- 著者
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横山 真吾
大野 善隆
後藤 勝正
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2013, 2014
【はじめに,目的】肉離れに代表される骨格筋損傷はしばしば線維化を惹起し,重度な場合は骨格筋機能不全を呈することで日常生活動作の阻害因子となることが知られている。スポーツ現場では骨格筋損傷の治癒を促すために物理療法の1つである微弱電流(microcurrent electrical neuromuscular stimulation:MENS)治療が実施されている。MENS治療により損傷した組織の修復が促進された事例は数多く報告されているが,そのメカニズムには不明な点が多い。ストレスタンパク質であるheat shock proteins(HSPs)の発現誘導は,損傷骨格筋の再生を促進することが報告されている。コラーゲン特異的なHSPであるHSP47は,損傷骨格筋細胞に発現が誘導されることが知られている。したがって,HSP47は損傷骨格筋の再生に重要な役割を担っていることが示唆される。そこで本研究は,MENS治療がもたらす損傷骨格筋の再生促進の機序についてHSP47発現から検討することを目的とした。【方法】実験動物は7週齢のC57BL/6J雄性マウス36匹を用い,骨格筋損傷後に自然回復させる群(CTX群;n=18)と回復過程においてMENS治療を行う群(MENS群;n=18)の2群に分類した。筋損傷は,麻酔下にて左側前脛骨筋(TA)に対しcardiotoxinを筋注することで惹起した。また,右TAを対照群とした。MENS治療は,Trio 300(伊藤超短波(株),東京)を使用し,左後肢に対して出力20 μA,周波数0.3 Hz,パルス幅250 msの条件で1日1回,60分間実施した。CTX筋注を基準として,1,2および3週間後に両後肢よりTAを摘出し,骨格筋含有タンパク量を測定した後Western blot法を用いてHSP47およびHSP72発現量を評価した。【倫理的配慮,説明と同意】本実験は所属機関の動物実験に関する規定に従い,所属機関の動物実験委員会の審査・承認を経て実施した。【結果】TAの筋タンパク量はCTXを筋注することで低下し,その後の徐々に回復した。CTX筋注3週後において,筋タンパク量はMENS群がCTX群に比べて有意に高値を示した(p<0.05)。TAにおけるHSP47発現量は,CTXを筋注することにより増加し,CTX筋注1週間後に対照群に比べ約2.5倍の発現量を示した(p<0.05)。その後,HSP47発現量は徐々に低下したが,MENS治療によりHSP47発現量の低下が促進した。TAにおけるHSP72発現量も,CTX筋注により増加し,その後徐々に低下する傾向が認められたが,CTX筋注およびMENS治療による統計学的に有意な変化は認められなかった。【考察】本研究では,損傷骨格筋に対するMENS治療は損傷により低下した筋タンパク量の回復を促進した。したがって,MENS治療は損傷骨格筋の治癒促進効果を有することが確認された。MENS治療によって,CTX筋注により増加したHSP47発現量の低下を促進することが認められた。HSP47はコラーゲン特異的なHSPであり,損傷骨格筋細胞膜に発現が誘導されることから,MENS治療は損傷骨格筋の再生に必要なコラーゲン量を適切に制御することで,再生を促進しているものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】MENSには損傷組織の回復促進効果がある他,疼痛抑制効果なども有するとされており,リハビリテーション医療への応用が期待される物理刺激の一つである。MENS治療は痛みを伴わず受傷早期から実施できることから,その治療メカニズムが明らかにすることで運動器リハビリテーションに大きく貢献できるものと考えている。本研究の一部は日本学術振興会科学研究費(挑戦的萌芽,24650411;基盤A,22240071)ならびに日本私立学校振興・共済事業団による学術振興資金の助成を受けて実施された。