著者
井上 瞳
出版者
国立大学法人 大阪大学大学院人間科学研究科附属未来共創センター
雑誌
未来共創 (ISSN:24358010)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.31-63, 2021 (Released:2021-07-08)

本稿では、1980年代以降アメリカで展開された心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関する言説を「トラウマのPTSDモデル」と定義する。そのうえで、このモデルの特徴を、トラウマ的出来事を経験した後も維持される自律した個人という近代的主体観を基盤とすることと規定した。このような主体観という視座から、性暴力被害と回復をめぐる日本の精神医学・心理学領域の研究を検討することで、これらの研究が、自身の情動や認知、行動をマネジメントする近代的主体観にもとづいていることを指摘した。最後に、現代の女性をとりまく社会状況である新自由主義とポストフェミニズムという文脈の中で、日本の精神医学・心理学領域における性暴力被害と回復をめぐる言説を分析した。その結果、「トラウマの PTSD モデル」は、個人の自律性に着目することで、性暴力被害者に回復の道を提示するが、現代社会においては、レジリエントな主体であることを是とする規範として作用するおそれがある点を指摘した。
著者
井上 瞳
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.B11, 2023 (Released:2023-06-19)

本発表では、性暴力被害にあった人びとへのグループ形式の聞き取り調査からえられたデータをもとに、医療のモデルから取りこぼされてきた当事者の「生活世界」を、医療人類学と現象学という二つの学問分野から領域横断的に考察するものである。具体的には、当事者によって生きられた性暴力の「その後の世界」に着目し、そこで性暴力にあった人びとがどのように周囲の他者との社会的な関係性を構築、応答しているかを明らかにする。
著者
井上 瞳
出版者
大阪大学人間科学研究科附属未来共創センター
雑誌
未来共創
巻号頁・発行日
vol.8, pp.31-63, 2021

本稿では、1980年代以降アメリカで展開された心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関する言説を「トラウマのPTSDモデル」と定義する。そのうえで、このモデルの特徴を、トラウマ的出来事を経験した後も維持される自律した個人という近代的主体観を基盤とすることと規定した。このような主体観という視座から、性暴力被害と回復をめぐる日本の精神医学・心理学領域の研究を検討することで、これらの研究が、自身の情動や認知、行動をマネジメントする近代的主体観にもとづいていることを指摘した。最後に、現代の女性をとりまく社会状況である新自由主義とポストフェミニズムという文脈の中で、日本の精神医学・心理学領域における性暴力被害と回復をめぐる言説を分析した。その結果、「トラウマの PTSD モデル」は、個人の自律性に着目することで、性暴力被害者に回復の道を提示するが、現代社会においては、レジリエントな主体であることを是とする規範として作用するおそれがある点を指摘した。