著者
渡辺 真澄 種村 純 長谷川 恒雄 佐々木 浩三 辰巳 格
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.206-215, 2001

新造語発話における機能範疇の使用状況を調べるため,新造語発話の多い流暢性失語症1例を対象に,動作絵を用いて動詞を発話させ,活用を調べた。活用形には,基本形,テ形,命令形の3種を選んだ。それぞれの課題における反応語の語幹は,約半数が新造語となった。これらの活用語尾と語幹末音素を検討したところ,新造語であるにもかかわらず活用語尾には動詞の語尾だけが現れた。さらに,基本形,命令形では,ほぼ動詞の語幹末音素だけが出現した。しかし,テ形では,逸脱例が多く出現した。これらの結果は,英語圏における,新造語発話に関する研究,および脳の損傷部位と規則・不規則動詞の過去形生成に関する先行研究の結果とほぼ一致し,日本語の新造語発話においても機能範疇が保たれる場合のあることを示している。さらにこれらの結果は,語彙範疇と機能範疇の使用頻度の差,という視点から説明される可能性を示した。