著者
中井 雄貴 川田 将之 宮崎 宣丞 木山 良二 井尻 幸成
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.I-69_1-I-69_1, 2019

<p>【はじめに、目的】</p><p> 体幹筋は歩行やADLで重要な役割を果たすことが知られている。腰痛や脊椎の術後等において、体幹筋のトレーニングは必須であるが、体幹の運動を伴わずにトレーニングすることが必要な場合がある。また、日常生活では体幹筋単独で活動することは少なく、下肢と機能的に連動して活動することが多い。背臥位における片側の股関節の内外旋運動は、骨盤を固定するために体幹筋の活動が必要であり、トレーニングとして活用できると考えられる。本研究の目的は、健常者を対象に背臥位における股関節内外旋運動が体幹筋に及ぼす影響を明らかにすることである。</p><p>【方法】</p><p> 対象は健常成人20名とした。膝関節90°屈曲位の背臥位における片側の股関節内外旋の等尺性収縮、及びクランチと片側下肢自動伸展挙上(ASLR)における体幹筋の活動を比較した。なお、股関節内外旋の等尺性収縮は左右股関節それぞれで行い、抵抗は大腿骨内外側上顆に加え80Nに統一した。</p><p> 体幹筋の活動の分析には、表面筋電計(EMG)および超音波画像診断装置(エコー)を用い、活動電位と筋厚を測定した。分析対象は右側の外腹斜筋、内腹斜筋、腹直筋(EMGのみ)、腹横筋(エコーのみ)、多裂筋(EMGのみ)とした。活動電位は最大随意収縮時の活動電位で正規化し、筋厚は安静時の筋厚で除し正規化した。</p><p> 事前に、筋活動と筋厚の最小可検変化量を算出した。統計学的検定には反復測定の一元配置分散分析もしくはFriedman検定、および多重比較検定を用い比較した。有意水準は5%未満とした。</p><p>【結果】</p><p> 右内腹斜筋の活動電位は、右股関節内旋20.8±11.6%と左股関節外旋13.7±9.0%(p < 0.001)、右外腹斜筋は右股関節外旋11.6±9.2%、左股関節内旋11.2±9.2%( p < 0.001)で最も高い値を示した。また、右腹直筋はクランチ17.2±7.3% (p < 0.001)、右多裂筋は右股関節内旋25.7±13.4%と左股関節外旋22.8±12.5%( p < 0.001)で高い値を示した。</p><p> 右内腹斜筋の筋厚は活動電位とほぼ類似した傾向を示したが、外腹斜筋の筋厚は一部に筋活動と異なる傾向を示した。右腹横筋の筋厚は、右股関節内旋144.5±27.4%と左股関節外旋129.2±25.7%で高値を示した(p < 0.001)。活動電位および筋厚で観察された差は、最小可検変化量よりも大きかった。</p><p>【考察、結論】</p><p> 本研究の結果より、片側股関節の内外旋運動はクランチやASLRよりも有意に同側の内腹斜筋と多裂筋、対側の外腹斜筋を活動させることが示された。これは、片側の股関節の回旋運動に抗して骨盤・体幹を安定させるためにカウンターとして、体幹筋群の活動が必要とされるためである。片側の股関節内外旋の負荷を利用した運動は、下肢と体幹を連動させる通常の運動に近似した筋活動を促すトレーニングとして利用可能と考えられる。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は鹿児島大学医学部疫学研究等倫理委員会の承認(No 170116)を得たものである。ヘルシンキ宣言に則って研究計画の説明を行い、書面にて同意を得た後に研究を実施した。</p>
著者
松野 竜工 橘木 康文 足立 貴志 中西 和毅 木山 良二 榊間 春利 井尻 幸成
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.102, 2019

<p>【目的】一般に成長期野球選手の投球障害はover useや不良な投球動作により生じる。特に、肩肘の故障しやすい投球動作として、「体の開き」と「肘下がり」が考えられている。これは投球動作指導の重要なポイントになるが「体の開き」と「肘下がり」の関係性に関してはよく分かっていない。今回、投球動作時の体幹及び骨盤回旋運動に着目し、「体の開き」と「肘下がり」の関係性について運動学的に検討した。</p><p>【方法】対象は中学生野球選手32名とした。ポジション及び現在と過去3ヵ月における疼痛の有無に関するアンケート調査を施行した。胸骨柄と第2仙椎後面に3軸加速度センサーを貼付し、スローカメラを用いて投球動作を撮影した。投球動作はワインドアップ期(knee highest position:KHP)-後方引込期-並進運動期-コッキング期(foot plant:FP)-加速期(maximum external rotation:MER)までの投球動作を解析した。体幹及び骨盤の回旋運動は、投球動作開始前の静止立位時の体幹及び骨盤角度を基準とした。「肘下がり」はMER時の肩肩肘ラインにて判断した。「肘下がり」の有無により2群(「肘下がり」群、「肘下がり」無し群)に分類し、体幹回旋角度(胸骨回旋角度)と骨盤回旋角度を各投球相で比較した。さらに「肘下がり」角度と、骨盤と体幹の相対角度との関係性を検討した。統計学的解析には対応のないt検定,Pearsonの相関係数を用い、有意水準を5%未満とした。</p><p>【結果】32例中のポジション別内訳は投手5名、捕手3名、野手24名であった。現在疼痛を有する群は13例(43%)、過去3ヵ月に疼痛が認められた群は23名(71%)であった。疼痛の有無と肘下がり角度の比較では有意差は認められなかった。32例中、14名(44%)の選手に「肘下がり」が認められた。体幹及び骨盤の回旋タイミングは、「肘下がり」群において早期に体幹及び骨盤回旋運動が生じ、体幹及び骨盤回旋角度は増加していた。特に「肘下がり」無し群と比較してFP時の体幹回旋角度は有意に大きかった(p<0.05)。「肘下がり」角度は骨盤と体幹の相対角度と正の相関(r=0.55、p < 0.05)を認めた。</p><p>【考察】今回、肘下がりと疼痛の関連性は認められなかったが、「肘下がり」を呈した選手は、早期に体幹と骨盤の回旋運動が生じ、回旋角度が増加していた。また、「肘下がり」角度が大きい選手は骨盤に対する体幹の回旋角度が大きく、いわゆる「体の開き」を生じていることが示された。成長期野球選手は一般にMER時の肩外転角度が小さく、肘が下がり、体の開きが早く上肢に依存した投球動作になりやすい。今回の結果は、「体の開き」と「肘下がり」には投球動作における骨盤及び体幹回旋運動のタイミングや回旋角度、骨盤に対する体幹回旋角度が密接に関連していることが示唆された。</p><p> </p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は霧島整形外科倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:00012)。また研究の実施に際し、対象者に研究について十分な説明を行い、同意を得た。</p>
著者
川村 英樹 山元 拓哉 長友 淑美 鶴 亜里沙 石堂 康弘 横内 雅博 井尻 幸成 小宮 節郎
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.277-281, 2007 (Released:2007-06-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1

25歳女性.妊娠34週突然左腰殿部痛出現.仙骨硬膜外ブロック施行されるも疼痛軽減せず当院産科に緊急搬送となる.入院時疼痛強く仰臥位不能,左仙腸関節部に圧痛を認めた.発熱,炎症所見(白血球数9400/μl,CRP 11.91)があり,骨盤部MRI上左仙腸関節周囲の信号変化,また血液培養,カテーテル尿培養よりメチシリン感受性黄色ブドウ球菌を認め,尿路感染に伴う菌血症により発生した化膿性仙腸関節炎と診断し,セファゾリンによる抗菌化学療法を開始.症状改善し妊娠39週にて帝王切開により出産.母子ともに経過良好であり産後3週自宅退院となる.仙腸関節は菌血症性関節炎の好発部位の一つであり,妊娠にともなう子宮の増大等が誘因と考えられた.胎児への影響を考慮する必要があるため診断,治療に難渋するが,妊婦の腰殿部痛の原因として化膿性仙腸関節炎も鑑別する必要がある.