover useや不良な投球動作により生じる。特に、肩肘の故障しやすい投球動作として、「体の開き」と「肘下がり」が考えられている。これは投球動作指導の重要なポイントになるが「体の開き」と「肘下がり」の関係性に関してはよく分かっていない。今回、投球動作時の体幹及び骨盤回旋運動に着目し、「体の開き」と「肘下がり」の関係性について運動学的に検討した。</p><p>【方法】対象は中学生野球選手32名とした。ポジション及び現在と過去3ヵ月における疼痛の有無に関するアンケート調査を施行した。胸骨柄と第2仙椎後面に3軸加速度センサーを貼付し、スローカメラを用いて投球動作を撮影した。投球動作はワインドアップ期(knee highest position:KHP)-後方引込期-並進運動期-コッキング期(foot plant:FP)-加速期(maximum external rotation:MER)までの投球動作を解析した。体幹及び骨盤の回旋運動は、投球動作開始前の静止立位時の体幹及び骨盤角度を基準とした。「肘下がり」はMER時の肩肩肘ラインにて判断した。「肘下がり」の有無により2群(「肘下がり」群、「肘下がり」無し群)に分類し、体幹回旋角度(胸骨回旋角度)と骨盤回旋角度を各投球相で比較した。さらに「肘下がり」角度と、骨盤と体幹の相対角度との関係性を検討した。統計学的解析には対応のないt検定,Pearsonの相関係数を用い、有意水準を5%未満とした。</p><p>【結果】32例中のポジション別内訳は投手5名、捕手3名、野手24名であった。現在疼痛を有する群は13例(43%)、過去3ヵ月に疼痛が認められた群は23名(71%)であった。疼痛の有無と肘下がり角度の比較では有意差は認められなかった。32例中、14名(44%)の選手に「肘下がり」が認められた。体幹及び骨盤の回旋タイミングは、「肘下がり」群において早期に体幹及び骨盤回旋運動が生じ、体幹及び骨盤回旋角度は増加していた。特に「肘下がり」無し群と比較してFP時の体幹回旋角度は有意に大きかった(p<0.05)。「肘下がり」角度は骨盤と体幹の相対角度と正の相関(r=0.55、p < 0.05)を認めた。</p><p>【考察】今回、肘下がりと疼痛の関連性は認められなかったが、「肘下がり」を呈した選手は、早期に体幹と骨盤の回旋運動が生じ、回旋角度が増加していた。また、「肘下がり」角度が大きい選手は骨盤に対する体幹の回旋角度が大きく、いわゆる「体の開き」を生じていることが示された。成長期野球選手は一般にMER時の肩外転角度が小さく、肘が下がり、体の開きが早く上肢に依存した投球動作になりやすい。今回の結果は、「体の開き」と「肘下がり」には投球動作における骨盤及び体幹回旋運動のタイミングや回旋角度、骨盤に対する体幹回旋角度が密接に関連していることが示唆された。</p><p> </p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は霧島整形外科倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:00012)。また研究の実施に際し、対象者に研究について十分な説明を行い、同意を得た。</p>