著者
福島 卓矢 辻 哲也 中野 治郎 石井 瞬 杉原 進介 佐藤 弘 川上 寿一 加賀谷 斉 田沼 明 関根 龍一 盛 啓太 全田 貞幹 川井 章
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.143-152, 2023 (Released:2023-05-16)
参考文献数
24

【目的】がん診療連携拠点病院における入院がんリハビリテーション(リハ)治療の詳細を明らかにし,基礎データを確立することである.【方法】質問紙を用いた調査研究であり,リハ専門職種を対象に,施設概要,入院がんリハ実施の有無,Dietz分類,対象疾患,治療内容を調査した.【結果】Dietz分類の回復で最も関わりが多く,対象疾患は肺,大腸,血液,胃,肝・胆・膵がんの順に多かった.大腸や胃がんでは一般病院,血液がんでは大学病院,骨軟部腫瘍ではがん専門病院,口腔・咽頭・喉頭がんでは大学病院およびがん専門病院での実施割合が有意に高かった.治療内容は歩行練習が最も多く,次いで筋力増強練習,基本動作練習,日常生活動作練習,呼吸リハと続いた.呼吸リハにおいては,大学病院および一般病院での実施割合が有意に高かった.【結論】施設特性に応じて入院がんリハが実施されており,これらの効果検証と発展が課題である.
著者
石井 瞬 辻田 みはる 川村 征大 森岡 銀平 小森 峻 小山 将史 大鑄 俊博 宮田 倫明 神津 玲 中野 治郎
出版者
一般社団法人 日本地域理学療法学会
雑誌
地域理学療法学 (ISSN:27580318)
巻号頁・発行日
pp.JJCCPT22008, (Released:2023-10-03)
参考文献数
42

【目的】本研究の目的は,がん罹患歴のある高齢女性患者のオステオサルコペニアの実態を把握し,オステオサルコペニアとフレイルとの関連性を調べることである.【方法】対象は整形外科通院中の65歳以上の女性高齢患者287名とした.対象をがん罹患歴の有無で罹患群,非罹患群に分け,骨粗鬆症,サルコペニア,オステオサルコペニアの有症率を比較した.さらに,それぞれの群の対象者を,非該当群,骨粗鬆症群,サルコペニア群,オステオサルコペニア群の4群に分け,フレイルの有症率および,その下位項目に該当する割合を比較した.【結果】がん罹患歴のない患者と比較して,がん罹患歴のある患者のサルコペニアおよびオステオサルコペニアの有症率は高値であった.さらに,がん罹患歴のある患者のうち,オステオサルコペニア群はフレイルの有症率が高値であった.がん罹患歴のない患者では,オステオサルコペニアの有無によってフレイルの有症率に差は認められなかった.【結論】がん罹患歴のある高齢女性患者のオステオサルコペニアとフレイルに対する評価・治療の必要性が示唆された.
著者
石井 瞬 夏迫 歩美 福島 卓矢 神津 玲 宮田 倫明 中野 治郎
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.181-189, 2022 (Released:2022-12-16)
参考文献数
30

【目的】本研究の目的は,入院化学療法中の造血器腫瘍患者の倦怠感に関連する要因を明らかにすることである.【方法】本研究は後方視研究である.対象は入院中に化学療法を実施した造血器腫瘍患者90名とした.総合的,身体的,精神的,認知的倦怠感をそれぞれ従属変数とし,基本情報,ADL, Performance Status,不安・抑うつ,身体症状,栄養状態を独立変数として単回帰分析を実施した.単回帰分析で有意差を認めた項目を独立変数として,重回帰分析を実施した.【結果】総合的倦怠感を従属変数とした重回帰分析では抑うつが関連する要因として抽出された.さらに,身体的倦怠感は痛みの有無と抑うつ,精神的倦怠感はmFIMと抑うつが関連する要因として抽出された.【結論】倦怠感の症状がある造血器腫瘍患者に対しては,抑うつや痛み,ADLなどの倦怠感の原因に着目して対応する必要性が示唆された.
著者
石井 瞬 辻田 みはる 川村 征大 森岡 銀平 小森 峻 小山 将史 宮田 倫明 神津 玲 中野 治郎
出版者
一般社団法人 日本地域理学療法学会
雑誌
地域理学療法学 (ISSN:27580318)
巻号頁・発行日
pp.JJCCPT22006, (Released:2023-08-01)
参考文献数
21

【目的】整形外科外来通院中の高齢者を対象に,新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)流行前後におけるフレイル有症率およびフレイルに関連する問題点の有無の変化について,年代別に明らかにすること.【方法】当院で外来リハビリテーションが処方された65歳以上の患者966名を対象とした.前期高齢者および後期高齢者に対して,基本チェックリストのフレイル,複数の項目の支障,運動器,低栄養状態,口腔機能,閉じこもり,認知機能,抑うつ気分の該当の有無をそれぞれ目的変数として二項ロジスティック解析を行った.【結果】前期高齢者においてCOVID-19流行は,基本チェックリストのフレイルおよび抑うつ気分の該当と有意に関連していたが,後期高齢者では関連が認められなかった.【結論】COVID-19流行中は,整形外科外来において,特に前期高齢者のフレイルの合併が増加しやすいことを考慮した上で,評価や治療を検討する必要があると考える.
著者
石井 瞬 夏迫 歩美 福島 卓矢 神津 玲 宮田 倫明 中野 治郎
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.123-131, 2021 (Released:2021-04-16)
参考文献数
28
被引用文献数
1

【目的】造血器腫瘍患者に対して,運動療法を主体とした通常のリハビリテーションに行動変容アプローチを追加した介入効果を検討すること.【方法】化学療法後の造血器腫瘍患者を対象とした.リハビリテーションを実施したコントロール群12名,リハビリテーションに行動変容アプローチを追加した介入を行ったフィードバック群13名に群分けし,リハビリテーション開始時から退院時までの運動機能および身体活動量の変化を解析した.【結果】リハビリテーション開始時から退院時までの変化を比較すると,10 m歩行速度で測定時期に有意な主効果が認められた.また,週間歩数でフィードバック群の測定時期に効果を及ぼす有意な交互作用が認められた.【結論】運動機能と身体活動量のフィードバックを行う行動変容アプローチは,身体活動量を向上させる可能性が示唆された.
著者
壱岐尾 優太 佐賀里 昭 中野 治郎 近藤 康隆 小田 太史 大賀 智史 長谷川 隆史 東 登志夫
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.331-338, 2020 (Released:2020-12-21)
参考文献数
33

【目的】化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)を呈したがん患者の痺れおよび疼痛に対する破局的思考と,自覚症状,上肢機能,生活障害との関連を調べること.【方法】上肢にCIPNを認めた造血器腫瘍および消化器がん患者の破局的思考(PCS:合計得点,反芻,無力感,拡大視),痺れおよび疼痛に対する自覚症状,上肢機能,生活障害を評価し,Spearmanの順位相関係数を求めた.【結果】破局的思考と生活障害との間に有意な相関関係を認め,上肢機能との間には有意な相関関係は認めなかった.PCSの下位項目別では,反芻のみ自覚症状と有意な相関関係を認めた.【結論】上肢にCIPNを認めたがん患者の生活改善のためには,機能面に対する評価やアプローチだけでは不十分な場合があり,破局的思考などの認知的側面に対する評価やアプローチも考慮する必要がある.
著者
沖田 実 中居 和代 片岡 英樹 豊田 紀香 中野 治郎 折口 智樹 吉村 俊朗
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.63-69, 2004-02-20 (Released:2018-09-25)
参考文献数
26
被引用文献数
7

本研究の目的は,温熱負荷ならびに温熱負荷と持続的筋伸張運動を併用した場合の廃用性筋萎縮の進行抑制効果を明らかにすることである。実験動物は,7週齢のWistar系雄ラットで,1週間の後肢懸垂によってヒラメ筋に廃用性筋萎縮を惹起させるとともに,その過程で約42℃の温熱ならびに持続的筋伸張運動,両者を併用した方法を負荷し,筋湿重量とタイプI・II線維の筋線維直径の変化,Heat shock protein 70(Hsp70)の発現状況を検索した。温熱負荷によってHsp70の発現が増加し,タイプI・II線維とも廃用性筋萎縮の進行抑制効果を認めた。そして,これはHsp70の作用によってタンパク質の合成低下と分解亢進が抑制されたことが影響していると考えられた。一方,持続的筋伸張運動でも廃用性筋萎縮の進行抑制効果を認めたが,温熱負荷と併用した方法がより効果的であり,これはHsp70の作用と機械的伸張刺激の作用の相乗効果によるものと推察された。
著者
濱上 陽平 本田 祐一郎 片岡 英樹 佐々部 陵 後藤 響 福島 卓矢 大賀 智史 近藤 康隆 佐々木 遼 田中 なつみ 坂本 淳哉 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0076, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】線維筋痛症は全身の激しい痛みと軟部組織のこわばりによって特徴づけられる難治性の慢性疾患であり,本邦における推定患者数は200万人以上といわれている。線維筋痛症に対する理学療法アプローチとしては,運動療法に加えて鎮痛を目的とした各種の物理療法が行われているが,線維筋痛症の原因・病態が明らかにされていないがゆえに,物理療法に効果があるのか否かは未だ議論が続いており,エビデンスも示されていない。そこで今回,これまでに発表された線維筋痛症に対する物理療法の効果を検証したランダム化比較試験(Randomized controlled trial;RCT)を検索し,メタアナリシスを行ったので報告する。【方法】医学文献データベース(Medline,CINAHL Plus,Pedro;1988年~2016年8月に発表されたもの)に収録された学術論文の中から,線維筋痛症に対する物理療法の効果を検証した論文を系統的に検索・抽出した。その中から,ヒトを対象としたもの,研究デザインがRCTであるもの,アウトカムとして痛みの程度(VSA),圧痛箇所数(Tender point),線維筋痛症質問票(Fibromyalgia Impact Questionnaire;FIQ)のいずれかを用いているもの,結果の数値が記載されているもの,適切な対照群が設定されているもの,言語が英語であるものを採用し,固定効果モデルのメタアナリシスにて統合した。なお,有意水準は5%未満とし,採用したRCT論文はPEDroスコアを用いて質の評価を行った。【結果】抽出された227編の論文のうち,採用条件のすべてを満たした論文は11編であり,PEDroスコアは平均5.82ポイントであった。検証された物理療法の内訳は,低出力レーザーが5編で最も多く,全身温熱療法が4編,電気刺激療法が1編,磁気刺激療法が1編であった。次に,メタアナリシスにおいて,物理療法による介入の有無によって痛み(VAS)の変化を比較した結果,低出力レーザー,全身温熱療法,電気刺激療法,磁気刺激療法のすべてで有意差を認め,効果が確認された。同様に,圧痛箇所数およびFIQの変化を比較した結果,低出力レーザーと全身温熱療法で有意差を認め,効果が確認された。なお,採用した論文の中に電気刺激療法,磁気刺激療法の効果を圧痛箇所数およびFIQで検証したものはなかった。【結論】今回の結果,低出力レーザー,全身温熱療法,電気刺激療法,磁気刺激療法のすべてにおいて線維筋痛症の痛みに対する効果が確認された。採用論文は多くはないが,線維筋痛症に対する物理療法の効果をメタアナリシスで検証した研究は国内外で他に見あたらず,本研究の結果は物理療法のエビデンスの確立に寄与するものと思われる。ただ,電気刺激療法と磁気刺激療法に関しては採用した論文はそれぞれ1編であったため,エビデンスが示されたとは言い難く,今後さらにRCTの発表と蓄積が求められる。
著者
西田 まどか 沖田 実 福田 幸子 岡本 直須美 中野 治郎 友利 幸之介 吉村 俊朗
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.304-311, 2004-08-20
参考文献数
13
被引用文献数
7

本研究では,関節固定法と後肢懸垂法を組み合わせたラットの実験モデルを用いて,持続的伸張運動と間歇的伸張運動が拘縮と筋線維におよぼす影響を検討した。Wistar系雄ラット17匹を対照群3匹と実験群14匹に分け,実験群は両側足関節を最大底面位で固定した上で後肢懸垂法を2週間行った。また,実験算は固定のみの群(固定群,4匹),固定期間中に麻酔下で毎日30分問,ヒラメ筋に持続的伸張運動を実施する群(持続群,6匹),同様に間歇的伸恨運動を実施する群(間歇群,4匹)に分け,実験終了後は足関節背面角度とヒラメ筋の組織病理学的変化を検索した。足関節背面角度は持続群,間歇群が固定群より有意に高値を示したが,この2群のヒラメ筋には著しい筋線維損傷の発生が認められた。よって,持続・間歇的伸張運動ともに本実験モデルの拘縮の進行抑制に効果的であるが,ヒラメ筋に対しては悪影響をおよぼすことが示唆された。
著者
石井 瞬 夏迫 歩美 福島 卓矢 神津 玲 宮田 倫明 中野 治郎
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.330-336, 2021 (Released:2021-06-18)
参考文献数
16

【目的】本研究の目的は,リンパ浮腫外来における圧迫下の運動療法の実施状況と,その実施が抱える問題点を把握することである。【方法】リンパ浮腫外来を実施している全国のがん診療連携拠点病院を対象に,リンパ浮腫ケアの実践内容,運動療法の実施内容,リハビリテーション(以下,リハビリ)スタッフとの連携の有無,運動療法の実施が抱える問題点についてアンケート調査を行った。【結果】リンパ浮腫外来で運動療法を実施している施設は14.2% であった。運動療法を実施できない問題点として「知識・技術のあるスタッフの不足」,「診療時間の不足」,「連携不足」などが挙げられ,運動療法を実施している施設はリハビリスタッフ数が多かった。【結論】今回の調査結果から,リンパ浮腫外来で運動療法を実施するためには専門的な知識をもったリハビリスタッフを育成,増員する必要があることが示唆された。
著者
坂本 淳哉 後藤 響 近藤 康隆 本田 祐一郎 片岡 英樹 濱上 陽平 横山 真吾 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AcOF2005, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 先行研究によれば,関節包に由来した拘縮の発生メカニズムとして線維化の発生が指摘されている.ただ,この線維化の発生状況を詳細に検討した報告はなく,その発生メカニズムも明らかになっていない.一方,手掌腱膜の線維増生によって生じるDupuytren拘縮は,コラーゲン合成に関わるサイトカインを産生する筋線維芽細胞の著しい増加がその発生メカニズムに強く関与しているとされ,肺や肝臓などといった内蔵器の線維化にも筋線維芽細胞の増加が関与していることが近年報告されている.つまり,不動による関節包の線維化に対しても筋線維芽細胞の増加が関与しているのではないかと仮説できる.そこで,本研究では,膝関節不動モデルラットの関節包における線維化の発生状況と筋線維芽細胞の変化を組織学的・免疫組織化学的手法を用いて検討した.【方法】 実験動物には12週齢のWistar系雄性ラット12匹を用い,無作為に無処置の対照群(n=5)と両側後肢を股・膝関節最大屈曲位,足関節最大底屈位にてギプス包帯で4週間不動化する不動群(n=7)に振り分けた.実験開始時は,各群すべてのラットを麻酔し,0.3Nの張力で膝関節を伸展させた際の可動域(ROM)を測定した.そして,実験終了時は,不動群においては前述の方法でROMを測定した後,両側後肢後面の皮膚を縦切開し,膝関節屈筋群を切除した後に,再度,ROMを測定した.なお,対照群においては皮膚の切開や筋の切除は行わず,麻酔下でROMを測定した.その後は,両側膝関節を摘出し,最大伸展位の状態で組織固定を行い,脱灰処理の後,矢状断にて2分割し通法のパラフィン包埋処理を行った.そして,右膝関節の各試料から5μm厚の連続切片を作製し,105μm厚(連続切片21枚)につき1枚,のべ3枚の切片を抜粋し,コラーゲン線維の可視化のためにPicrosirius Red染色を施した.次に,各試料の染色像における後部関節包を40倍の拡大像でコンピューターに取り込み,画像処理ソフトを用いて画像上に縦,横50μm間隔に格子線を描いた.そして,後部関節包のコラーゲン線維束上に存在する格子線の交点の総数を計数し,対照群の平均値を基準に不動群のそれを百分率で算出した.また,筋線維芽細胞のマーカーとして使用されている抗alpha-smooth muscle actin(alpha-SMA)抗体を用いて免疫組織化学的染色を施した後,後部関節包におけるalpha-SMA陽性細胞の出現率を計測し,各群で比較した.なお,統計手法にはMann-WhitneyのU検定を適用し,5%未満をもって有意差を判定した.【説明と同意】 本実験は,長崎大学動物実験指針に基づき長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.【結果】 実験終了時の不動群のROMは,対照群のそれに比べ有意に低値を示し,不動群のすべてのラットは皮膚の切開と筋の切除後もROM制限が残存していた.次に,Picrosirius Red染色像を検鏡すると,不動群では後部関節包の肥厚や線維増生が認められた.そして,前述の方法で画像解析を行った結果,対照群の平均値に対する不動群の百分率は有意に高値を示した.また,不動群におけるalpha-SMA陽性細胞の出現率は対照群のそれに比べ有意に高値を示した.【考察】 今回の結果,実験終了時の不動群のROMが対照群のそれに比べ有意に低値であったことから,拘縮の発生は明らかである.そして,不動群では皮膚の切開と筋の切除後もROM制限が残存しており,これは関節構成体にも拘縮の責任病巣が存在することを示唆している.先行研究によれば,正常関節の運動時の組織抵抗寄与率は関節構成体の中でも関節包が最も大きいといわれており,この残存したROM制限は関節包に由来するところが大きいと考えられる.そして,Picrosirius Red染色像の画像解析の結果は,不動群の後部関節包におけるコラーゲン増生を示しており,不動によって線維化が発生しているといえよう.そして,不動群に認められたalpha-SMA陽性細胞の出現率の増加は,筋線維芽細胞の増加を意味しており,これは不動によって惹起された後部関節包の線維化の発生に関与していると推察される.ただ,線維化の発生時期やその分子メカニズムは不明であり,今後の検討課題と考える.【理学療法学研究としての意義】 今回の結果は,ラット膝関節を屈曲位で4週間不動化すると後部関節包に線維化が惹起され,この変化には筋線維芽細胞の増加が関与する可能性が見出された.つまり,これらの結果は,関節包由来の拘縮の発生メカニズムの解明の一助になる成果と考える.
著者
石井 瞬 夏迫 歩美 福島 卓矢 神津 玲 宮田 倫明 中野 治郎
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11958, (Released:2021-03-17)
参考文献数
16

【目的】本研究の目的は,リンパ浮腫外来における圧迫下の運動療法の実施状況と,その実施が抱える問題点を把握することである。【方法】リンパ浮腫外来を実施している全国のがん診療連携拠点病院を対象に,リンパ浮腫ケアの実践内容,運動療法の実施内容,リハビリテーション(以下,リハビリ)スタッフとの連携の有無,運動療法の実施が抱える問題点についてアンケート調査を行った。【結果】リンパ浮腫外来で運動療法を実施している施設は14.2% であった。運動療法を実施できない問題点として「知識・技術のあるスタッフの不足」,「診療時間の不足」,「連携不足」などが挙げられ,運動療法を実施している施設はリハビリスタッフ数が多かった。【結論】今回の調査結果から,リンパ浮腫外来で運動療法を実施するためには専門的な知識をもったリハビリスタッフを育成,増員する必要があることが示唆された。
著者
中田 彩 沖田 実 中居 和代 中野 治郎 田崎 洋光 大久 保篤史 友利 幸之介 吉村 俊朗
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-5, 2002-02-20 (Released:2018-09-25)
参考文献数
15
被引用文献数
11

本研究では,臥床によって起こる拘縮を動物実験でシミュレーションし,その進行過程で持続的伸張運動を行い,拘縮の予防に効果的な実施時間を検討した。8週齢のIcR系雄マウス34匹を対照群7匹と実験群27匹に振り分け,実験群は後肢懸垂法に加え,両側足関節を最大底屈位で固定し,2週間飼育した。そして,実験群の内6匹は固定のみとし,21匹は週5回の頻度で足関節屈筋群に持続的伸張運動を実施した。なお,実施時間は10分(n = 8),20分(n = 7),30分(n = 6)とした。結果,持続的伸張運動による拘縮の進行抑制効果は実施時間10分では認められないものの,20分,30分では認められ,実施時間が長いほど効果的であった。しかし,30分間の持続的伸張運動でも拘縮の発生を完全に予防することはできず,今後は実施時間を延長することや他の手段の影響を検討する必要がある。
著者
坂本 淳哉 真鍋 義孝 弦本 敏行 本田 祐一郎 片岡 英樹 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0517, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】股関節疾患患者では患部を起源とした関連痛が膝関節前面にみられることが多く,その発生機序の仮説の一つとして二分軸索感覚ニューロンの関与が考えられているが,この点に関する解剖学的な根拠はこれまでに十分に示されていない。一般に,股関節および膝関節前面の知覚は大腿神経ならびに閉鎖神経から分岐する関節枝が支配するとされているが,これらの関節枝の分布状況を同時に検討した報告はこれまでになく,前述したような関連痛の発生機序を明らかにするためには股関節枝と膝関節枝の分布状況を同時に検討する必要がある。そこで,本研究では日本人遺体における大腿神経ならびに閉鎖神経から分岐する股関節枝および膝関節枝の分布状況について検討した。【方法】対象は平成24年度ならびに平成26年度に所属大学の歯学部人体解剖学実習に供された日本人遺体9体9肢(男性5体,女性4体,右側1肢,左側8肢)で,各遺体における大腿神経および閉鎖神経から分岐する股関節枝と膝関節枝を剖出・観察した。なお,観察は所属大学内の定められた解剖学実習室でのみ行い,実習室の管理者の管理・指導のもと,礼意を失わないように実施した。【結果】大腿神経から分岐する股関節枝には①恥骨筋枝から分岐して前内側に達する枝(4肢,44.4%),②腸骨筋枝から分岐して前外側に達する枝(3肢,33.3%)が認められ,閉鎖神経から分岐する股関節枝には①前枝から分岐して股関節前内側に達する枝(3肢,33.3%),②後枝から分岐して股関節前内側に達する枝(2肢,22.2%)が認められた。一方,大腿神経から分岐する膝関節枝には①内転筋管内を下行した後に膝蓋骨内側に達する枝(2肢,22.2%),②内側広筋枝から分岐して膝蓋骨内側に達する枝(5肢,55.6%),③膝関節筋枝から分岐して膝蓋上包に達する枝(6肢,66.7%),④外側広筋枝から分岐して膝蓋骨外側に達する枝(1肢,11.1%)が認められた。また,閉鎖神経から分岐する膝関節枝は前枝から分岐して伏在神経と併走して膝蓋骨下内方に達する枝(1肢,11.1%)が認められた。加えて,各遺体における分布状況を検討したところ,大腿神経の恥骨筋枝から分岐して股関節前内側に達する枝と内側広筋を貫通して膝関節前内側に達する枝を同時にもつ所見が3体で認められた。【結論】以上の結果から,股関節および膝関節の前面は主に大腿神経から分岐する関節枝により支配されることが明らかになった。そして,先行研究を参考にすると,股関節および膝関節の前内側を大腿神経が同時に支配している所見は両関節を支配する二分軸索感覚ニューロンの存在を示す肉眼解剖学的所見とも考えられ,股関節を起源とした膝関節の痛みの発生に関与している可能性が推察される。
著者
本田 祐一郎 梶原 康宏 田中 なつみ 石川 空美子 竹下 いづみ 片岡 英樹 坂本 淳哉 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.I-112_1-I-112_1, 2019

<p>【はじめに,目的】</p><p>これまでわれわれは,骨格筋の不動によって惹起される筋性拘縮の主要な病態はコラーゲンの増生に伴う線維化であり,その発生メカニズムには筋核のアポトーシスを契機としたマクロファージの集積ならびにこれを発端とした筋線維萎縮の発生が関与することを明らかにしてきた.つまり,このメカニズムを踏まえ筋性拘縮の予防戦略を考えると,筋線維萎縮の発生を抑止できる積極的な筋収縮負荷が不可欠といえ,骨格筋に対する電気刺激療法は有用な方法と思われる.そして,最近は下肢の多くの骨格筋を同時に刺激できるベルト電極式骨格筋電気刺激法(Belt electrode-skeletal muscle electrical stimulation;B-SES)が開発されており,従来の方法より廃用性筋萎縮の予防・改善効果が高いと報告されている.そこで,本研究では動物実験用B-SESを用い,不動後早期からの筋収縮負荷が線維化の発生を抑制し,筋性拘縮の予防戦略として有用かを検討した.</p><p>【方法】</p><p>実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット16匹を用い,1)無処置の対照群(n = 4),2)ギプスを用いて両側足関節を最大底屈位で2週間不動化する不動群(n = 6),3)不動の過程で動物実験用B-SESを用い,後肢骨格筋に筋収縮を負荷する刺激群(n = 6)に振り分けた.刺激群の各ラットに対しては大腿近位部と下腿遠位部にB-SES電極を巻き,後肢骨格筋に強縮を誘発する目的で刺激周波数50Hz,パルス幅250µsec,刺激強度4.71 ± 0.32mAの条件で,1日2回,1回あたり20分間(6回/週),延べ2週間,電気刺激を行った.なお,本実験に先立ち正常ラットを用いて予備実験を行い,上記の条件で刺激強度を漸増させ,足関節中間位での最大等尺性筋力を測定した.そして,最大筋力の60%の筋力を発揮する刺激強度を求め,これを本実験の刺激強度に採用した.実験期間中は1週毎に麻酔下で各ラットの足関節背屈可動域を測定し,実験期間終了後は両側ヒラメ筋を採取した.そして,右側試料はその凍結横断切片に対してH&E染色を施し,各筋につき100本以上の筋線維横断面積を計測した.一方,左側試料は生化学的検索に供し,コラーゲン特有の構成アミノ酸であるヒドロキシプロリン含有量を定量した.</p><p>【結果】</p><p> 足関節背屈可動域と筋線維横断面積は不動群,刺激群とも対照群より有意に低値であったが,この2群間では刺激群が不動群より有意に高値を示した.また,ヒドロキシプロリン含有量は不動群が対照群より有意に高値であったが,刺激群は対照群と有意差を認めなかった.</p><p>【考察】</p><p> 今回の結果から,刺激群には筋線維萎縮の進行抑制効果ならびに骨格筋の線維化の発生抑制効果が認められ,このことが足関節背屈可動域制限,すなわち筋性拘縮の進行抑制効果に影響していると推察される. </p><p>【結論】</p><p> 不動後早期からの筋収縮負荷は線維化の発生を抑制し,筋性拘縮の予防戦略として有用であることが示唆された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本実験は長崎大学動物実験委員会で承認を受けた後,同委員会が定める動物実験指針に準じ,長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.</p>
著者
関野 有紀 濵上 陽平 中願寺 風香 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100383, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】近年,ギプス固定などによる四肢の一部の不動が慢性痛の発生因子になることが指摘されており,我々の先行研究においても,ラット足関節を8 週間ギプスで不動化すると不動解除後も痛覚過敏の状態が継続し,慢性痛を呈する可能性が示唆されている。一方,不動期間が4 週間の場合は痛覚過敏の発生は一過性であり,加えて不動4 週目の足底皮膚において表皮の菲薄化や末梢神経密度の増加が生じていたことから,痛みの発生原因は中枢神経系の変化というよりはむしろ末梢組織の変化にあると推測している。我々は,この末梢組織由来の痛みの発生メカニズムについて解析を進め,これまでに末梢神経密度の増加には表皮の構成細胞であるケラチノサイトが産生する神経成長因子(NGF)の増加が関与する可能性を報告した。しかし,不動による皮膚の組織学的変化がどの時期から進行するのかは不明のままであり,課題が残されていた。加えて,近年の研究によれば侵害刺激受容体が神経細胞のみならずケラチノサイトにおいても発現・機能していることが明らかとなっており,末梢における痛覚伝達系への関与が注目されている。そこで,本研究では侵害刺激受容の中心的分子であるTRPV1 およびP2X3の発現変化を含む皮膚の組織学的変化の経時的推移を明らかにすることを目的とした。【方法】実験動物には8 週齢のWistar系雄性ラット60 匹を用い,不動期間を1・2・4 週に設定した不動群(n = 30)とそれぞれに週齢を合わせた対照群(n = 30)に振り分けた。不動群は右足関節を最大底屈位でギプス固定した。不動期間中は,週1 回の頻度で機械的刺激に対する痛み反応をvon Frey filament(VFF)を用いて評価し,具体的には足底部にVFFで刺激(4,15 g ;各10 回)を加えた際の逃避反応をカウントした。また,熱刺激に対する痛み反応の評価として足背部の熱痛覚閾値温度を測定した。各不動期間終了後,ラットを4%パラホルムアルデヒドで灌流固定し,足底部中央の皮膚組織を採取した。組織試料は急速凍結させた後に凍結切片とし,以下の検索に供した。まず,組織学的解析としてHE染色を施した切片を用いて表皮厚を計測した。次に,免疫組織化学的解析として末梢神経(A線維,C線維)をABC法に従って可視化し,真皮上層に分布する末梢神経密度を半定量化した。さらに,NGF,TRPV1 およびP2X3に対する蛍光免疫染色を行い,表皮層における発現強度を半定量化した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は長崎大学動物実験委員会が定める動物実験指針に基づき,長崎大学先導生命体研究支援センター・動物実験施設において実施した。【結果】不動群のVFF刺激に対する逃避反応回数は,4 gでは不動2 週より,15 gでは不動1 週より対照群に比べ有意に高値を示し,また,不動群の熱痛覚閾値温度は不動1 週より対照群に比べ有意に低値を示し,これらの行動学的変化は不動期間に準拠して顕著になった。足底皮膚を解析した結果,不動群の表皮厚は不動1 週より対照群に比べ有意に低値を示し, A 線維の末梢神経密度は不動1 週より,C線維のそれは不動2 週より対照群に比べ有意に高値を示した。また,TRPV1 およびP2X3発現量はともに不動2 週より不動群が対照群に比べ有意に高値を示し,これらの変化はすべて不動期間に準拠して顕著になった。一方,NGF発現量は不動1 週より不動群が対照群に比べ有意に高値を示したが,その発現レベルは不動期間を通じて一定であった。【考察】今回の結果から,表皮の菲薄化,末梢神経密度の増加,ケラチノサイトに発現する侵害刺激受容体の発現増強は不動1 〜2 週という早期から発生し,その程度は不動期間に準拠して顕著になることが明らかとなった。また,それらの推移は痛みの行動学的変化と同様であったことから, 不動に伴う痛みの発生に皮膚の組織学的変化が深く関与することが示唆された。NGFは神経成長因子としての役割に加え,一次知覚神経に発現するTRPV1 やP2X3などの発現あるいは機能増強を誘導する内因性メディエーターとしての機能を持つ。NGFの増加自体が痛みの直接的な原因になっていることも十分に考えられ,今後さらに検討を進めたい。【理学療法学研究としての意義】本研究は,不動に伴う痛み発生メカニズムにおいて皮膚組織がその責任組織の一端を担っている可能性を提示した。われわれ理学療法士は皮膚組織を含む末梢組織に対して直接的に介入可能であることから,本研究の進展は,不動に伴う痛みに対する理学療法学的な介入方法の開発につながると期待でき,理学療法学研究として十分な意義がある。