- 著者
-
会田 薫子
- 出版者
- 一般社団法人 日本老年医学会
- 雑誌
- 日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
- 巻号頁・発行日
- vol.49, no.1, pp.71-74, 2012 (Released:2012-03-29)
- 参考文献数
- 10
- 被引用文献数
-
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高齢化が進んだ我が国では,終末期医療に関する諸問題が深刻さを増しており,特に,認知症が高度に進行した段階での経口摂取困難に対する人工的水分・栄養補給法(AHN:artificial hydration and nutrition)の是非については,我が国の文化的な背景や死生観が色濃く反映していると考えられ,先進諸外国の先行知見に学ぶだけでは適切な対応をとることは困難である.そこで,我が国における対策を検討するため,同課題に関する医師の臨床実践と意識を探る量的調査を行った.2010年10月~11月に,日本老年医学会の医師会員全員(n=4,506)に対して郵送無記名自記式質問紙調査を実施した.有効回答率は34.7%.分析の結果,当該課題に関して深く迷い悩む医師の姿が明らかになった.AHN導入の方針決定の際に,困難を感じなかったという回答者は6%だけであり,AHNを差し控えることにも施行することにも倫理的な問題があると感じている医師や,AHN導入の判断基準が不明確と考える医師が半数近くいることが示された.また,法的な問題への懸念が対応を一層困難にしていることが示された.アルツハイマー型認知症末期の仮想症例について,胃ろうあるいは経鼻チューブによる経管栄養法の導入を選択した医師は3分の1であったが,医療者と患者家族が十分話し合った結果であれば,末梢点滴を行いながら看取ることは可能な選択肢であると考えている医師は全体の約9割に上ることが示された.