著者
渡辺 真澄 種村 純 長谷川 恒雄 佐々木 浩三 辰巳 格
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.206-215, 2001

新造語発話における機能範疇の使用状況を調べるため,新造語発話の多い流暢性失語症1例を対象に,動作絵を用いて動詞を発話させ,活用を調べた。活用形には,基本形,テ形,命令形の3種を選んだ。それぞれの課題における反応語の語幹は,約半数が新造語となった。これらの活用語尾と語幹末音素を検討したところ,新造語であるにもかかわらず活用語尾には動詞の語尾だけが現れた。さらに,基本形,命令形では,ほぼ動詞の語幹末音素だけが出現した。しかし,テ形では,逸脱例が多く出現した。これらの結果は,英語圏における,新造語発話に関する研究,および脳の損傷部位と規則・不規則動詞の過去形生成に関する先行研究の結果とほぼ一致し,日本語の新造語発話においても機能範疇が保たれる場合のあることを示している。さらにこれらの結果は,語彙範疇と機能範疇の使用頻度の差,という視点から説明される可能性を示した。
著者
辰巳 格
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.15-27, 2004-12-31 (Released:2017-08-31)

The most pervasive brain network model of spoken language processing is Wernicke-Lichtheim's classical view, which was revived by Geschwind in 1965 as the 'disconnexion' account. This has been established through various neuropsychological observations of language disorders of patients with aphasia, alexia and so on. The recent development of brain imaging techniques, e.g., PET (positron emission tomography), fMRI (functional MRI), MEG (magneto-encephalography) and NIRS (near infrared spectroscopy), has enabled us to directly investigate normal brain activities, and studies using these techniques challenge the disconnexion view. In this paper a brief summary of the classical view is given, and recent brain imaging studies are reviewed, primarily focused upon neural substrates of speech perception, the semantic system, phonological/phonetic encoding and motor programming.
著者
正木 信夫 辰巳 格 笹沼 澄子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.186-194, 1990
被引用文献数
2

発語失行症患者の発語における, 調音器官と発声器官の協調運動について検討した.純粋な症例1例と健常対照群の, [ai] および [amV] (V=a, e, i) で始まる平板型・尾高型アクセントの単語発話を発話試料とした. [ai] で始まる単語については, アクセント指令と第2拍 [i] の調音指令を, それぞれ基本周波数とフォルマント周波数から, 日本語の単語アクセント生成および調音運動生成の機能的モデルに基づいて推定した.発語失行症患者では, 発話速度が遅い場合にアクセント指令の調音指令に対する遅れが健常者に比べ著しく大きかった.また, [amV] で始まる単語の発話では, アクセント指令の, [m] の唇閉鎖時点に対する遅れが健常者に比べて大きかった.従来, 発語失行症患者の発話における調音器官同士の協調運動に異常が起こることは報告されてきた.しかし, 本研究の結果では協調運動の異常は調音器官同士ばかりでなく, 調音器官と発声器官の間にも起こりうることが示された.
著者
遠藤 教子 福迫 陽子 物井 寿子 辰巳 格 熊井 和子 河村 満 廣瀬 肇
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.129-136, 1986-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
10

一側性大脳半球病変における麻痺性 (運動障害性) 構音障害患者26例 (左大脳半球病変群14例, 右大脳半球病変群12例) および, 正常者13例の発話サンプルについて, 5名の評定者が, 聴覚印象に基づき評価した結果, 以下の知見が得られた.1) 今回対象とした麻痺性構音障害群における評価成績は, 正常群とは明らかに異なっており, 話しことばの障害があると判定されたが, 障害の程度は全般に軽度であった.2) 障害の特徴は, 仮性球麻痺と類似していたが, 重症度など異なる面もみられた.3) 障害側を比較すると, 概して左大脳半球病変群の方が重度の障害を示した.4) 病変の大きさと話しことばの重症度との関係は, 明らかではなかった.5) 従来, 大脳半球病変による麻痺性構音障害は, 病変が両側性の場合に出現するとされていたが, 今回の結果は一側性病変でも出現し得るということを示唆するものであった.
著者
福迫 陽子 遠藤 教子 紺野 加奈江 長谷川 和子 辰巳 格 正木 信夫 河村 満 塩田 純一 廣瀬 肇
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.209-217, 1990
被引用文献数
2 2

脳血管障害後の痙性麻痺性構音障害患者のうち, 2ヵ月以上言語訓練をうけた24例 (平均年齢61.6歳) の言語訓練後の話しことばの変化を聴覚印象法 (日本音声言語医学会検査法検討委員会による基準) を用いて評価し, 以下の結果を得た.<BR>(1) 0.5以上の評価点の低下 (改善) が認められた上位7項目は, 順に「明瞭度」「母音の誤り」「子音の誤り」「異常度」「発話の程度―遅い」「段々小さくなる」「抑揚に乏しい」であった.<BR>(2) 重症度 (異常度+明瞭度の和) は24例中16例, 約7割に何らかの改善が認められた.<BR>(3) 一方, 「音・音節がバラバラに聞こえる」「努力性」「速さの程度―遅い」などでは評価点の上昇 (悪化) も認められた.<BR>(4) 症状の変化は症例によって多様であった.
著者
辰巳 格
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.129-140, 2006 (Released:2007-07-25)
参考文献数
40

伝統的な言語観では,言語には文法ないし規則があるとする。英語の動詞活用たとえば過去形生成を例にとると,動詞の語幹末音素に応じて形態素⁄-t⁄, ⁄-d⁄, ⁄Id⁄を付加する (例:⁄luk⁄→⁄lukt⁄)。日本語の動詞活用は数十あるが,やはり規則がある。しかし,英語でも日本語でも規則の適用ができない例外的な動詞がある (例: ⁄giv⁄→⁄geiv⁄)。この場合には,頭の中の辞書が参照され,辞書からその動詞の過去形が引き出される。単語の読みも同様である。綴り→読みの規則があり,それに従って読みが出力される規則読み(“mint”→⁄mint⁄)がある。その一方で例外的な読みもあり,辞書を参照して読みが出力される ( “pint”→⁄paint⁄)。これらの機構のいずれが損傷されたかにより,規則動詞⁄規則綴りの障害,あるいは例外活用⁄例外綴りの障害が出現すると考える。  言語には規則も辞書もない,とする別の言語観もある。コネクショニストは,単語の音韻,意味,文字表象の 3層からなるニューラル·ネットワークを構築し,シミュレーション研究を行っている。この見方では,一見,規則と見えるものは,規則動詞の語尾のように同一パタンをくり返し学習することによって生じる般化である。例外活用では,単語の意味情報から単語の特定が行われ,その過去形が計算される。読みについても同じネットワークを用いる。動詞活用と読みの障害パタンは音韻表象,意味表象の障害により説明できるとする。  本稿では,言語に関する認知神経心理学の主要な 2つの説を紹介し,日本語の動詞活用と読みについて考え,こうした考えが発達性失読や特異的言語発達障害にも適用できることを示す。
著者
辰巳 格
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. TL, 思考と言語 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.316, pp.19-24, 2004-09-10
参考文献数
17
被引用文献数
1

成人の言語能力の加齢変化に関しては、知能研究が引用されることが多い。知能は、言語性知能と動作性知能とに大別され、言語性知能は、かなり高齢になるまで低下しないことが知られている。しかし、言語性知能は言葉を介する知識についての能力であり、必ずしも言語そのものの能力ではない。本発表では、成人の言語機能の加齢変化に関する研究を、失語症などの障害との比較も含めて紹介する。