著者
伊勢 紀 三橋 弘宗
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.221-232, 2006-01-30 (Released:2009-01-19)
参考文献数
53
被引用文献数
8 5

1.広域的な環境要因とモリアオガエルの分布の対応関係を解析し,日本列島スケールでの生息適地の推定を行った.また,この結果に基づいて保護区の現状に関してギャップ分析を行った. 2.モリアオガエルの分布の「有」データを説明する環境要因として,年間最高気温,実効雨量と最大積雪深(グループ化),森林率,緩斜面率の5つを対象として,二進木解析を行った.その結果,すべての環境要因がモリアオガエルの分布を説明する上で有効であることが判明した.そして,上記の順に階層化されたモデルが構築された. 3.構築されたモデルでは,生息適地として選択されたメッシュを全体の約40%まで絞込み,75%の実際の生息地をカバーすることが出来た.また,推定した生息適地に1メッシュでも隣接する地域も,生息適地として評価した場合,約95%の実際の生息地をカバーした.これらの結果は,ランダマイズドテストを行ったところ,いずれの場合も有意であり,本モデルが比較的高い信頼性を持つことが検証された. 4.これまで分布の空白地域とされていた,関東地方の北東部(茨城県)や南東部(神奈川県),紀伊半島,四国,九州地方は,実際に生息適地が乏しいか散在する地域であることが確認できた. 5.一方で,推定した生息適地図を参照すると,予測の不整合が確認された.分布が予測されるが,実際には分布情報が乏しい地域として,中国地方南部や東北地方東部(岩手県)が抽出された.逆に,分布が予測されないが,実際に分布する地域として,東海地方(静岡県北部),兵庫県南部などが抽出された.これらの不整合は,調査の不十分さ,異なるスケールやその他の環境要因が関連すると思われる. 6.生息適地と保護区との重複性をギャップ解析した結果,都道府県によって,現状が大きく異なることを視覚化することが出来た.特に近畿地方南西部(大阪,和歌山,奈良)においては,生息適地面積と保護区の占有率ともに値が低く,保全対策が必要であることが分った.
著者
金 炫禛 伊勢 紀 増澤 直 福田 正浩 小川 博 安藤 元一
出版者
日本湿地学会
雑誌
湿地研究 (ISSN:21854238)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.17-27, 2019 (Released:2019-06-21)
参考文献数
49

希少動物の保全計画を策定するには広域における生息環境の情報が求められることから,地理情報システム(GIS)を用いて日本の環境におけるカワウソの生息可能性を探った.韓国におけるカワウソの痕跡に基づいた生息地情報をもとに日本の環境における本種の生息適地を類推することを目的に,韓国全域におけるポテンシャル・ハビタット・マップを作成した.日本においても広い範囲でカワウソの生息適地が抽出され,その環境は韓国のカワウソの糞がよく見つかる環境に似ていた.本研究の結果からは,日本にも韓国のカワウソの生息地と類似した環境があることが明らかになったため,日本における現在の環境でカワウソは生息できると考えられる.