著者
富田 直樹 染谷 さやか 西海 功 長谷川 理 井上 裕紀子 高木 昌興
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.79-90, 2010-09-30 (Released:2012-12-04)
参考文献数
32

北海道苫前郡羽幌町天売島の天売港において,黄色の脚をもつ大型カモメ類の死体1個体の回収を行った。Olsen & Larsson (2003) に従い,死体標本は,主に背上面および翼上面の色と初列風切の模様の特徴からロシアのコラ半島からタイミル半島の南東部で繁殖する Larus heuglini と同定された。しかし,亜種を完全に区別することはできなかった。また,ミトコンドリアDNAのチトクロームb 領域と調節領域の塩基配列における先行研究との比較では,死体標本の持つ変異が近縁な種・亜種グループに共通して保有されるタイプと一致した。結果として,死体標本が帰属する分類群として可能性のあった候補のうち L. fuscus fuscus, L. h. heuglini, L. cachinnans barabensis, L. h. taimyrensis のいずれかであることまでは絞り込めたが,特定の種もしくは亜種まで明確に示すことはできなかった。L. heuglini とその近縁種については,交雑や遺伝子流動などの理由から分類学的に未解決の問題が多い。本研究において,死体標本やDNA標本による客観的なデータに基づいても,大型カモメ類の種・亜種を正確に同定することは,非常に困難であることが示された。