著者
佐竹 真次 関戸 英紀 長崎 勤
出版者
山形県立保健医療大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究では、ダウン症児や自閉症児などの発達障害児へのスクリプトによるコミュニケーション指導の体系性と実用性を、スクリプト指導の系統性とターゲット言語行動の般化、スクリプト指導と学校教育の教育課程との関連性に焦点を合わせて実験・調査することにより明らかにした。佐竹、長崎、関戸をはじめ、多くの事例研究により、スクリプトの体系の、発達の経過にそった「継時的側面」については、乳幼児期の儀式化されたフォーマットに始まり、幼児期の日常生活スクリプト、ならびに、ごっこ遊びやゲームなどの構成されたスクリプト、児童期におけるそれらのレパートリーの拡大と支援の連携の拡大、さらに、自分の気持ちや意志などの内的状態を表現したり、他者の気持ちや意図や信念を理解し適切な応答を行うためのスクリプト、思春期以降における社会生活スクリプトなどへと発展していく筋道が明らかになった。それをターゲット言語行動から見ると、当初は、物の要求、行為の要求、教示要求、あいさつ、報告、感想などの実用的な言語行動が優先され、次に、身体の調子や自他の内的状態の叙述、時間・空間に関する叙述などの習得の方向へ発展していき、命題的な叙述や構文の洗練といった要請はあとになることが示された。一方、同時代の広がりである「共時的側面」については、教育現場で実際にスクリプトがよく利用されている日常生活指導や学級活動、調理学習などの領域と、利用される見込みは高いがあまり利用されていない生活単元学習や作業学習などの領域とが、宮崎による養護学校からの実践報告や、佐竹によるコミュニケーション指導に関する実践研究のレビューによって、相当程度明らかにされた。今後は、生活単元学習、作業学習、その他の領域における指導のスクリプト化に焦点を当てた実践研究の蓄積を目指していく必要がある。
著者
伊藤 英夫 佐竹 真次
出版者
広島国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本年度は、本研究の最終年度に当たる。ハードウェアの面では、シャープから業務用モバイルコンピュータ、コペルニクスRW-A230が開発され、本研究には大きな推進力となった。この機器は、8.4型、SVGA、TFTカラー液晶画面にタッチパネルを装着し、指で画面上の図形シンボルが選択可能で、Windows98上でソフトウェアを動かせることができ、キーボードやテンキーなど不要なものが全くなく、大きさは幅約238×奥行179×高さ約26(mm)、重さは約0.925kgと非常にコンパクトにできていて携帯には便利である。そこで本機を本研究のVOCAのハードウェアとして採用することにし、開発したVOCAのソフトを実際に動かしてみて、微調整を行った。最終的に開発したVOCAのソフトウェアは、画面上に約21×21mmの図形シンボルを3×6、計18個配置し、最下段に選択した図形シンボルが確認できる窓を設定した。起動するとメニュー画面が立ち上がり、名前、乗り物、場所、お店、行事、数字、果物、おやつ、料理、台所、生活、からだ、遊び、動作、気持ち、生き物、勉強、比べるの18カテゴリーからなっている。名詞が集められているカテゴリーでは、共通して対応する動詞を左上に配置し、利便性をはかった。地域におけるVOCAの活用に関する研究として、養護学校中学部3年に在籍する自閉症児を対象に研究を行い、地域のレストラン、ラーメンショップ、カフェテリアなどで、VOCAを用いて食事を注文する設定で行った。コミュニケーションボードで注文する際、お店の店員に伝わりにくかったことが、VOCAを使用することにより、スムースに注文することが可能となった。学校教育現場におけるVOCAの導入に関する研究では、石神井養護学校の水野聡教諭に研究協力者として参加してもらい、小学部4年の自閉症男児を対象としたケーススタディを行った。対象児は、VOCAを導入する前から、コミュニケーションボードによる指導を開始しており、ビッグマック(簡易VOCA)も直前から導入していた。その結果、学習の終わりに報告する「できました」の使用は比較的スムースに学習でき、ほかに「おはよう」「さようなら」「いただきます」「ごちそうさま」「せんせい」を現在使用している。学校教育現場では、個別にVOCAの練習だけに時間を割くことができず、使用頻度や練習回数が少ないため、VOCAの語彙数の増加になかなかつながらなかった。専門機関や家庭との連携が重要であることが示唆された。