著者
久保 篤史
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.23-38, 2022-02-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
66

東京湾は大都市である東京を流域に持っており,人間活動の影響,特に下水処理水の影響を強く受けている。本稿では,筆者がこれまでに行ってきた東京湾における炭素循環・栄養塩類循環研究の成果を紹介する。東京湾における二酸化炭素収支は世界の沿岸海域と異なり二酸化炭素の吸収域となっていた。東京湾では植物プランクトンの光合成による二酸化炭素消費が陸域起源有機物の分解による二酸化炭素供給を上回った結果だと考えられる。これは,流域での下水処理により易分解性有機炭素や粒状有機炭素の大部分が除去され,主に難分解性有機炭素が東京湾に供給されていることに由来する。同様に東京湾流域の下水処理場における高度処理開始は東京湾に流入する栄養塩負荷量を低下させ,東京湾内の栄養塩濃度を低下させていた。流域の下水整備・処理効率の上昇や高度処理の開始により,東京湾の有機炭素・栄養塩類濃度は減少していた。それに伴い東京湾は二酸化炭素の放出域から吸収域へと変化していた。すなわち,栄養塩類濃度の減少を上回る易分解性有機炭素や粒状有機炭素除去の寄与が相対的に大きい結果と考えられる。