著者
茶谷 直人 久山 雄甫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、<魂><精神><身体>からなる「人間三元論」の系譜について、「プネウマ」から「ガイスト」にいたる概念の連なりに着目しつつ多角的に考察するものである。当年度は、茶谷と久山のそれぞれが発展させてきたギリシア哲学研究(プネウマ・プシュケー研究)とドイツ文学・思想研究(ガイス ト・ゼーレ研究) を発展的に継続させつつ、相互的な討議を行うことで、ひとまとまりの系譜論の構築をめざす作業を昨年度に引き続き遂行した。一連の作業を通じての本科研最重要の実績は、2021年12月12日に阪神ドイツ文学会シンポジウムとして「プネウマ、スピリトゥス、ガイスト――概念史点描の試み」をオンライン開催したことである(本科研が共催)。本シンポジウムでは茶谷がアリストテレス、久山がゲーテについて発表したほか、河合成雄氏(神戸大学教授)がフィチーノ、蘆田祐子氏(神戸大学博士課程後期課程)がシュティフターについてそれぞれ論じ、プネウマからスピリトゥスをへてガイストにいたる概念史を素描した。本科研が計画していたヨーロッパ思想史再検討の一端がこれによって実現したと言える。この実績は、本科研の最終的な目的である、プネウマとガイストをめぐる論文集刊行に向けてた蓄積作業を大きな柱の一つとなるものである。その他久山は、昨年度より延期されていた国際独文学会での口頭発表(ゲーテの『メルヒェン』論)をオンラインで行った。これは高い評価をえて国際論文集掲載の依頼があったため、発表内容を論文化して提出した(未刊)。また産総研でゲーテと化学についての招待講演を行い、一般雑誌『未来哲学』にゲーテ・ホムンクルス論を寄稿するなど、国内でも研究成果をひろく学際的ないしは社会的に提示し検討する機会に恵まれた。
著者
久山 雄甫
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

今年度は、研究対象であるゲーテ思想に含まれる重要概念のうち、特に「ガイストGeist」概念に注目して研究をすすめた。その成果は、以下の三点にまとめられる。まず一点目に、ゲーテのモナドロジーとガイスト概念の関連性について調査した。晩年のゲーテは様々な文脈でしばしば「モナド」あるいは「モナス」という言葉を使っていた。本年度の研究では「モナド」という語がガイスト概念と密接に結びつけられつつ、「有限」と「無限」の中間を指し示すものとして使われていたことを明らかにした。二点目に、ゲーテの『ファウスト』第一部における地霊(Erdgeist)をガイスト概念の歴史中に位置づけつつ考察を行った。この「大地のガイスト」(Geist der Erde)を描写する際に使われている光、炎、霧、靄、風、音などの比喩的表現は、ガイストが人間界から断絶した超越的な彼岸に存在するのではなく、感知可能な世界に現象しながらも不定形で非物体的な存在様態をとっていることを示している。第三に、ゲーテ形態学において「非ガイスト」(Ungeist)と呼ばれるナマケモノに注目して、ゲーテのガイスト観を探った。「非ガイスト」という表現の背景にあるのは、地上における生命現象は「創造的ガイスト」と「創造された世界」との交点に生じるという哲学者トロクスラーの生命論である。「創造的ガイスト」とは、具体的で物質的な形象をもって現れ出てきた生物個体の内部において不断にはらたく「形成衝動」のようなものと考えられる。以上に加え、本年度は、ゲルノート・べーメ氏が2011年11月に京都で行った講演「ゲーテと近代文明」の企画運営と翻訳を行った。一昨年度に執筆した論文"Goethes Gewalt-Begriff"は、『ゲーテ年鑑』(Goethe-Jahrbuch)に受理された。また、特別研究員としての研究期間に先立って行っていた「気のドイツ語訳」研究に関して、2012年8月に北京市で開かれたアジアゲルマニスト会議において研究成果を概観的に紹介する口頭発表を行うとともに、2013年1月には博士論文をドイツ・ダルムシュタット工科大学に提出し、2013年2月14日に受理された。