著者
丸山 真一朗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、植物の誕生、即ちシアノバクテリア様生物の細胞内共生によって葉緑体(色素体)が獲得されて以来、共生体から宿主の真核生物のゲノム中へと移行してきた「植物型遺伝子」というものに注目し、藻類・非光合成原生生物においてそれらの遺伝子の進化的・機能的保存性を解明することを目的に解析を進めた。昨年度の成果を基にして解析対象と規模を拡充させると共に、光合成を行う藻類にも解析の重点を移し、「光合成をする/しない」、「葉緑体を持つ/持たない」の境界にあるような真核生物群を対象としてゲノム規模での進化生物学的解析を行った。その結果、現在葉緑体を持つ生物でも太古の地球では別の系統の藻類と遺伝子の伝達交換をしていた可能性が示唆され、地球環境において最も重要な生物的エネルギー転換である光合成の進化という点でも、ゲノムのモザイク的な進化が大きな役割を果たしていることが示された(Yang et al. submitted、 Maruyama et al. editorially accepted)。また、二次共生による色素体の獲得過程において痕跡化した、ヌクレオモルフという共生体核において、これまで核ゲノム中には存在しないと考えられていた、遺伝子が、遺伝子構造の前半と後半が逆順にコードされた「逆順tRNA遺伝子」としてゲノム中に存在し、実際に転写され、タンパク質翻訳に寄与していることを示唆した(Maruyama et al. 2010 Mol Biol Evol)。さらに、共生体と宿主という枠を超え、寄生植物(ストライガ)と宿主植物という共生関係にある真核生物間においても、進化的時間軸で見た場合に比較的「最近」起こった遺伝子の水平伝達により寄生生物のゲノム進化が進んで来たことを示した(Yoshida et al. 2010 Science)。こうした解析により、真核生物ゲノムの複雑性が生物間の遺伝子交流・水平伝達・細胞内共生的伝達によってもたらされるというゲノム進化の基本原理とも言うべき進化過程を明らかにすることができた。
著者
河田 雅圭 杉本 亜砂子 牧野 能士 丸山 真一朗 横山 潤
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

近年発見されたC. elegans の姉妹種であるC. inopinataを用いて、体長の進化に寄与した遺伝子を特定することを目的とした。二種間で大きな体長の差が生じるL4幼虫期と成虫期で、発現パターンが、種間で異なる遺伝子として2699遺伝子が検出された。6種の線虫のうち、C. inopinataの系統でのみ正の選択圧が42の遺伝子で検出され、その中に、daf-2があった。daf-2は細胞膜で発現するインスリン受容体で、C. elegansの変異体は体サイズが大きくなることが知られ、daf-2遺伝子の進化が体サイズの進化に対して大きな影響をもつ可能性が示唆された。