著者
常見 俊直 仲野 純章
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 45 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
pp.593-596, 2021 (Released:2021-12-20)
参考文献数
16

教育の質保証や質的転換・向上を進める中で,高大連携事業は益々重要性を増している.高大連携事業は,大学訪問や出張講義や次世代科学者育成といった様々なものがあるが,高校生が習い,大学生・大学教員が講義や指導助言するものが多い.そのような中,本研究では,より高次の連携を目指した高大連携事業の一つとして,「高校生と大学生による課題研究の協働推進」という形態を企画し,検証的に実践を進めてきた.現在,高校生と大学生からなる2グループが,課題研究のテーマとして「煤の性質の条件による変化」及び「マンボウの粘液の抗菌作用の有無」を設定し,協働的に活動を進めている.こうした実践により,高校生側への教育効果は勿論のこと,大学1・2回生への探究的な実験体験の提供や大学3・4回生程度の論文購読・発表ゼミに相当する機会の提供など,大学生側への教育有効も確認されつつある.
著者
仲野 純章
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.139-146, 2018

<p>本研究では, 高等学校における万有引力分野の指導の中で, 生徒が感じている当該分野に対する否定的な印象(ネガティブ感情)を収集・分析し, その結果を踏まえた授業を設計・実践して効果を調べた。授業実践前の意識調査では, 対象集団の約1/4が当該分野に興味を持てていない実態が明らかとなった。また, 当該分野への興味有無に関わらず, 「状態や運動をイメージしにくい」というネガティブ感情が多く持たれていることも分かった。更に, 当該分野に興味を持てていない集団内では, 「身近さを感じにくい」というネガティブ感情も目立った。そこで, 様々なネガティブ感情, 特に, 当該分野に興味を持てていない集団で目立つネガティブ感情を意識し, なおかつ生徒に大きな裁量を与える形で, 皆既月食をテーマとした授業を設計・実践した。授業では, 身近な道具を用いた簡単な実験で重力加速度を求めさせ, その値と皆既月食動画から得られる情報のみを頼りに理論計算を進め, 壮大なスケールの地球-月間の概算距離を導出するというグループワークを実施した。その結果, 深い学びに繋がる主体的・対話的なグループワークが展開され, 9割以上の生徒が今回のような活動があればネガティブ感情が改善されていくと感じると答えた。以上のように, ネガティブ感情が改善に向かう見通しが示され, 学習者の意識分析を反映した授業設計プロセスの有効性が示唆された。 </p>
著者
仲野 純章
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.299-307, 2020-11-30 (Released:2020-11-26)
参考文献数
31

磁界が存在する状態の下,電解質溶液中の電極で電気化学反応を起こすと溶液流が生起する。当該現象は電気化学反応に関与するイオンにローレンツ力が作用して起こるものであり,その特性から,ローレンツ力可視化教材への転用を狙った種々の教材化研究がなされてきた。しかしながら,汎用性や簡便性の面で課題も多く,教材として確立・普及するに至っていない。今回,汎用性と簡便性を重視した新教材を検討し,予備実験と検証授業を通じて教材としての可能性を検証した。その結果,電極にアルミニウム,電解質溶液に塩化ナトリウム水溶液を採用することで汎用性と簡便性に優れた新教材が成立し,これを用いることで,ローレンツ力に関する理解を深めさせる授業を効果的に展開できることが確認された。
著者
仲野 純章
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.143-152, 2019-07-31 (Released:2019-08-29)
参考文献数
27

構成主義的学習観に立つと,教授者には,学習者が有する既有概念を把握することが求められる。物理分野においても,これまで様々な既有概念が調査されてきたが,摩擦角に関する報告例は見られない。そこで,本研究では,摩擦角について学習する直前段階の学習者が,どのような既有概念を持ち合せて当該学習に向かうのかを調査した。具体的には,粗い板の上に置かれた木片がある傾斜角で滑り出す時,その木片上におもりを固定して質量を増加させると滑り出す傾斜角は変化するかを問う概念調査を実施した。その結果,科学的に誤った回答をする者は過半数に上り,その回答根拠には経験由来の素朴概念は少なく,教育現場で学習したことに関連した誤った科学的理論が目立つという特徴が見られた。また,こうした学習者にメタ認知的活動を促す事実確認実験や班内討議を組み込んだ指導を施したところ,大幅な概念変容とその効果持続が確認され,摩擦角に関する概念の再構成にもメタ認知的支援が有効であることが示唆された。