著者
中生 勝美
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.B01, 2023 (Released:2023-06-19)

報告者は、1990年代から日本の人類学者の研究と調査の社会的背景を理解するため、関係者へのインタビュー、歴史アーカイブの渉猟、調査地への再訪などを通じて人類学史を研究してきた。今回の発表は内蒙古の特務機関の実態を紹介したうえで、ドイツのモンゴル学者ハイシッヒが、日本の特務機関と協力した罪で戦犯として裁かれた経歴があったこと、そして彼が岡正雄とウィーン大学時代に最も近い関係であったことを報告する。
著者
足立 賢二
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.A12, 2023 (Released:2023-06-19)

コロナ後における「日本の伝統」の継承のあり方を議論する上での基礎資料を抽出することを目的として、特に「古武道」を対象とし、近現代において家元制を採用していた古武道流派にかかる①門人帳の分析と②関係者への聞き取り調査の結果の分析により、その流派の「失伝」の過程を検討した。検討結果からは、「古武道」という伝統にあっては、入門者の低年齢化が「失伝」を加速させた可能性があることが判明した。
著者
飯嶋 秀治
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.B02, 2023 (Released:2023-06-19)

本研究ではグレゴリー・ベイトソンの戦時活動をアーカイブス研究から明らかにする。特にNARAⅡの文献カードの定量調査とUCSCの個別フォルダ調査を用い、OSS前史としての反ナチ運動とモラル研究、サイバネティクス研究前史としての精神医学者ミルトン・エリクソンとの関係を重視する。そこからベイトソンのインテリジェンス活動を位置づけ、戦後理論への文脈を見る。
著者
古川 不可知
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.A10, 2023 (Released:2023-06-19)

本発表の目的は、日本における一般登山とキャンプの実践を取り上げ、「戸外outdoor」にあることが持つ意味と、そこから想像される理念的な「ホーム」について考察することである。具体的には、①戸外と人類学がどのような関わりのもとにあるのかを整理する。②現代日本のアウトドア観光における語りと実践を、登山とキャンプを対比しつつ報告する。③あるべきホームが戸外からどのように想像されているのかを論じる。
著者
岡野 英之
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F09, 2023 (Released:2023-06-19)

隣国ミャンマーで2021年にクーデターが発生して以降、A国には大量の「難民」が流れ込んできた。本発表で指摘するのは、A国の国境地帯のある町が構造的な汚職によってミャンマー難民にとっての「アジール空間」となっていることである。この空間はミャンマーの民主派勢力にとって対外拠点として機能している一方、外部世界とつながるチャンネルとして機能している。
著者
大石 友子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.D01, 2023 (Released:2023-06-19)

本映像「三月を待ち侘びて」(制作者・著作権者:大石友子、制作年:2023年、上映時間:37分)は、報告者が長期フィールドワークの中で出会った一頭のゾウ、三月の生と死を記録したものである。この映像では、わからなさに向き合う際に喚起される想像的連関を通じて、フィールドでの思考に視聴者を引き込むとともに、オープンエンドな物語を受け渡すことを試みた。
著者
藤野 陽平
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.A17, 2023 (Released:2023-06-19)

台湾の「返校」というデジタルゲーム、そしてそこからメディアミックスした諸作品に現れる恐怖と記憶のあり方を、ダマシオのいう生得的な一次の情動と、成長とともに身につける二次の情動という視点から分析する。台湾の他の作品との比較を通じて、普遍性のある恐怖に関連する一次と、地域性の強い記憶に関連する二次の情動のバランスをとっている本作は、集合的記憶を構築しつつトランスボーダーに展開していることを指摘する。
著者
師田 史子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.F01, 2023 (Released:2023-06-19)

本発表は、フィリピンにおける財宝伝説「山下財宝」の語りや宝探しの実践を通じて、不確実な存在が確実な存在として立ち現れていく様相を明らかにする。財宝譚を語ることで人びとは、戦時中の略奪された記憶を基層としながら、自らの生活世界に隠れる富のイメージを精緻化している。今は掴めずともいつか掴みうる潜在的な財として財宝の存在が据え置かれることに、財宝伝説が社会に残存し続ける現代的な意味が見出せる。
著者
松尾 香奈
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.B14, 2023 (Released:2023-06-19)

これまでろう者は、日本手話第一言語話者のみを指すとされてきた。だが実際には、日本語対応手話や混成手話を使用する人びとも「ろう者」として生きている。本発表では、従来研究で捨象されてきた日本語対応手話話者「ろう者」に注目する。「ろう者」と聴者の接触時、「ろう者」はトラブルによる不利益が生じたとしても黙認することがあるが、この受け流しを戦略的排除として分析し、新しい抵抗のあり方を提示する。
著者
李 婧
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.A14, 2023 (Released:2023-06-19)

コロナ禍において人々の行動が制限されるため、地域行事の開催も政策などを通じて制限されている。その一方で、人々はこの危機に際してレジリエンスを発揮して柔軟に対応している。本発表で取り上げる東京都王子の「狐の行列」という地域行事はその一例である。本発表の目的は、コロナ禍における「狐の行列」をめぐる新たな取り組みに焦点を当てながら、地域行事がいかなるレジリエンスを発揮するのかを明らかにすることである。
著者
井上 瞳
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第57回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.B11, 2023 (Released:2023-06-19)

本発表では、性暴力被害にあった人びとへのグループ形式の聞き取り調査からえられたデータをもとに、医療のモデルから取りこぼされてきた当事者の「生活世界」を、医療人類学と現象学という二つの学問分野から領域横断的に考察するものである。具体的には、当事者によって生きられた性暴力の「その後の世界」に着目し、そこで性暴力にあった人びとがどのように周囲の他者との社会的な関係性を構築、応答しているかを明らかにする。