著者
松下 啓 杉本 徳一郎 岩本 彩雄 大池 裕美子 多川 斉 福内 敦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.30, no.10, pp.1259-1262, 1997

症例: 40歳, 男性. 慢性糸球体腎炎による慢性腎不全にて1980年5月血液透析に導入. 1995年8月, 発熱, 悪寒, 関節痛にて入院した. 両肩・臀部等に著明な異所性石灰化を認め, アスペルギルス性膿胸と二次性副甲状腺機能亢進症の合併と診断した. 胸腔の排膿洗浄および抗真菌薬投与を開始したが, 臨床症状・炎症反応の改善はみられなかった. 副甲状腺摘除術を契機に炎症反応が改善し, 関節痛が軽減した. 深在性真菌症の発症頻度は低いが, 長期透析患者の合併症として注意すべきである. アスペルギルス性膿胸の発症経過に二次性副甲状腺機能亢進症が深く関わった可能性があると考えられた.
著者
多川 斉 一色 高明 山門 実
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.398-402, 1978-04-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
18

急性単球性白血病はときに低カリウム血症を伴うことが知られている.われわれもその1例を経験し,低カリウム血症の発生機序を検討した.症例は61才,女,発熱,リンパ節腫脹,出血傾向,肝脾腫あり.白血球10.1万,単球様白血病細胞が末梢血で89%,骨髄で92.6%を占めた.血清Kは常2.9mEq/l以下.リゾチーム活性は血清357,尿3111μg/m1と高値であつた. VCMP療法3クールにて完全寛解となつた.リゾチーム活性は血清,尿ともに著減したが,血清Kは低値のままであつた.カリウム負荷により尿中K排泄が増加し,またナトリウム摂取を制限しても尿中K排泄が減少しないことから,近位尿細管あるいはHenle係蹄におけるカリウム再吸収の抑制が示唆される.トリアムテレン投与に対する反応は正常であり,遠位尿細管のNa・K交換部位はintactと判断された.また,血漿レニン活性,アルドステロン値が正常であり,スピロノラクトンが無効であることから,レニン・アルドステロン系の関与は否定された.以上から,崩壊した単球に由来する大量のリゾチームが近位尿細管で再吸収されたために,その部位のカリウム再吸収機構に傷害を与え,カリウム喪失をきたしたものと結論した.なお,その他の尿細管機能の異常は随伴しなかつた.
著者
三瀬 直文 清水 英樹 西 隆博 興野 寛幸 正木 一伸 西尾 恭介 出川 寿一 多川 斉 杉本 徳一郎
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.65-70, 2004-01-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
31
被引用文献数
3

セリン蛋白分解酵素阻害薬であるメシル酸ナファモスタット (NM) は, 出血性病変または出血傾向を有する血液透析患老の抗凝固薬として多用されている. われわれは, 1999年から2002年の間に経験したNMに対する重篤なアレルギー症状を呈した11例と, 過去の報告例を検討して, NMアレルギーの特徴を分析した.症例は65±6歳 (55歳-76歳) の男性6例, 女性5例, 透析期間は8±6年 (0年-23年) であった. 透析導入の原疾患, 透析膜にも一定の傾向はなかった. 他方, 全例にNMの投与歴があり, さらに10例 (91%) に他の薬剤に対するアレルギー歴が認められた. アレルギー症状は, ショックが4例, 発熱が4例 (1例は喘息様症状を伴う), 全身皮疹が3例であった. ショックは透析開始後15分以内に発現したが, 発熱の出現時間は透析中から透析終了6時間後までと一定しなかった. 全例とも, NMの中止にて症状が消失した. いずれも他の抗凝固薬を投与した血液透析時には, 過敏症状を示さなかった. 臨床検査値では, 好酸球増多が測定された8例中6例で認められたが, 血清抗NM抗体測定検査は3例中2例で陰性であった.過去のNMに対するアレルギー報告例においても, 透析期間, 透析導入の原疾患, 透析膜にも一定の傾向は認めていない. また, ほとんどの症例が再投与時にアレルギー反応を発現しており, 初回投与例はまれであった.NMに対するアレルギー反応は, 過去に投与歴のあるものが多く, 薬剤に感作された症例が再投与時に過敏症状を呈すると考えられる. アレルギー反応の発症を確実に予期する方法はなく, 抗凝固薬としてNMを投与する場合, 特に再投与時は, たゆまぬ注意が求められる.