- 著者
-
長村 利彦
伊藤 冬樹
- 出版者
- 九州大学
- 雑誌
- 特定領域研究
- 巻号頁・発行日
- 2008
近年, バイオイメージングや光線力学療法の観点から, 近赤外蛍光が注目されてきている. しかしながら, 近赤外蛍光色素の蛍光量子収率は一般的に非常に低い. これはπ共役系を拡げるために分子構造が複雑であることや, エネルギーギャップが小さくなると蛍光放射速度定数は小さくなるという本質的な問題に起因する. 本研究では, 光-分子強結合場における近赤外蛍光の増強を試み, 増強に及ぼす因子・機構解明を目的とした. 光一分子強結合場として金ナノロッドとDNAとのナノ複合体を利用し, その光学特性について検討した. 本研究の開始段階で, 金ナノロッドの周囲に存在する界面活性剤の影響が大きいことが明らかとなった. この影響を取り除くために, 以下のような光一分子強結合場の構築を行った.第一に, 交互積層法を用いて, 金ナノロッド表面への修飾を行い, ナノ構造制御した. 界面活性剤で被覆されている金ナノロッドヘカチオン性高分子とアニオン性高分子を交互に積層させ, 最表面ヘアミンと反応できる近赤外蛍光標識試薬(ICG-Sulfb-OSu)を修飾した. この系において最大16倍, 平均1.7倍程度の増強が確認された. しかしながら, 粒子間の凝集などの影響により定量的な検討を行うことは困難であった.次に, 金ナノロッドを高度な構造規則性を有する天然高分子であるDNAに分散させた高分子積層薄膜による反応場の創成をおこなった. DNAを薄膜媒体として金ナノロッドを分散した薄膜を作成したところ, 金ナノロッドの分散濃度の増加にともない, 元の長軸由来のバンドより長波長側に新たな吸収が観測された. この吸収はPVAを媒体とした場合には観測されなかった. これはDNAによって配列制御されたロッド間でのプラズモン結合を示唆する. この薄膜を用いて近赤外蛍光の増強を試みたところ, 強度は約3倍増加した.