著者
浅井 辰夫 飛奈 宏幸 前田 節子 西川 浩二
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.274-281, 2016-07-05 (Released:2016-07-26)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

静岡大学農学部附属地域フィールド科学教育研究センターの水田において,堆肥を連用した水稲の有機栽培試験を早生品種を用いて15年間継続して実施した.試験区として,基肥に籾殻堆肥と菜種油粕を用い,農薬を使用しない籾殻堆肥区(1996~2010年)および基肥に牛糞堆肥を用い,農薬を使用しない牛糞堆肥区(1996~2010年)の2種類の有機栽培と,基肥に化学肥料と農薬を使用する化学肥料区(1996~2010年)および基肥無しで農薬を使用する無肥料区(1998~2010年)を設定した.堆肥を連用する牛糞堆肥区で5年目以降,籾殻堆肥区で6年目以降に堆肥の連用効果が認められた.2006~2010年の5年間の平均収量は,籾殻堆肥区437 g m-2,牛糞堆肥区430 g m-2,化学肥料区523 g m-2および無肥料区329 g m-2であった.食味分析計で測定した食味値は,籾殻堆肥や牛糞堆肥を施用する有機栽培が,化学肥料を施用する化学肥料栽培より高い傾向にあることが確認された.また,連用水田の土壌分析から,堆肥連用の有機栽培区は,化学肥料区と比べて全窒素量が増加することが確かめられた.
著者
平野 清 杉山 智子 小杉 明子 仁王 以智夫 浅井 辰夫 中井 弘和
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.3-12, 2001-03-01 (Released:2012-01-20)
参考文献数
23
被引用文献数
6 5

本研究は, 自然農法および対照の慣行農法水田における在来系統を含むイネ4品種の生育と根面および根内の窒素固定菌の動態との関係について解析した. その結果, 自然および慣行農法における, イネ品種の生育にともなう根面および根内の窒素固定菌の推移は, イネ植物体の窒素含量増加および乾物重増加の推移と密接な関係があった. すなわち, 生育初期 (移植-最高分げつ) に窒素固定菌が多くなる品種は生育初期での窒素含量増加率および乾物重増加率が高く, 生育後期 (出穂-登熟) に窒素固定菌が多くなる品種は生育後期での窒素含量増加率および乾物重増加率が高くなる傾向を示した. また, 全体的に, 自然農法におけるイネ品種の窒素固定菌数が慣行農法より多い傾向が認められた. 特に, 自然農法において, 生育後期に相対的に窒素固定菌数が多くなる品種は, 慣行農法と同程度の籾収量が得られたことは注目に値する. このことは, 自然農法でより高い収量性を確保するためには, 生育後期に窒素固定菌数が多くなるタイプの品種を採用することが有効であることを示唆している. 本研究で用いた日本在来系統であるJ195は, 自然農法における生育後期の窒素固定菌数が多く, 収量も高かったことから, 自然農法あるいはこれに類する持続可能型農業で高収量を得る品種育成の有用な育種材料になり得ることが示唆された.
著者
佐藤 洋一郎 篠原 和大 浅井 辰夫 中村 郁郎 岡村 道雄 工楽 善通
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

日本各地の遺跡からは多量のイネ種子が出土しているが,その大半は黒化し炭化米と呼ばれている.故佐藤敏也氏が1960年代から1985年ころに収集した炭化米(これを佐藤コレクションという)を中心としてそれらの情報、とくに遺伝情報を1次資料化し,将来のデータベース化に備えようというものである.なお佐藤コレクションに含まれるサンプル総数は100万粒を超えるほど膨大なものであることがわかった.今年度はその最終年度であり、主にDNA分析に力を入れてまとめを行った.DNA分析を行った遺跡は全部で17遺跡(北海道から沖縄までの32都道府県にまたがる)で、そこから出土した計207粒の炭化米を研究に用いた.これら炭化米の多くは熱を受けて炭化したのではないことが外見上から確かめられた.DNA抽出はSSD法ないしはアルカリ法で行い,増幅はPCR法によった.その結果,古代の日本列島のイネのほとんどすべてがジャポニカであったこと,また約40%ほどの確率で熱帯ジャポニカの系統が含まれていることなどが明らかになった.熱帯ジャポニカは、場所、時期を問わず出土しており,当時の日本列島にひろく分布していたものと思われる.あわせて福岡市雀居遺跡から出土した炭化米はその220粒程度を対象に分析を行った.このうち12粒から,ジャポニカであることを示すDNA断片が増幅された.ただしそれらが熱帯ジャポニカであるか温帯ジャポニカであるかの判定はできなかった.
著者
浅井 辰夫 中井 弘和
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-5, 1996
被引用文献数
1

イネ品種「晴々」の種子に対するEI及びEMS処理M<SUB>2</SUB>植物集団を播種時期と窒素施用量の異なる条件下で栽培した.M<SUB>2</SUB>植物の出穂日の頻度分布の型は,適用した播種時期と窒素施用量によって変更された.M<SUB>2</SUB>における早生個体の選抜効果は,普通植条件において最も大きく,晩植条件では小さかった.適用した窒素施用量の影響は,それほど明確ではなかった.以上のような実験結果を基礎にして,栽培条件(特に播種時期)によってmutagen処理後代集団(M<SUB>2</SUB>)における出穂期に関する選抜効果が変更される機構について考察した