- 著者
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初貝 安弘
笠 真生
丸山 勲
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2005
現代物理学においては「対称性の破れ」とそれを記述する「秩序変数」の概念が基本的であると考えられてきた。主たる現代物理学の目的の一つはこれらを用いた物理的な「相」の分類、理解であったと言えよう。特にその相の質的変化としての「相転移」においては臨界点における局所的ゆらぎ時空間的な発散的振る舞いの正確な記述のために局所的場の理論を用いた繰り込み群ならびにその再帰的階層的概念が極めて有効であり、Landau-Ginzberg-Wilsonによる一つの認識論的パラダイムが構築されるに至った。一方近年の研究の進展により、量子効果が古典論に対する摂動であるにとどまらず、新たな物質相としての「量子相」が広く存在することが認知されるに至った。物性論に例をとれば種々の量子ホール相、強相関電子群におけるスピン液体相、近藤格子系等における量子液体相、整数スピン鎖におけるHaldane相等がその典型例となる。これらは、如何なる対称性の破れを伴わず、古典的秩序変数によっては特徴づけることのできない古典的対応物の存在しない真に量子的な新物質相である。これらの相は「量子液体相」と近年総称され多くの興味をあつめている。これらの新奇な「量子相」「量子液体相」の存在とその重大な意義の認識は上述の古典的パラダイムからのパラダイムシフトの必要性を強く示唆し、あらたな自然法則の理解、発見を要求する。その要求に応えるべく提案されたのが、「トポロジカル秩序」「量子秩序」の概念であり、共同研究者とともに、私もその概念形成を行ってきたものである。このトポロジカル秩序の概念はLGWを越えた新しいパラダイムを目指すものではあるがその正確な定義は現在、まだその建築途上にあるといえる。以上を歴史的背景として本研究において私は量子系の特徴である「幾何学的位相」を用いたベリー接続を直接の手段とし、ベリー位相、チャーン数等により多体の電子論、物性論におけるトポロジカルな秩序変数を構成する理論的提案を行い、それに基づく大規模数値計算機による具体的な数値計算により、シングレット液体相の分類、グラフェンでの量子ホール相の確定等に成功した。また一般化されたVBS状態等におけるエンタングルメントエントロピーを具体的に計算することによりその量子液体相における意義をまた明確にした。