著者
岡野 敏明
出版者
一般社団法人 日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.25-29, 2019-03-31 (Released:2022-06-30)

我が国の自殺死亡率(2015年)は19.7人で、32.7人のリトアニア(2015年)や28.3人の韓国(2015年)などに続き183か国の中でワースト18位となった。自殺予防対策において様々な関係機関が発表する自殺白書などの数字は、非常に大きな意味を成しており、関係各機関は数値目標を立てて対策に取り組んでいる。しかし自殺死亡率は、人口も違えば統計の信頼性や更新頻度が国によって異なるため、単純な比較が難しいとされる。このように視点や要件などが変われば様々な数字が出てくることもあり、一体どの数字を評価対象とすればよいのか、そもそも数字がどこまで現状を反映しているのか、結局自殺死亡率は本当に減少しているのか。統計に影響を及ぼす様々な背景を現場の検案医師の視点から問題提起をする。
著者
髙橋 あすみ 土田 毅 末木 新 伊藤 次郎
出版者
一般社団法人 日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.67-74, 2020-09-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
27

本研究では自殺関連語を検索する者の援助要請行動を促しやすいインターネット広告の内容を検討した。広告は基本的内容に加えて、見出しに直接的メッセージ(相談してください)か共感的メッセージ(つらかったですね)のどちらかを含め、説明文に相談手段と支援者情報を組み合わせて8種類を作成した。6種類の自殺関連語を検索した結果として広告一つがランダムに表示されるようにGoogle広告を設定した。広告のリンク先ページからボタンをクリックすると電話相談窓口へ発信することができた。ボタンクリックの有無を従属変数、広告の要素を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った結果、見出しは共感的メッセージよりも直接的メッセージの方が約1.6倍、見出しが共感的メッセージの場合には相談手段を説明に含んだ方が約1.2倍、ボタンクリックの割合が高くなった。すなわち、自殺の相談を促す広告には直接的メッセージと相談手段を含むことが望ましい。
著者
丹羽 幸司
出版者
一般社団法人 日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.91-102, 2019-03-31 (Released:2022-06-30)
参考文献数
27

性同一性障害の身体的治療には、ホルモン治療、乳房形成術、性別適合手術がある。乳房形成術には、乳房切除術と豊胸術がある。加えて、身体を女性化させる補助的手術として、顔面女性化手術、甲状軟骨形成術(喉仏を小さくする)、変声手術などがある。これら身体的治療を行ううえでの診療指針が、世界的にはWPATH(The World Professional Association for Transgender Health)作成の「Standards of Care」であり、本邦においては日本精神神経学会の「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」である。本稿では、各身体的治療について最新の知見を織り込みながら解説する。最後に、身体的治療を行う医師、特に外科医としての心構えについて考えたい。
著者
阪本 俊生
出版者
一般社団法人 日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.84-96, 2020-03-31 (Released:2022-06-30)
参考文献数
10

デュルケムの『自殺論』は自殺研究の古典の1つとしてよく知られているが、その社会学的視角そのものが、今日の自殺研究に活用されているとは言いがたい。また個人化が進む現代では、この視角から自殺を考えることは困難なようにも見える。本論はこの課題に対して、C・ボードロとR・エスタブレの自殺社会学の研究を足がかりにしつつ、さらにE・ゴフマンの社会学の出会いとフェイス(体面)の視点を導入することで、デュルケム社会学を、現代の自殺研究に活用する新たな視角を紹介する。すなわち、連帯や人とのつながりを重視する社会関係資本論、あるいは社会的排除論や居場所論などとは異なる視角からの自殺研究の可能性を明らかにする。
著者
岡村 毅
出版者
一般社団法人 日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.9-16, 2019-09-01 (Released:2022-06-30)
参考文献数
15

我々の社会は変化を続けている。経済的発展、医学の進歩、都市化などの変化は、社会学の観点からみると単身、独居、無縁、低所得の高齢者の増加に帰結する。また老年医学の観点からは、認知症をもつ人が増加すること、高齢期に初めて住まいを失う人が増加することが新たな課題である。我々は新たな課題に挑み解決方法を探すために、社会の中で最も困難な状況に置かれている人々を支援する組織(ホームレス支援団体)と共同研究を続けてきた。その結果、住まいを失う人々は、中高年男性が多い、学歴資本が少ない、精神的健康が損なわれている、自殺関連行動が多い、自殺関連行動の関連要因はうつ以外にはソーシャルサポートの欠如と住まいの欠如である、精神疾患の合併が多い、刑事施設や病院から路上への経路がある、などの知見を得てきた。さらにホームレス支援団体の実装する支援論が、精神医学の到達した支援と共鳴することも見いだした。
著者
小髙 真美 高井 美智子 立森 久照 太刀川 弘和 眞﨑 直子 髙橋 あすみ 竹島 正
出版者
一般社団法人 日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.36-46, 2022-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
22

【目的】自殺予防のためのゲートキーパー(GK)に最小限必要な知識とスキルを評価する簡便な指標を開発することとした。【方法】内閣府の『ゲートキーパー養成研修用テキスト』からデルファイ法を用いて抽出した、GKに求められる知識とスキルの習得度を評価する尺度を作成した。次にGK研修受講者に研修前後と一週間後に質問紙調査を実施した。質問紙は本研究で開発した尺度(GK知識・GKスキル)、『日本版自殺の知識尺度』『自殺予防におけるゲートキーパー自己効力感尺度(GKSES)』等で構成した。【結果】研修受講者109名から回答を得た。GKスキル得点とGKSES得点に有意な中程度の正の相関が認められた。研修後は研修前よりもGK知識・スキル得点の平均値が有意に高かった。GK知識・GKスキルの各合計得点と研修1週間後の各合計得点には有意な強い正の級内相関が認められた。【考察】本研究で開発した尺度の信頼性と妥当性が確認され、『自殺予防ゲートキーパー知識・スキル評価尺度(GKS)』と命名した。
著者
土居 正人 齋藤 菜摘
出版者
一般社団法人 日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.18-24, 2021-03-31 (Released:2022-04-04)
参考文献数
22

本研究の目的は、自傷誘発のリスクファクターとされる生物学的基盤を持つ感受性(HSP: Highly Sensitive Person)と親から子に対して不承認的態度をとることが自傷傾向(自傷が行われる可能性の高さ)に影響を与えること、そして、そのパス経路の間には推論の誤りが媒介していることといった自傷発生の感情情報伝達過程の一端を実証的研究により検証することであった。方法として、調査は大学生314名(有効回答者数は298名)を対象に実施し、統計的解析では媒介分析を用いた。結果として、気質的な感受性であるHSPから自傷傾向の間には推論の誤りが部分的に媒介していた。そして、母親不承認を高低(平均±0.5 SD)の2群に分けて比較を行ったところ、低群では、HSPは推論の誤りを部分的に媒介していたのに対し、高群では完全に媒介していることが確認された。したがって、HSPは母親不承認が重なると、より高水準の推論の誤りを導き、その結果、自傷傾向を高めていることが示唆された。
著者
髙橋 あすみ 土田 毅 末木 新 伊藤 次郎 TAKAHASHI Asumi TSUCHIDA Takeshi SUEKI Hajime ITO Jiro
出版者
日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.67-74, 2020-09

本研究では自殺関連語を検索する者の援助要請行動を促しやすいインターネット広告の内容を検討した。広告は基本的内容に加えて、見出しに直接的メッセージ(相談してください)か共感的メッセージ(つらかったですね)のどちらかを含め、説明文に相談手段と支援者情報を組み合わせて8種類を作成した。6種類の自殺関連語を検索した結果として広告一つがランダムに表示されるようにGoogle広告を設定した。広告のリンク先ページからボタンをクリックすると電話相談窓口へ発信することができた。ボタンクリックの有無を従属変数、広告の要素を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った結果、見出しは共感的メッセージよりも直接的メッセージの方が約1.6 倍、見出しが共感的メッセージの場合には相談手段を説明に含んだ方が約1.2 倍、ボタンクリックの割合が高くなった。すなわち、自殺の相談を促す広告には直接的メッセージと相談手段を含むことが望ましい。
著者
末木 新
出版者
日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.35-41, 2017-11

自殺対策の実施は公的資金に頼るところが大きいが、対策に対する税金の投入については、否定的な意識を持つ者が少なくない。そこで本研究では、自殺対策を不必要だと考えている者の特徴について探索的な検討を行った。調査はインターネット調査会社を介して、20歳以上の調査会社の登録モニターに対して実施された。2530名のデータを分析したところ、自殺対策への支払意思額の決定に関わる動機として「自殺対策は必要ないから」と回答した者(自殺対策を必要ないと考える者)は214名(8.5%)であった。ロジスティック回帰分析の結果、男性、未婚、低学歴、無職であることは自殺対策を必要ないと考える者であることと、親しい者の自殺の経験があることは自殺対策を必要ないと考える者でないことと統計的に有意に関連していた。本研究の結果、自殺対策に関する啓発活動のターゲットは自殺のリスク・ファクターとなるデモグラフィック属性を有している可能性が高いことが示唆された。