著者
佐藤 庚 西村 格 高橋 正弘
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.14-19, 1965-06-30
被引用文献数
1

マメ科牧草の維持管理が比較的むずかしい火山灰土の川渡農場で,イネ科牧草に窒素を多用して,マメ科を混播した場合と同様な乾物収量や蛋白質生産を得ることの可否を明らかにする目的で,圃場試験を行なった。試験期間は1962年秋から,1964年秋に至る3年間である。Orchard単播,Orchard-Perennial ryegrass混播,Orchard-Perennial ryegrass-Redclover-Ladino clover混播の3草地を設け,これに3段階の窒素施用を行い,年間4回の刈取を行なって,乾物生産,粗蛋白質生産,およびこれらの年間の分布,草種組成の変遷,個体密度の変化を調べた。(1) 2年間の収穫を通じて総乾物生産は,少窒素の場合には,マメ科を混ずる草地のほうが収量が高まるが,多窒素になると両者間の差異は明瞭でなくなった。粗蛋白質生産においても,少窒素の場合,マメ科を混ずる効果が特に大きいが,多窒素ではほとんど差が見られなかった。従ってマメ科を混播しなくても,窒素を多用すれば,イネ科牧草のみで乾物ならびに粗蛋白質の生産を多くすることは可能であると考えられた。殊に雑草の飼料価値を考慮に入れると更にこれらの生産が高いといえよう。(2)イネ科のみの草地では,窒素を多用するほど夏を経過する過程で牧草の個体数が激減し,最終刈取期の牧草生産も急減した。同時に雑草の著しい侵入を受けた。しかるに翌春1,2番刈には再び牧草収量は回復した。従ってこの草地では年間収量は1,2番刈収量に左右される。少窒素の場合には個体数の減少が少ないので年間を通じて安定した生産をするが,年間の総乾物量および粗蛋白質の生産はやはり少窒素ほど少なかった。マメ科を混ずる草地でも同様の傾向を認めたが,窒素を多く与えた場合の刈取毎の収量の変動はイネ科草地ほど大きくはなく,初年度は雑草の侵入もなかった。(3)高温,乾燥の長引いた1964年においては,Perennial ryegrass,Red clover,Ladino cloverなどはOrchardgrassに比べて個体の減少が著しかった,この地帯でのイネ科牧草としてはPerennial ryegrassはあまり期待がもてないようである。(4)マメ科を混ずる草地では窒素の多用につれてマメ科の生長が抑制されると共に,イネ科の播種量がイネ科単播の場合より少ない時には,イネ科牧草の生産量も著しくは増えず,結局窒素多用の効果が顕著に表われない。
著者
山本 嘉人 斎藤 吉満 桐田 博光 林 治雄 西村 格
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.307-314, 1997-01-31
被引用文献数
12 1

関東に位置するススキ型草地に火入れ,刈取り,放牧あるいはこれらの組み合わせ等の異なる人為圧を加え続けた。20年間にわたる定置枠の植生調査のデータから,草種ごとの拡張積算優占度を算出し,主成分分析によって人為条件の差異に応じた植生遷移の方向を表現することを試みた。第1および第2主成分と主要な群落構成種25種との相関関係から,第1主成分はススキ,シバで代表される放牧圧の有無に関わる成分,いいかえれば放牧による偏向遷移を表すと考えられた。縦軸の第2主成分は高木とつる植物で代表される人為的撹乱の有無にかかわる成分,いいかえれば進行遷移を表すと考えられた。これら2つの主成分を軸として,各処理区,各年次の群落のデータをプロットした結果,散布図上で,7処理区の群落データ群は処理開始後の年次経過とともに分離する傾向を示し,処理に応じた遷移の方向を示した。
著者
佐藤 庚 西村 格 伊東 睦泰
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.9-15, 1969-04-20

オーチャードグラスの品種Frodeの中から選んだ4クローンを用いて2段階の密度に混植した草地を作り,窒素施用量,1番草刈取りの早晩が構成クローンの役割などに及ぼす影響をしらべた。刈取り処理は1番草を穂孕期(5月17日),出穂期(5月24日),開花盛期(6月6日)および結実期(6月20日)の4回に行ない,2番草はそれぞれの1番刈り6週間後に刈った。1.競争の少ない粗植区の生育からみたクローンの特性は次のようである。クローン1:草丈高く茎数は少ない。クローン2:草丈はクローン1より低いが茎数は多い,クローン3:草丈はクローン2よりさらに低いが茎数は多く,葉身の窒素濃度は他のクローンに比べかなり低い,クローン4:草丈は最も低く分けつ性も弱い。2.光,養水分などに対する競争の少ない生育初期に1番草を刈る場合には,草丈はある程度低いが分けつ性の強いクローン2,3の生育量が多く,草地の収量および密度に対する貢献度が高かったが,1番草の刈取り時期がおそくなるにつれ草丈の高いクローンが次第に優勢となり,収量に対する貢献度は最高となった。クローン1は遺伝的な分けつ性が低いと思われたのに茎数密度に対する貢献度も増加した。次いでやや草丈の低いクローン2が収量貢献度高く,クローン3,4の順に低下した。3.1番刈り後の再生においても1番草とほぼ同様なクローン間の序列を示したから,1,2番刈り合計収量における各クローンの寄与の程度は,早刈りの場合にはクローン2,3が,晩刈りの場合にはクローン1がそれぞれ最も高かった。草丈の高い直立性のクローンは乾草ステージの刈取りで,草丈の低い多けつ性のクローンは放牧ステージの刈取りでそれぞれ草地の密度においても収量においても優勢となった(Fig.s.5,7)。4.環境や栽培管理法によって粗植条件で示されたクローンの特性が大きく変動することは注目を要するところで,粗植のときの特性から直ちに草地における得失は論ぜられない。
著者
金子 幸司 村上 馨 西村 格 杉信 賢一 小島 昌也
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.179-188, 1967-10-20

本試験は場所および草令を異にした採種によりアカクローバ品種の諸形質がどのように変化するかを調査した試験であるが,その結果を要約すると次のとおりである。1.アメリカ,カリフォルニア州で冬,(1月)播き2年目採種したものは道内春播き2年目採種のものに比べて早生化し,播種初年目および2年目における草勢,草丈および収量などは大であったが,3年目以降になるとその関係はむしろ逆となった。2.アメリカ,オレゴン州およびアイダホ州で春播き2年目採種したものは道内採種のものに比べて生育型構成割合がnon-flowering typeのほうに移動する傾向がみられ,それに応じて開花が若干晩生化したが,収量などについては上記のカリフォリニア州採種のものほど顕著な差は認められなかった。3.道内各地域採種の場合,札幌と上川北部地方で数世代採種しても両者間には諸形質に大きな差異を生じなかったが,日高地方で1世代選抜操作を加えることによってその集団は早生化し,原品種と諸形質を異にする集団を生じた。4.札幌地方で早生種を播種1,2および3年目と異なる草令別に採種をした場合,それらの種子区間にはほとんど形質の変化は認められなかった。本試験の実施にあたりハミドリ種子の御提供を賜わった雪印種苗株式会社上野幌育種場長三浦梧楼氏に深く謝意を表します。
著者
西村 格 安達 篤
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.213-222, 1975-10-25

日本の亜寒帯に属する代表的な放牧草地である北海道の野付崎で1972年から1974年にかけて年次変化と季節変化の植生調査をおこなった。1)野付崎の放牧草地植生の種類組成は,オオウシノケグサ,センダイハギ,チャシバスゲ,エゾヌカボなどを主体とし,北海道の海岸草原にみられるハマナス,ハマフウロ,エゾツルキンバイ,エゾカワラマツバ,イワノガリヤスなどのほか北海道の放牧草地に常在するナガバグサ,シロツメクサなど約50草種で構成されていた。2)7月10日前後の定期調査時期には,最も多くの種類の植物がみられ,年間を通じてオオウシノケグサ,センダイハギが優占する。春の5月には,ヒメイズイ,クロユリ,ザラバナソモソモ,などが他の時期よりも増加し,夏には,センダイハギ,エゾヌカボ,エゾキンポウゲ,ハマフウロ,ツマトリソウなどが他の時期よりも高い割合を示し,秋にはナガバグサ,イヌゴマ,ナミキソウ,シロツメクサ,テンキグサ(ハマニンニク)などが割合の増加する草種としてあげられた。3)植生の年次変化は,オオウシノケグサ,センダイハギ,チャシスバゲなど基幹となるものは大きな変化がなかった。しかし,センダイハギ,イワノガリヤスなどは減少の傾向にあり,チャシバスゲ,シロツメクサ,スズメノヤリなどは増加する傾向を示した。4)野付崎の海岸砂丘草原の植生は,長草型のセンダイハギーイワノガリヤス群落から短草型のオオウシノケグサ群落へと遷移していると考えられた。家畜や車め踏圧によってシロツメクサ,オオバコ,スズメノカタビラなどは増加する傾向がみられた。5)遷移度は3年間の年次的変化はみられなかったが,放牧草地では,ケージ内に比較して明らかに減少した。