著者
春田 泰次 仁王 以智夫
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.117-133, 1997

スギ落葉の分解にともなう無機成分の溶出パターンについて検討をおこなった。新鮮落葉を入れたポットを林床におき,5年間にわたって落葉から流出する無機成分の分析を行った。いずれの成分にも溶出パターンには季節変化があり分解が活発に進行する夏期に溶出量が多い傾向があった。Caは最初の1年間に溶出が特に多く5年間の全溶出量のおよそ55%がこの期間に失われた。その後はほぼ一定の割合で溶出が続いた。MgはCaと同様のパターンを示し,最初の1年間で73%が流出したが,それ以降の流出量はごく僅かであった。CaとMgのこのような違いはスギ落葉に含まれる両成分量の差によるものと考えられた。Kはごく初期に大部分が溶出し,それ以降の溶出は僅かであった。Kの溶出パターンは分解にともなうものではなく,むしろ溶脱によるものと考えられた。Pも分解初期の夏期に増大する傾向を示した。Pの溶出はほとんどが落葉の分解の中期(F層に相当する)段階に限られ,それ以降は流入量が流出量を上回ることが多かった。Na,Feについてははっきりした傾向を示さなかった。Cl-,SO2-4は分解の初期は流入量が流出量を上回ったがそれ以降は明確な傾向を示さなかった。
著者
平野 清 杉山 智子 小杉 明子 仁王 以智夫 浅井 辰夫 中井 弘和
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.3-12, 2001-03-01 (Released:2012-01-20)
参考文献数
23
被引用文献数
6 5

本研究は, 自然農法および対照の慣行農法水田における在来系統を含むイネ4品種の生育と根面および根内の窒素固定菌の動態との関係について解析した. その結果, 自然および慣行農法における, イネ品種の生育にともなう根面および根内の窒素固定菌の推移は, イネ植物体の窒素含量増加および乾物重増加の推移と密接な関係があった. すなわち, 生育初期 (移植-最高分げつ) に窒素固定菌が多くなる品種は生育初期での窒素含量増加率および乾物重増加率が高く, 生育後期 (出穂-登熟) に窒素固定菌が多くなる品種は生育後期での窒素含量増加率および乾物重増加率が高くなる傾向を示した. また, 全体的に, 自然農法におけるイネ品種の窒素固定菌数が慣行農法より多い傾向が認められた. 特に, 自然農法において, 生育後期に相対的に窒素固定菌数が多くなる品種は, 慣行農法と同程度の籾収量が得られたことは注目に値する. このことは, 自然農法でより高い収量性を確保するためには, 生育後期に窒素固定菌数が多くなるタイプの品種を採用することが有効であることを示唆している. 本研究で用いた日本在来系統であるJ195は, 自然農法における生育後期の窒素固定菌数が多く, 収量も高かったことから, 自然農法あるいはこれに類する持続可能型農業で高収量を得る品種育成の有用な育種材料になり得ることが示唆された.
著者
仁王 以智夫 春田 泰次 川上 日出国
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.81, pp.p21-37, 1989-09
被引用文献数
2

スギ落葉の分解過程を,特に初期の微生物,生物活性,および成分の変化を中心に検討した。東京大学愛知演習林内のスギ林の林床に落葉をつめたポットを置き,雨水がポット内を自由に通過できるようにして分解させた。実験開始後,二酸化炭素放出量は急速に高まり,これとともに糸状菌数が増加して56日目(8月9日)に最大値を示した。糸状菌が減少するにつれて一般細菌数が増加し,169日目(11月30日)に最大値に達し,以後減少した。翌年には糸状菌と細菌の顕著な増大はなかった。分解期間を通じてリター中に安定して存在していたマンガン量を基準とし,分解にともなう重量の変化を間接的に求めた。重量は56日目から急速に減少し,冬季の休止期を除いて減少を続けた。重量とC/N比の間には高い相関があった。このようにして求めた重量変化と採取した試料の成分分析結果から,落葉を構成する各成分の分解にともなう量的変化を求めた。アルコール・ベンゼン混液可溶区分は実験開始直後から減少し,これは糸状菌の増殖時期と一致していた。クチン酸およびセルロースは56日以降になって減少した。カルボキシメチルセルロースを基質とするセルラーゼ活性はセルロースの減少,一般細菌数およびセルロース分解菌数の増加の時期と対応していた。窒素固定活性は30日目から56日目にかけて増大し,冬季を除いて翌年秋の504日目(10月31日)まで持続したが,それ以降はほとんど存在しなかった。初年度の窒素固定活性の高まりの時期は一般細菌数および窒素固定細菌数の増加の時期と一致していた。また,窒素の無機化活性および硝化活性は窒素固定活性の存在する期間には検出されず,それ以降(3年目)になって出現した。成分量や活性の変化とこれに関する微生物数の変化とは2年目にはほとんど対応せず,これは分解に関与する生物相の交代を示唆するものと考えられた。走査型電子顕微鏡による観察結果は,分解初期の糸状菌から細菌への変化の少なくとも一部は細菌による糸状菌菌体の成分を利用したものであることを示していた。また,2年目には組織に多くのこまかい穴がみられ,C/N比やセルロースの顕著な減少と合わせて,落葉組織の本格的な分解が進行することを示していた。これらの結果から,スギ落葉の分解過程は少なくとも以下の3段階に分けられることが示された。第1期:最初の約2か月。含水率の増加と有機溶媒可溶物質の顕著な減少,糸状菌の増殖。第2期:それ以降翌年の末まで。C/N比,クチン酸,セルロースの減少など落葉組織の分解,窒素固定活性の出現,および細菌への微生物相の交代。この時期においては後半になって優勢な生物相はさらに変化する可能性がある。第3期:分解3年目以降。窒素の有機化から無機化への転換の期間。Decomposition process of Japanese cedar (Crypotomeria japonica) leaf litter was examined during the initial 504 days with special reference to the changes in biological activities and microflora relating them, and the amount of certain main components of the litter. Immediately after the beginning of the experiment rapid increase of carbon dioxide release and concomitant growth of fungi were observed. After 56 days (Aug. 9) fungi reduced and the number of bacteria began to increase. Bacteria reached maximun at 169th days (Nov. 30). Growth of bacteria was accompanied with nitrogen-fixing and cellulolytic activities. Nitrogen-fixing activities appeared in 30 to 56 days of the decomposition, and continued, except during the winter, until October of the next year. The activity disappeared in the third and following years. Activities for mineralization of nitrogen and subsequent nitrification appeared only at the third year. Weight decrease of the decomposing litter was estimated indirectly by measuring the amount of manganese in the litter, for the amount of manganese flowed into and out of the litter was negligible through out the experimental period. High correlation was present between the weight and C/N ratio of the litter. The weight of the litter began to reduce after 56 days, and except in the winter it decreased continuously during the experiment. By multiplying relative weight of the litter by the amount of each component, quantitative changs in some main components during the decomposition were obtained. Alcohol-benzene-soluble matters decreased soon after the beginning, corresponding to the period of fungal growth. Cutin acids and holo-and α-cellulose decreased after 56 days. Growth of cellulolytic bacteria in the first year coincided with the rise of cellulase activity and the decrease of cellulose, while in the second year the activity did not correlate with the number of the bacteria. Scanning electron microscopic observation indicated that, at the time of fungal decrease in the initial stage, fungal mycelia were covered with bacterial cells, suggesting that at least a part of the growth of bacteria depended on the fungal components. From the results obtained in this experiment, at least three stages of the decomposition were recognized. First stage was characterized by the increase of moisture content, decrease of organic solvent-soluble matter, and growth of fungi. At the second stage fungi were replaced by bacteria. C/N ratio decreased and some main components of the litter, cutin acids and cellulose, decreased and nitrogen-fixing activity appeared. This stage continued until the next year, although microflora dominant in the litter might change. The third stage was the third year and thereafter, which was characterized by mineralization of nitrogen and nitrification. At this stage loss of nitrogen from the litter was suggested to proceed.