著者
堀江 秀典 井上 宏子
出版者
神奈川歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

酸化型ガレクチン-1(GAL-1/Ox)はマクロファージを刺激しサイトカインIL-6の発現上昇を促進する傾向が見られたが、更に実験を重ねて統計的有意差を確認する必要がある。IL-1βやLIFの発現を有意には上昇させなかった。次にiNosを加え更に実験を重ねて統計的検討を行った結果GAL-1/Oxは1ng/mlの濃度で有意にiNOSの発現を上昇させた。iNOSは酸化作用のあるNO産生に関与する酵素で酸化型ガレクチン-1刺激によりマクロファージ内でその発現が上昇する。このNOは細胞外に分泌され、神経細胞やその軸索並びにシュワン細胞から分泌された還元型ガレクチン-1を酸化し、酸化型ガレクチン-1とする作用が考えられる。マクロファージから分泌されたNOの作用についてはin vitro並びにin vivoの研究から今後明らかにしていく計画である。次に炎症下でマクロファージを刺激する物質LPS(lipopolysaccharide)のマクロファージへの作用に酸化型ガレクチン-1がどのような作用を示すか検討を行った。10ng/ml,100ng/mlのLPSをマクロファージに作用させそのときのIL-1β、IL-6,LIF, iNOSのmRNAの発現変化を各作用時間1h、2h、3h、4hについて解析した。10ng/mlではIL-1β、LIF, iNOSのmRNA発現を上昇させたが、IL-6につてははっきりした効果が見られなかった。100ng/mlでは4種類の因子の発現上昇がはっきり見られた。この系に1ng/mlの酸化型ガレクチン-1を作用させると、4時間作用させた群では明らかに発現の減少が見られた。その抑制効果は酸化型ガレクチン-1の濃度を0.1ng/ml,0.01ng/mlと下げていくと次第に減少し、LPS10ng/mlでは0.01ng/mlの酸化型ガレクチン-1の抑制効果が、LPS100ng/mlでは0.1ng/ml以下の酸化型ガレクチン-1の抑制効果が見られなかった。以上の結果より酸化型ガレクチン-1がLPSのマクロファージ刺激作用を抑制することが示唆された。今後実験を重ねこの効果が統計的に有意であることを確認し、in vivoでの抑制効果を検討することにより、酸化型ガレクチン-1を炎症抑制因子として確立していく計画である。
著者
阿部良行 中村 雅登 加藤 優子 小川 純一 井上 宏司 多田 伸彦
出版者
日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.279-284, 1992
被引用文献数
15

症例は56才男性.胸部異常陰影を指摘され, 肺癌の術前診断で, 左下葉切除・リンパ節郭清術施行(病理診断:大細胞癌, T2NlM0).術後6ヵ月, 急性腹症で緊急入院し, 諸検査で肺癌の副腎転移が疑われた.はっきりした感染がないにもかかわらず, 白血球数は21, 800/μlと異常高値を示した.疼痛軽減を目的に腹部腫瘤摘出術施行し, 病理学的に肺癌の転移と診断された.術直後, 白血球数は低下傾向を示したが, 再上昇し, 術後23日目に腫瘍死した.死亡直前の白血球数は46, 500/μlであった.血清中の顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は146pg/ml(正常<60)と高値を示し原発巣および転移巣の腫瘍組織より抽出したRNAをノザンブロット法で解析し, 両者にG-CSFのmRNAの発現を認めた.本症例では, 腫瘍細胞での自律的なG-CSF遺伝子の発現と血清中へのG-CSFの過剰分泌が分子生物学的に証明され, 白血球増多症に対する腫瘍産生性G-CSFの関与が明らかにされた.