著者
窪寺 恒己 天野 雅男 森 恭一 青木 かがり 篠原 現人 西海 功 大泉 宏 庄司 隆行
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

中深層性大型イカ類に関しては、特殊水中ビデオカメラ・ライトを開発し深海の環境を乱すことなく、それらの行動生態を記録し生物量の推定を試みた。2011年には小笠原沖でNHKと共同して有人潜水艇から世界初となるダイオウイカの生態観察・撮影に成功した。一方マッコウクジラに関しては、加速度マルチロガーと超小型水中カメラロガーを直接取り付けることにより、潜水中の行動を3Dで捉えることに成功し、餌となる大型イカ類を追跡・捕獲する行動パターンを明らかにした。また、深海の腐肉食性ベントスの蝟集実験を行い、蝟集物質の科学的組成を解析するとともにベントス群集の時間的変遷を明らかにした。
著者
西海 功
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.223-237, 2012 (Released:2012-11-07)
参考文献数
62
被引用文献数
1

日本鳥類目録第6版は種分類に関して併合主義的傾向が強く世界的な傾向との不一致が目立つようになり,国際的な活動やデータベースの利用において支障が生じている.第7版への改訂に際して,DNAバーコーディングの現状をまとめ,そこから最近分かってきた日本と東アジアの鳥の特徴について述べ,鳥類における種概念と種ランクの割り当て方についての世界的動向をまとめることで,今後の日本の鳥の種分類研究の重要性について述べた.DNAバーコーディングはDNAの一領域(動物ではミトコンドリアDNA COI領域)の塩基配列から種を同定するプロジェクトであり,配列データや証拠標本データなどを登録してデータベースの作成が進んでいる.世界の約40%の鳥類種,日本の繁殖種の約96%が登録された.新大陸での研究では遺伝的に極めて近い近縁種もいくらかいることがわかったが,2~2.5%の分岐が種を分ける目安になることが示唆されている.2~2.5%の分岐の目安は韓国やスカンジナビアなどでも多くの種が当てはまることがわかった.ロシア・モンゴル周辺地域の研究では8.3%もの種で2%を越える大きな分岐が種内に見つかった.日本の繁殖種のうち230種について旧北区東部のデータも含めて分析したところ,種内変異が2%よりも大きい例が32種(14%),種間が2%よりも近い例が33種にものぼることがわかった.氷河期に氷河の発達が弱く,集団の絶滅が少なかったことと日本列島での急速な周縁的種分化の影響が考えられる.種分類は単にDNAバーコード配列を基礎にしてはできないが,バーコードでの概略的調査はさらに生物学的調査が必要な種を見つけ出す良い方法となる.現代の種概念は統合性(不可逆性)を重視する種概念と識別可能性(または単系統性)を重視する種概念に大別される.両者は非和解的と考えられてきたが和解的に統合させる試みがなされている.一般的メタ個体群系譜概念や包括的生物学的種概念がそれであり,本質的な種の認識に近づいていると評価できる.それでも目録の作成などの際に実際に種ランクを割り当てるにはガイドラインが必要であり,イギリス鳥学会のガイドラインは鳥の種分類に現実的な提案をおこなっている.生物の種分類をおこなうには,DNAだけではなく,形態,生態,行動,生理など様々な生物の側面からみた生物学諸分野の具体的成果として総合的になされる必要があると私も考える.日本の鳥の分類について責任をもつ唯一の団体として日本鳥学会の真価が今後ますます問われていくことになるだろう.
著者
富田 直樹 染谷 さやか 西海 功 長谷川 理 井上 裕紀子 高木 昌興
出版者
公益財団法人 山階鳥類研究所
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.79-90, 2010-09-30 (Released:2012-12-04)
参考文献数
32

北海道苫前郡羽幌町天売島の天売港において,黄色の脚をもつ大型カモメ類の死体1個体の回収を行った。Olsen & Larsson (2003) に従い,死体標本は,主に背上面および翼上面の色と初列風切の模様の特徴からロシアのコラ半島からタイミル半島の南東部で繁殖する Larus heuglini と同定された。しかし,亜種を完全に区別することはできなかった。また,ミトコンドリアDNAのチトクロームb 領域と調節領域の塩基配列における先行研究との比較では,死体標本の持つ変異が近縁な種・亜種グループに共通して保有されるタイプと一致した。結果として,死体標本が帰属する分類群として可能性のあった候補のうち L. fuscus fuscus, L. h. heuglini, L. cachinnans barabensis, L. h. taimyrensis のいずれかであることまでは絞り込めたが,特定の種もしくは亜種まで明確に示すことはできなかった。L. heuglini とその近縁種については,交雑や遺伝子流動などの理由から分類学的に未解決の問題が多い。本研究において,死体標本やDNA標本による客観的なデータに基づいても,大型カモメ類の種・亜種を正確に同定することは,非常に困難であることが示された。
著者
西海 功 柿澤 亮三 紀宮 清子 森岡 弘之
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.5-19, 2006

The avifauna of the Imperial Palace Area in Tokyo was monitored by bird censuses nearly in every two months from August 2000 to November 2005. The results were compared with the previous monthly bird census research from April 1996 to March 2000 reported by Nishiumi et al. (2000). The total number of species recorded in the 35 censuses since August 2000 was 64 species, which is composed of 20 residents, 17 winter visitors, 10 transients, and 17 irregular visitors as listed in Appendix 1, but no breeding summer visitors were recoded. In total of these 10 years, 78 species were recorded by censuses. Eleven species among them are newly recorded in this monitoring period since August 2000; Larus argentatus, Sterna sp., Cuculus poliocephalus, Anthus hodgsoni, Anthus spinoletta, Saxicola torquata, Cyanoptila cyanomelana, Terpsiphone atrocaudata, Parus montanus, Sitta europaea, Fringilla montifringilla. Apart from censuses additional 4 species were recorded; Ninox scutulata as a breeding summer visitor and Corvus corone, Fulica atra, Podiceps cristatus as irregular visitors. We found a significant decreasing trend in number of species observed in the bird census during these ten years. The number of individuals was also significantly decreased except for January and individual number of residents was conspicuously decreased, although that of winter visitors was stable or somewhat increased. Moreover, the species diversity showed significantly a decreasing trend in all of odd months.
著者
齋藤 武馬 西海 功 茂田 良光 上田 恵介
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.46-59, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
61
被引用文献数
1

メボソムシクイPhylloscopus borealis (Blasius) は,旧北区北部と新北区最北西部のスカンジナビアからアラスカまで,南端は日本まで繁殖する渡り鳥である.僅かな形態形質の違いから,これまで7の亜種が記載されてきたが,その分類には統一した見解がなく,分類学的混乱がみられる.この問題を解決するため,著者らはこれまでに繁殖分布域の全域において,分子系統学,形態学,音声学的手法を用いた解析を行い,メボソムシクイの地域個体群間の差異を明らかにしてきた.さらに,著者らは利用可能な学名の正しい適用を決めるため,渡り中継地及び越冬地から採集されたタイプ標本のミトコンドリアDNAを解読した.その結果,ミトコンドリアDNAの配列,外部形態,音声の変異の一致から,従来認識されてきたメボソムシクイには3つの独立種を含むことを明らかにした.それは,Arctic Warbler Phylloscopus borealis(ユーラシア北部~アラスカ西部),Kamchatka Leaf Warbler P. examinandus(カムチャツカ・千島列島・サハリン・北海道知床半島),Japanese Leaf Warbler P. xanthodryas(本州・四国・九州)である.さらに,これらの種について種和名を提唱し,Arctic Warblerをコムシクイ,Kamchatka Leaf Warblerをオオムシクイ,Japanese Leaf Warblerをメボソムシクイとすることを提案した.
著者
西海 功 山崎 剛史 濱尾 章二 関 伸一 高木 昌興 岩見 恭子 齋藤 武馬 水田 拓
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

日本列島の島嶼部を中心に分布する陸鳥類の14分類群(19種)について、異所的な集団の種分化と種分類に関する研究をDNA分析、形態学的分析、およびさえずりの音声分析を含む生態学的分析によっておこなった。日本列島の島嶼部を中心とした陸鳥の集団構造や種分化が極めて多様なことが示された。つまり、遺伝的な分析からは、南西諸島の地史を直接に反映した集団構造は陸鳥類では全くみられず、集団の分化のパターンが種によって大きく異なることがわかった。遺伝的に大きく分化している地理的境界線の位置も種によって異なるし、遺伝的分化の程度も分化の年代も種によって大きく異なることが示唆された。また、形態的分化や生態的分化の程度も種によって異なり、それらは必ずしも遺伝的分化の程度と相関しないことが推測された。近縁種の存否がさえずりの進化に影響する、すなわちさえずりの形質置換があったり、人為的環境の改変への適応が行動を通して形態的適応進化を促進したりすることがわかった。また、リュウキュウコノハズクやキビタキなど多数の種で亜種分類の見直しの必要性が示唆され、ウチヤマセンニュウなどいくつかの種では種分類の見直しの必要性が示唆された。今回の研究期間ではっきりと種・亜種分類の見直しの検討が出来たのはメボソムシクイ類とコトラツグミのみであったので、それ以外の見直しは今後の課題として残された。
著者
濱尾 章二 Veluz Maria J. S. 西海 功
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.17-26, 2006-03

日本のウグイス(Cettia diphone cantans)とフィリピンのウグイス(C. seebohmi)について、体サイズ測定値と翼の形を比較した。日本のウグイスでは雄が雌よりも明らかに人きく、雌雄のサイズ分布が重複しなかった。フィリピンの雄は日本の雄よりも小さく、雌は日本の雌と同じかやや大きかった(Table 1)。このことは、性的なサイズ二型が日本で顕著であることを示している。日本のウグイスは発達した一夫多妻の婚姻システムをもつが、フィリピンのウグイスは一夫一妻か、あまり発達していない一夫多妻の可能性が考えられる。翼の形では、フィリピンのウグイスは最も長い初列風切羽が翼の内側(体に近い側)にあり、翼差(最も長い初列風切と次列風切の長さの差;Fig.3)も小さく、日本のウグイスに比べて丸みのある翼をもっていた(Table 2)。丸みのある翼は渡りなどの長距離飛行には適さないが、素早く急角度で飛び立つことを可能にすると言われている。季節的な移動を行う日本のウグイスがとがった形の翼をもつのに対し、フィリピンのウグイスが丸い翼をもつのは、渡りをせず、よく茂ったやぶに棲むことに適応したものと考えられる。この研究は、国立科学博物館の「西太平洋の島弧の自然史科学的総合研究」の一環として行われたものである。
著者
上田 恵介 江口 和洋 西海 功 高木 昌興 高須 夫悟 濱尾 章二 濱尾 章二
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

オーストラリア・ダーウィンにおいてアカメテリカッコウとその2種の宿主の調査を実施した。その結果、寄生者のヒナを宿主のハシブトセンニョムシクイとマングローブセンニョムシクイが積極的に排除するという事実が世界ではじめて明らかになった。ヒナ排除の事実はこれまでの托卵鳥研究で報告されたことはない。アカメテリカッコウはもともとハシブトセンニョムシクイを主要宿主として、ヒナ擬態を進化させたものであろうが、近年、マングローブセンニョムシクイにも寄生をはじめたものと考えられる。
著者
窪寺 恒己 天野 雅男 篠原 現人 西海 功 天野 雅男 篠原 現人 西海 功
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、大型トロールネットや深海探査艇による大規模な調査とは異なり、日本の先進技術であるマイクロ電子機器を組み込んだ超小型・軽量の水中撮影システムおよび赤色系LEDを用いた照明機器を用い、深海環境への撹乱を最小限度に止めることにより、中深層性大型頭足類のみならず深海性動物の自然状態に限りなく近い生態を撮影・記録し、それらの実態に迫ることを目的としている。平成18~20年度の3年間、後藤アクアティックスと共同で開発した深海HDビデオカメラシステム3台を用いて小笠原父島周辺海域において、地元の漁船を傭船して各年9月から12月にかけて約4週間の野外調査を実施した。水深600~1100mの3層にシステムを降し、延べ120時間を超す撮影を行い、アカイカ、ヒロビレイカ、ソデイカ、カギイカなど中・深層性大型イカ類の遊泳行動や餌を捕獲する行動などがハイビジョン映像とした詳細に記録された。また、ヨシキリザメ、シュモクザメなど大型魚類の遊泳・攻撃行動も撮影された。これらの映像をコンピュータに取り込み、フレーム単位で詳細に行動様式の解析を行い、それら中深層性大型頭足類の行動生態に関する多くの新たな知見が得られた。また、平行して行われたマッコウクジラの潜水行動を探る超小型バイオロガーを用いた調査では、数回にわたりロガーの装着に成功し、マッコウクジラが日中は水深800~1000mに繰り返し潜行し、夜間は500~600mと浅い水深に策餌層を変える行動が明らかにされた。さらに、三次元加速度データから餌を襲う際の詳細な行動様式に関する新たな発見がなされた。