著者
二村 隆史
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.696-698, 2017 (Released:2017-07-01)
参考文献数
7

大うつ病性障害(うつ病)は1つの病気として診断されているが,症状に多様性があり,発症の原因も解明されていなことから,未だ明確な治療薬ターゲットを特定できていない.その診断についても,治療方法,時代,社会的環境により変化してきた“曖昧さ”を持った疾患であり,このことも治療薬の開発を困難にしていると考えられる.本稿では,その内容と今後の展望について述べたいと思う.
著者
鈴木 幹生 新留 和成 前田 健二 菊地 哲朗 宇佐美 智浩 二村 隆史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.154, no.5, pp.275-287, 2019 (Released:2019-11-15)
参考文献数
54

ブレクスピプラゾール(レキサルティ®)は,大塚製薬がアリピプラゾールに続いて創製した,世界で2番目のドパミンD2受容体部分アゴニスト系の新規抗精神病薬である.本剤はセロトニン5-HT1A受容体及びD2受容体に対しては部分アゴニストとして,5-HT2A受容体に対してはアンタゴニストとして作用し,セロトニン・ドパミン神経系伝達を調節することから「セロトニン・ドパミン アクティビティ モジュレーター:SDAM」という新しいカテゴリーに分類される薬剤である.非臨床薬理試験において本剤は他の非定型抗精神病薬と同等の抗精神病様効果を示すとともに,錐体外路症状(カタレプシー),高プロラクチン血症,遅発性ジスキネジア等の副作用発現リスクが低いことが示唆された.また,抗精神病薬でしばしば問題となる過鎮静,体重増加に関連するヒスタミンH1受容体に対する作用は弱い.さらに本剤は,複数の認知機能障害モデルにおいても改善作用を示した.国内外で実施された臨床試験の結果から,本剤は統合失調症の急性増悪期及び長期維持療法に有効であることが示されている.また有害事象については,非臨床薬理試験で示唆されたとおり,錐体外路症状,高プロラクチン血症,体重増加の発現が低いことが示された.さらに非定型抗精神病薬で問題となっている脂質代謝異常の発現も低かった.加えて,アリピプラゾールで問題となっていたアカシジア,不眠,焦燥感の発現頻度が少なかったことは,セロトニン神経系への作用が強力であることや,D2受容体に対する固有活性がアリピプラゾールより小さいという本剤の特徴に基づくものと考えられた.これらのことから,本剤は既存の抗精神病薬の中でも最も合理的な薬理作用を有する薬剤の一つであると考えられ,優れた有効性と安全性・忍容性プロファイルを示す薬剤として統合失調症患者の治療に貢献できることが期待される.