著者
井関 竜也
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-29, 2023 (Released:2023-09-05)
参考文献数
43

近年、政治過程において、選挙を通じて選出されていない非党派的な専門家(テクノクラート)の果たす役割が拡大している。専門家の関与は専門知に基づき複雑な政策課題に対処することを可能にすることが期待されている。一方、選挙によって解任することのできない専門家による政策決定は、政府の有権者に対する選挙を通じたアカウンタビリティを棄損するとの懸念も示されている。そこで本研究は、ヨーロッパ21か国の選挙結果を対象に、テクノクラートである財務大臣が経済投票に与える影響を分析することを通じて、このような懸念が経験的に支持されるのかを検証する。分析の結果、通常の財務大臣のもとでは失業率の悪化が与党の得票減少につながる一方、テクノクラート財務大臣のもとでは失業率と選挙結果との関係が観察されないことが分かった。このことは、専門家の任用によって選挙を通じた責任追及が行われなくなり、アカウンタビリティが機能しない可能性があることを示唆している。
著者
井関 竜也
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_267-1_291, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
42

中央政府と地方政府の対立を憲法裁判所が規律する制度は広く採用されている。そのような制度の下で、いつ、なぜ、国は地方政府を相手どって訴訟を提起するのだろうか。本論は、国は党派性の異なる州政府に対する選挙戦略、具体的にはネガティブキャンペーンとして訴訟を提起していることを論証する。憲法裁判所の一例であり、国による訴えが認められる割合が低いにもかかわらず、国が州政府に対して多くの訴訟を提起していたイタリア憲法裁判所を事例にタイムシリーズ・クロスセクション重回帰分析を行ったところ、以下の結果が得られた。第一に、国は党派性の異なる州政府に対して、より多くの訴訟を提起している。第二に、党派性の異なる州政府に対する訴訟提起は、訴訟提起が地方選挙に及ぼす影響が大きくなると考えられる州議会選挙直前期に増加している。以上の結果は、たとえ憲法裁判所が中央政府の意向に反した行動をとりうるとしても、憲法裁判所への訴訟提起自体が、中央政府によって選挙戦略として活用されうることを示唆している。