著者
大野 善隆 松井 佑樹 須田 陽平 伊藤 貴史 安藤 孝輝 横山 真吾 後藤 勝正
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-147_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】運動量に応じて骨格筋量は変化するが、その分子機構には不明な点が多く残されている。運動時に骨格筋は乳酸を産生し、分泌する。骨格筋には乳酸受容体が存在するため、乳酸は骨格筋にも作用すると考えられる。近年、培養骨格筋細胞を用いた実験において、乳酸によるタンパク合成シグナルの活性化ならびに筋細胞の肥大が報告されている。しかしながら、生体レベルでの骨格筋量に対する乳酸の影響は未解明である。そこで本研究では、乳酸がマウス骨格筋量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 【方法】実験には雄性マウス(C57BL/6J)を用い、足底筋とヒラメ筋を対象筋とした。マウスを実験1:対照群と乳酸投与群、実験2:対照群、筋萎縮群および筋萎縮+乳酸投与群、に分類した。筋萎縮群と筋萎縮+乳酸投与群のマウスには、2週間の後肢懸垂を負荷し、筋萎縮を惹起させた。乳酸投与群と筋萎縮+乳酸投与群のマウスには、乳酸ナトリウム(乳酸)の経口投与(1000mg/kg体重、5回/週)を行った。対照群と筋萎縮群には同量の水を投与した。全てのマウスは気温約23℃、明暗サイクル12時間の環境下で飼育された。なお、実験期間中マウスは自由に餌および水を摂取できるようにした。実験開始後2、3週目(実験1)および1、2週目(実験2)にマウスの体重を測定した後、足底筋とヒラメ筋を摘出した。筋重量測定後、体重あたりの筋重量を算出した。また、乳酸の経口投与が血中乳酸濃度に及ぼす影響を確認するために、乳酸の単回経口投与後にマウスの尾静脈から採血し、簡易血中乳酸測定器を用いて血中乳酸濃度を測定した。実験で得られた値の比較には、一元配置分散分析または二元配置分散分析および多重比較検定を用いた。 【結果】本研究で用いた乳酸の経口投与は、マウスの体重に影響を及ぼさなかった。また、乳酸の単回投与後に血中乳酸濃度の一過性の増加が認められた。実験1において、足底筋ならびにヒラメ筋の重量は乳酸投与により増加した。実験2では後肢懸垂により足底筋とヒラメ筋の重量は減少した。一方、乳酸投与は後肢懸垂による筋重量の減少を一部抑制した。 【考察】乳酸は筋肥大および筋萎縮予防の作用を有すると考えられた。細胞外乳酸濃度の増加が培養骨格筋細胞を肥大させることが報告されていることから、乳酸経口投与による血中乳酸濃度の増加が、筋重量の増加に関与していると考えられた。 【結論】血中乳酸濃度の増加は筋重量の増加に作用することが示唆された。本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費(17K01762、18K10796、18H03160)、公益財団法人明治安田厚生事業団研究助成、日本私立学校振興・共済事業団「学術研究振興資金」、公益財団法人石本記念デサントスポーツ科学振興財団「助成金」、豊橋創造大学大学院健康科学研究科「先端研究」を受けて実施された。 【倫理的配慮,説明と同意】本研究の動物実験は、所属機関における実験動物飼育管理研究施設動物実験実施指針に従い、所属機関の動物実験委員会による審査・承認を経て実施された。
著者
石井 健史 佐瀬 隼人 伊藤 貴史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1077, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】階段は,在宅や公共施設を移動する重要な手段である為,適切な評価を基に,階段自立を判断していく必要がある。しかし階段自立を判断する明確な基準がないのが現状である。階段自立には,様々な報告がされているが,その一つに動作中の大きな関節運動と関節モーメントが必要であるとされている。先行研究においては,下肢筋力に関する報告は多いが,動作中の関節運動に関する報告は散見されない。昇降動作において,関節運動の低下は,転倒の危険性があると報告されており,階段自立を判断する際は,筋力だけでなく動作中の関節運動にも目を向ける必要があると考える。そこで本研究では,脳卒中片麻痺者を階段自立群と見守り群に分け,三次元動作解析装置を用いて動作中の各関節運動を分析し,階段自立を判断する一助にすることを目的とした。なお,本研究においては,脳卒中片麻痺者が特に難しいと言われている降段動作に着目し検討した。【方法】対象は,入院また通所リハビリを利用していた脳卒中片麻痺者14名とした。包含基準は,T字杖と短下肢装具を使用し階段の昇降動作が見守り以上で可能な者とした。除外基準は,両側に運動麻痺を呈している者,重度の高次脳機能障害を有する者,体幹及び下肢に著明な整形外科的疾患の既往がある者,研究方法の指示理解が困難な者とした。対象者の属性は,男性12名,女性2名,年齢61.9±10.9歳,階段自立群7名,見守り群7名であった。測定方法は,階段の降段動作を実施してもらい,三次元動作解析装置(株式会社酒井医療製,マイオモーション)を用いて各関節角度を測定した。階段は,4段(蹴り上げ15cm,踏み面30cm)を使用した。階段の降段方法は2足1段とし,振り出し側は麻痺側,支持側は非麻痺側となるよう統一した。測定項目は,胸椎・腰椎・股関節・膝関節の各関節角度とした。各関節角度の測定時期は,振り出し側の全足底面が踏み面に接地した瞬間とし,それぞれ3段の平均値を算出した。統計解析は,測定項目に対して,2群間の差をみる目的で対応のないt検定及びMann-WhitneyのU検定を実施した。なお,有意水準は5%とした。【結果】統計解析の結果,降段時の支持側膝関節屈曲角度(測定値[°]:自立群67.5/見守り群52.7)に2群間で有意な差を認めた(p<0.05)。その他の項目においては有意な差を認めなかった。【結論】今回の研究において,階段自立群は見守り群と比較し,支持側の膝関節屈曲角度が増大していることが明らかとなった。階段の昇降動作は,重心の上下移動が大きく,降段する際は支持側の膝関節を十分に屈曲させる必要がある。先行研究においては,筋力の重要性が示唆されてきたが,本研究の結果から階段の昇降動作中の支持側の膝関節運動にも十分目を向けていく必要があると考えられる。
著者
大塚 貴司 伊藤 貴史 石井 健史 寺島 優
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第38回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.O-024, 2020 (Released:2020-01-01)

【背景】回復期病棟の脳卒中片麻痺者(以下,片麻痺者)は,車椅子での生活を余儀なくされている.そのため入院中の片麻痺者は活動量が低下することが予測される.廃用症候群の予防という観点からも,片麻痺者自身が車椅子を駆動し移動することが重要である.しかし,片麻痺者の車椅子駆動は非麻痺側のみで行われ,麻痺側の運動が得られにくいことに加え,非対称性の姿勢を助長するデメリットがある.関矢らは,麻痺側の下肢も使用する足漕ぎ車椅子を用い,歩行速度の改善,下肢交互運動獲得が可能であることを示唆している.そこで,今回,足漕ぎ車椅子を使用し麻痺側の筋活動を向上させることにより,麻痺側の下肢機能へどのような影響を及ぼすか一症例にて検討することとした.【方法】本症例は,被殻出血により右片麻痺を呈した60 代男性であった.Brs:上肢Ⅱ・下肢Ⅲの運動麻痺を認めていた.運動性失語を認めるが指示理解良好であった.入院時の移動能力は,モジュラー型車椅子を使用していた.研究デザインをABA法とし,通常の運動療法前に自主練習として,病棟にて方向転換を含む車椅子自操を10分間,A期はモジュラー型車椅子,B期は足漕ぎ車椅子とし,各期間7日間施行した.アウトカムとして,車椅子走行距離,下肢荷重率,FACTを施行した.本研究はヘルシンキ宣言に沿って対象者の倫理的配慮を行った.【結果】結果は,走行距離(7日間の平均):A期52.9m,B期300m,A’期116.3mであった.下肢荷重率(Kgf/Kg)とFACT(点)(初期/ A期後/ B期後/ A’期後)は, 0.26/0.27/0.33/0.27および7/8/13/13であった.【考察】今回,足漕ぎ車椅子駆動を行った結果,下肢荷重率・FACTの上昇を認めた.ペダリングにより座位での麻痺側足底への荷重率が増大し静的座位バランスが安定したと考えた.これにより座位における支持基底面内の重心移動が可能になったと考えた.病棟における足漕ぎ車椅子駆動は麻痺側下肢の筋収縮を促し廃用症候群の予防,座位でのADL拡大に寄与すると考えた.