著者
丹羽 幸司
出版者
一般社団法人 日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.91-102, 2019-03-31 (Released:2022-06-30)
参考文献数
27

性同一性障害の身体的治療には、ホルモン治療、乳房形成術、性別適合手術がある。乳房形成術には、乳房切除術と豊胸術がある。加えて、身体を女性化させる補助的手術として、顔面女性化手術、甲状軟骨形成術(喉仏を小さくする)、変声手術などがある。これら身体的治療を行ううえでの診療指針が、世界的にはWPATH(The World Professional Association for Transgender Health)作成の「Standards of Care」であり、本邦においては日本精神神経学会の「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」である。本稿では、各身体的治療について最新の知見を織り込みながら解説する。最後に、身体的治療を行う医師、特に外科医としての心構えについて考えたい。
著者
丹羽 幸司 織田 裕行 石井 慧 康 純 諸富 公昭 磯貝 典孝
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical Journal of Kindai University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1-2, pp.9-15, 2019-06-19

[抄録]性同一性障害(Gender Identity Disorder, GID)は,Female to Male(FTM)と Male to Female(MTF)に大別される.MTF患者に手術治療を行う場合,その精神医学的な特性から,医療側として特別な対応が必要と考えられる.ロールシャッハ・テストに基づく分析によれば,MTFは,FTMに比較して情緒的に不安定であり,悲観的な自己イメージ,逸脱した思考を持つ傾向にあることがうかがわれる.このMTFの精神医学的な特性を鑑み,手術適応の判断においては慎重な医療体制を整える必要があると考える.日本精神神経学会の「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」に則した身体治療適応判定会議で手術治療の承認が得られている患者であっても,GIDに精通した精神科医の外来診察を設けて検討し,場合によっては身体的治療を行う前に精神療法を行うことが重要であると考えられる.そのうえで身体治療医から十分過ぎるインフォームドコンセントを行い,それでもなお手術治療を受けたいと希望する患者を受け入れるべきである.GID患者を受け入れるに際して,特にMTF患者の望ましくない特性を引き出すことのないように,きめの細かい病院対応が求められる.加えて,身体治療を行う医師,特に外科医としての心構えを考え続けたい.