著者
井奥 成彦 鎮目 雅人
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.291-296, 2014-11-25 (Released:2017-06-03)

近代日本の金融史研究は,日本銀行,都市銀行,地方銀行については相当量の研究の蓄積があるが,庶民金融についての研究は乏しい。典型的な庶民金融である質屋についてのこれまでの研究は,主として地方や東京の下町の質屋を対象として行われ,質屋は庶民が生活に窮して資金を調達するところであり,庶民から利子を収奪する高利貸であるといったイメージで語られがちであった。本研究では,統計類により東京の質屋全体の動向を俯瞰するとともに,従来研究の乏しかった東京都心の質屋である芝区のT質店にスポットを当て,1915年,25年,35年の質物台帳や顧客名簿といった基本帳簿類の分析を丹念に行った。その結果,質物にその時代の顧客の生活様式とその変化のようす(例えば生活の洋風化や余暇の拡大など)が如実に表れていること,顧客から見た質屋の基本的な役割は,庶民が日常生活を営むために必要な手元流動性を提供する小口,短期,動産担保の消費者金融機関であったことが確認された。