著者
中須賀 常雄
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.413-519, 1979-12-11
被引用文献数
7

マングローブ林は熱帯および亜熱帯の海岸および河口の泥土上に生育する特殊な群落である。本群落は日本では九州本島南端の鹿児島県を北限とし, 南下するにつれて発達し, 南限の西表島で最も発達した群落を形成している。本論文ではこれまでほとんど明らかにされていなかった日本各地の大小のマングローブ分布地の確認, 分布状況の調査をおこない, 更に方形区調査も合せておこなった。即ち, 九州本島, 種子島, 屋久島, 奄美大島, 沖縄本島, 久米島, 宮古島, 伊良部島, 石垣島, 小浜島および西表島の各島において生育地を確認し, 各生育地では生育樹種およびその生育状況(胸高および根元直径, 樹高, 生殖器官の有無)および生育面積について調査した。次に種子島, 屋久島, 奄美大島, 沖縄本島, 石垣島および西表島の各生育地に合計73箇の調査区を設定し, マングローブ林の林分構造を明らかにした。また, これらの調査区において生立木の平面的個体分布の解析をおこない, 更にこの結果よりマングローブ林の成立および発達過程について考察をおこなった。現存量に関する調査は沖縄本島のメヒルギ林と石垣島のオヒルギ林およびヤエヤマヒルギ林において層別刈取法を使って現存量測定をおこない, これら林分の現存量および生産構造について解明した。以上のマングローブ林の分布状況と林分構造およびその成立, 発達過程, 現存量についての調査研究は総合的な観点からの解析, 考察より次のようにまとめられた。1.日本に分布するマングローブ構成種はメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギ, ヒルギダマシ, ヒルギモドキ, マヤプシギ, ニツパヤシの7種である。2.日本におけるマングローブ分布地は九州本島に3箇所, 種子島に4箇所, 屋久島に1箇所, 奄美大島に3箇所, 沖縄本島に34箇所, 久米島に1箇所, 宮古島に5箇所, 伊良部島に2箇所, 石垣島に30箇所, 小浜島に1箇所および西表島に24箇所, 合計108箇所である。なお, この他に南大東島に1箇所マングローブ分布地がある。3.日本のマングローブ生育北限地は鹿児島県川辺郡大浦町である。これは世界的にみても分布北限にあたる。各マングローブ種の自生北限はメヒルギが種子島西之表市湊, オヒルギが奄美大島住用村, ヤエヤマヒルギが沖縄本島東村, ヒルギモドキが沖縄本島金武村, ヒルギダマシが宮古島平良市島尻, マヤプシギが八重山群島の小浜島である。ニッパヤシが西表島の船浦である。4.日本における各マングローブ種の生育地を北から南へみてゆくと, 九州本島, 種子島および屋久島にはメヒルギのみ, 奄美大島にはメヒルギとオヒルギ, 沖縄本島にはメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギ, ヒルギモドキの4種, 宮古島にはメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギ, ヒルギダマシの4種, 石垣島にはメヒルギ, オヒルギ, ヤエヤマヒルギ, ヒルギダマシ, ヒルギモドキの5種, 西表島には上記5種にマヤプシギとニッパヤシを加えた7種が分布している。沖縄本島以北の生育地ではメヒルギが優占し石垣島と小浜島および西表島ではオヒルギが優占している。宮古島と伊良部島はその中間に位置し, 特に優占する種は認められない。従って, 日本のマングローブ林は九州本島, 種子島, 屋久島, 奄美大島, 沖縄本島および久米島がメヒルギ優占地域, 石垣島と小浜島, および西表島がオヒルギ優占地域という2つの地域に区分される。また, マングローブ林は林床に他の植生を有せず, 既に述べたマングローブ種のみから成りたっている。5.メヒルギおよびオヒルギはその生育個所から樹形の違いを加えて異なる型に区分された。メヒルギではメヒルギI型は海側前面および流路側林縁に生育するもので矮生で前縁型とした。メヒルギII型はメヒルギI型とメヒルギIII型との中間の生育個所を占め, 中間的樹形を示し中間型である。メヒルギIII型は最も内陸側に生育するもので樹高の高いもので内陸型である。オヒルギはマングローブ林において普通最も内陸側に生育することが認められたが, 海岸側前面に生育する矮生のものも生育している。前者は内陸型, 後者は前縁型と区分された。6.マングローブ林は上層を占める主要種から種々の林分型に区分される。メヒルギ優占地域のマングローブ林は1)メヒルギI型2)メヒルギII型3)メヒルギIII型4)メヒルギ・オヒルギ型5)メヒルギ・(オヒルギ)型6)オヒルギ・(メヒルギ)型7)オヒルギ型8)ヤエヤマヒルギ型の8林分型に区分された。また, 同様にオヒルギ優占地域のマングローブ林は1)オヒルギ型2)ヤエヤマヒルギ型3)ヤエヤマヒルギ・オヒルギ型4)メヒルギ型5)マヤプシギ型6)ヒルギダマシ型の6林分型に区分された。7マングローブ林において構成種のすみわけが海岸または流路から内陸へ向って認められた。メヒルギ優占地域ではヤエヤマヒルギ・ヒルギモドキ⟶メヒルギ・オヒルギの順である。前述のメヒルギ区分ではメヒルギはメヒルギI型⟶メヒルギII型⟶メヒ
著者
中須賀 常雄 馬場 繁幸 高畠 恵光
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.27-33, 1990
被引用文献数
1

During October 1986,excessive sap uptake by jumping plant lice (Heteropsylla cubana) caused severe damage to the canopy foliage of the Leucaena leucocephala scrub at a site in central Okinawa Island. From December 1986 to June 1988 a study was made of the vegetational succession on the floor beneath the damaged canopy. By the December 1986,two types of herbaceous undergrowth, zebra grass (Miscanthus sinensis) and the climber Ipomoea acuminata, had begun to grow. Investigations revealed about 4,000 seeds/m^2 to be burried in the topsoil, 35% of which were lost during half of the 1987 growing season. Seedling number gradually decreased due to both coverage by the herbaceous species and to the repeated attacks by jumping plant lice. The seedlings of broadleaved tree species were suptessed by zebra grass, and gradually decreased in number, whereas in stands of the climbing plant, they were able to maintain their numbers. The damage to Leucaena trees by jumping plant lice is so severe that reforestation by making coppices from remnant trees and the growth of seedlings on the stand floor does not feasible. Following the likely the stand floor destraction of the Leucaena scrub, succession may depend on the result of the competition between zebra grass and the seedlings of broad-leaved tree species.
著者
中須賀 常雄 馬場 繁幸 伊藤 和昌
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.231-239, 1982-12-01

1.本論は八重山群島西表島船浦湾の海岸林における植生の配列について, 1978年10月および1980年8月に調査・研究したものである。2.本地の海岸林は海浜林, マングローブ林および縁取林の3林型に区分され, これらは地形と対応して更に小区分された。小区分された林型は地形と対応して複雑に配列しているが, 海岸から内陸への基本的な配列パターンは次のとおりである。海浜林(海浜草本帯⇾前浜堤低木林⇾浜堤低木林⇾後浜堤低木林⇾堤州低木林)⇒マングローブ林(ヒルギモドキ林⇾オヒルギ林⇾ヤエヤマヒルギ林⇾オヒルギ林)⇒海浜林(浜堤低木林⇾浜堤高木林)⇒マングローブ林(オヒルギ林⇾ヤエヤマヒルギ林⇾ヤエヤマヒルギ・オヒルギ林⇾オヒルギ林)⇒縁取林(アダン林)3.各林型の上層構成樹種は海浜林ではテリハクサトベラ, アオガンピ, イソフジ, ハテルマギリ, トベラ, クロヨナ, オオハマボウ, タイワンウオクサギ, ミズガンピ, シマシラキ, テリハボク, ヒメユズリハ, オキナワシャリンバイ, ヤエヤマコクタン, マングローブ林ではヒルギダマシ, ヒルギモドキ, ヤエヤマヒルギ, オヒルギ, 縁取林ではアダン, アコウ, ハマイヌビワ, アカギ, ハスノハギリ, オキナワキョウチクトウ, オオバギ, クロヨナ, サガリバナであった。