著者
伊藤 冬樹
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

高分子媒体中で形成されるピレン誘導体集合体の濃度変化にともなう蛍光スペクトル変化と集合体サイズの関係を定量化・モデル化し,これを利用して結晶核生成初期過程に関する知見を得ることを目的として研究を行った.ピレン誘導体の高分子薄膜での色素濃度に依存した蛍光スペクトル変化は,バルク結晶に至るまでの成長過程における集合体の階層性の存在を示唆するという結論を出した.また,再沈法によって作製したピレン誘導体ナノ凝集体の光照射にともなう蛍光スペクトル変化を見出した.これは,光照射によるピレン誘導体ナノ凝集体の溶解現象に起因する現象であるといえる.
著者
伊藤 冬樹
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究課題では,複数の分子を組み合わせることで形成される組織化分子配列系で進行するエネル1ギー・電子移動反応などの励起ダイナミクスについて時間・空間分解分光法を用い,時間発展と空間分布の階層性を明らかにすることを目的とする.組織化された分子配列系として光捕集能や光導電機能をもつ分子をDNAにインターカレートした機能組織体を対象とする.前年度のアクリジンオレンジーDNA薄膜における時間分解蛍光測定,蛍光異方性減衰の測定から,DNAにインターカレートして形成される分子配列系において高効率な励起エネルギー移動が生じていることを明らかにした.本年度は,この結果に基づき,DNA鎖上にカチオン性ポルフィリン(TMPyP)とシアニン系近赤外蛍光色素(DTrCI)を吸着させた系における励起エネルギー移動を観測し,これを利用した近赤外蛍光増強について検討した.TMPyPとDTTCIを混合したDNA緩衝溶液中ではTMPyPの濃度が増加するにつれて,DTTCIの蛍光強度はTMPyP非存在下の最大86倍程度増加した.このエネルギー移動過程のタイナミクスを検討するために,時間分解蛍光測定を行った.TMPyPの蛍光強度は2成分指数関数で減衰した.一方DTTCIの蛍光強度は立ち上がりと減衰の2成分指数関数で再現された.立ち上がり成分はTMPyPの早い減衰成分と一致したことからエネルギー移動によってDTrCIの励起状態が生成したことを示している.また,本研究課題により得られた知見に基づき,高分子薄膜中に形成された色素分子集合体の集台体サイズとその励起状態ダイナミクスに関する研究へと発展させることができた.
著者
長村 利彦 伊藤 冬樹
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

近年, バイオイメージングや光線力学療法の観点から, 近赤外蛍光が注目されてきている. しかしながら, 近赤外蛍光色素の蛍光量子収率は一般的に非常に低い. これはπ共役系を拡げるために分子構造が複雑であることや, エネルギーギャップが小さくなると蛍光放射速度定数は小さくなるという本質的な問題に起因する. 本研究では, 光-分子強結合場における近赤外蛍光の増強を試み, 増強に及ぼす因子・機構解明を目的とした. 光一分子強結合場として金ナノロッドとDNAとのナノ複合体を利用し, その光学特性について検討した. 本研究の開始段階で, 金ナノロッドの周囲に存在する界面活性剤の影響が大きいことが明らかとなった. この影響を取り除くために, 以下のような光一分子強結合場の構築を行った.第一に, 交互積層法を用いて, 金ナノロッド表面への修飾を行い, ナノ構造制御した. 界面活性剤で被覆されている金ナノロッドヘカチオン性高分子とアニオン性高分子を交互に積層させ, 最表面ヘアミンと反応できる近赤外蛍光標識試薬(ICG-Sulfb-OSu)を修飾した. この系において最大16倍, 平均1.7倍程度の増強が確認された. しかしながら, 粒子間の凝集などの影響により定量的な検討を行うことは困難であった.次に, 金ナノロッドを高度な構造規則性を有する天然高分子であるDNAに分散させた高分子積層薄膜による反応場の創成をおこなった. DNAを薄膜媒体として金ナノロッドを分散した薄膜を作成したところ, 金ナノロッドの分散濃度の増加にともない, 元の長軸由来のバンドより長波長側に新たな吸収が観測された. この吸収はPVAを媒体とした場合には観測されなかった. これはDNAによって配列制御されたロッド間でのプラズモン結合を示唆する. この薄膜を用いて近赤外蛍光の増強を試みたところ, 強度は約3倍増加した.