著者
黒牧 謙一 竹田 省 関 博之 木下 勝之 人見 祐子 前田 平生
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.1213-1220, 1994-11-01
被引用文献数
10

産科における輸血の必要性と他家血輸血の危険性を考慮すると自己血輸血法の確立は不可欠である. 今回産科症例に対して自己血輸血を行い, 採血及び輸血による妊婦の血液性状の変化につき検討し, 妊婦の自己血輸血の臨床効果とともにその有用性と問題点につき検討した. 分娩時に出血が多量になる可能性の高い, 前2回帝切例, 前置胎盤や稀な血液型の妊婦, 34例を対象とした. 採血1週間前より鉄剤の投与を行い, 自己血採血は1週間ごとに300mlずつ3回行うことを基本とした. 分娩後は出血量に応じて自己血輸血を行った. 採血後エリスロポエチン値は上昇し, 同時に網状赤血球数は増加し, 脱血後急速に赤血球を増産していることが判明した. ヘモグロビン(Hb)値は900mlの採血で平均0.6g/dlの低下であった. ヘマトクリット(Ht)値, 総血漿蛋白(TP)値もHb値とほぼ同様の動きを示した. またその他の血液検査には大きな変動を認めず, 母児に対しても採血による影響は認められなかった. 分娩時の出血が多量であっても, 自己血の返血を行うことにより同種血輸血は必要なく, 正常産褥経過症例とほぼ同様の血液所見を示した. 輸血後は倦怠感やふらつきなども軽減し, 乳汁分泌も良好であった. 産科領域においても妊婦の自己血輸血のための採血及び輸血の安全性と有用性が確認された.