著者
山田 修司 中西 康剛
出版者
京都産業大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

結び目理論においては、近年、量子不変量と呼ばれる一連の不変量が発見され、精力的に研究されている。また、結び目理論は、低次元幾何学特有の複雑な現象が見られる分野でもある。当研究では、その複雑な現象と不変量とを暗号理論に結びつけて、新しい公開鍵暗号システムを構築することにあった。公開鍵暗号システムを構築するには、逆関数は存在しているが、その計算は非常に困難であるような、落とし戸関数と呼ばれる関数が必要となる。当研究においては、その関数を結び目の複雑性に求めた。研究成果として、研究代表者は、結び目ダイアグラムおよび組み紐群を用いた、新しい暗号システムの素案を考え出した。結び目ダイアグラムを用いたものは、ダイアグラムを表すコード列である、P-dataと呼ばれるものを暗号化のためのデータとして用いるものである。平文のデータを用いてP-dataを作り、それに適当な交点情報を付け加えてできる結び目ダイアグラムをライデマイスター変形を行うことにより、暗号化を行う。また、組み紐群を用いた暗号システムには、韓国の研究者グループが先鞭を打っているが、当研究においては、彼らの実績をふまえつつ、暗号化手続きにさらに複雑な手順を施し、暗号の保守性を高めたものを考案した。しかしながら、どちらの暗号システムにおいても、暗号化のための効果的なアルゴリズムの存在と、暗号の保守性とを両立させるものを構築するには、至らなかった。
著者
樋口 保成 中屋敷 厚 中西 康剛 佐々木 武 高山 信毅 高野 恭一
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究の主要な成果は大別して3つの部分に分かれる。その第一は相転移モデルの代数解析的、確率論的研究の部分であり、第二は超幾何微分方程式系の幾何学的、解析的な研究、そして第三は結び目の理論の研究の部分である。これらの三つの部分はゆるやかだが互いに影響を及ぼしあっており、特に本研究では代数的手法がその相互をつなぐ主要要素となった様に思われる。まとめて見ると予定以上に豊かな成果を得ることができた。以下、主要な成果のみを列挙する。第一の部分ではXXZ模型及び8頂点模型の一点相関関数の形を求めることに成功した(中屋敷)。また、二次元イジング模型におけるパーコレーションの相ダイアグラムを定性的な意味では完全に決定することができた(樋口)。一方、超幾何微分方程式系の研究では、E(3,6)の局所解を構成し、そのモノドロ〓郡の形算に成功した(佐々木、高山)。また、ガウスの超幾何関数のゲルファントによる多変数への拡張を合流型について行ない、最も基本的な性質を調べている。(高野)この多変数型の超幾何関数については、記億をもつランダム・ウォークの再帰性を調べるときにも現われることが最近わかった。これは新しいタイプの超幾何関数に対するアプローチになるようであり、今後ますます研究を深める必要が有ると思われる。最後の結び目の理論の研究においては、どんな結び目でも絡み数が偶数である平凡な結び目で偶数回ひねることを有限回行なえば平凡にできるという結果を含む一般的な結果を得ている(中西)。以上の数学的成果の他にも、重要な成果の一つとして、これらの計算の一部を支える計算環論の種々のアルゴリズムを組み込んだプログラム言語Kanを開発した(高山)ことを挙げたい。このソフトはインターネット上で公開している。